「へ…、やったな…?やりやがったな…?ぬらりひょんの孫がよ…。オレをズタボロにしやがった…。あんときとおなじように。くくく…、アホめが…テメーはもうしまいじゃー!てめーはオレがどういう妖怪か知らずに攻撃しやがった!!」
「!?なんだと・・・?」
ヒャハハハハハと不気味に笑う犬神に、リクオの護衛たちは身構えた。
「俺は・・・俺はよぉ―――‘恨めば恨むほど・・・強くなる妖怪’なんぜよ・・・」
そうは言ったものの、犬神は焦っていた。
いくら時間を稼いでも、全く首は飛ぶ気配がない―――・・・。
いつもならもう―――。
「オラッ…飛べよ…っ、首がっ…!なんで…おい…なんで変化しねぇ―――――――!?」
犬神が叫んだその時。
「――――‘野生なるものがみずからあわれむのを、わたしは見たことがない’」
凛、とした女の声が響き渡った。
と同時に、照明が消え体育館中が深い暗闇に包まれる。
「な・・・なんだよ、これ・・・!?」
犬神はあたりを見渡すが、真っ暗でなにも見えない。
コツ、コツ、という足音がシン・・・となった体育館中に響き渡る。
「‘小鳥は凍え死に枝から落ちようとも―――’」
歩を進めるごとに変化していくその姿。「――‘自分をみじめだとはけっして思わないもの’」
やがて歩みを止める頃には、真の姿で彼女は犬神の前に立っていた。
「全く。本当にお前には失望したよ――――犬神」
「こ、瑚々・・・」
こちらを見下ろすその目を見て、犬神は背筋が凍った。
敵にしか見せたことがない、氷のように冷たい目。
闇の中でもその紫色の瞳はギラギラと輝いていた。
「いくらお前でも、部下一人は殺せると思っていたけれど・・・どうやら私は買いかぶっていたみたいだね」
「ちょ・・・ちょっと待てよ!瑚々!」
犬神は慌てて瑚々の腕をとった。「俺はまだ・・・」
その時、犬神の肩を誰かが掴んだ。
はっとして振り返るとそこには・・・。
「た・・・・玉章・・・・・!?」
隠神刑部狸、玉章は応えるように笑みを浮かべた。だがその目は笑っていない。
「間に合ったみたいね」瑚々がにこりと微笑む。「先にはじめてるところだったわ」
「渋滞につかまってね」と玉章が笑った。
そしてぞっとするほど冷たい視線を犬神に向けた。
「失敗したんだね。バカな犬神…残念だよ。君は―――君の能力は―――人を呪い恨み強くなる。なのに―――君は恨む相手を畏れてしまったようだ。恨みが畏れに変わったら君はもはや…役立たずに…なる」
「な…何言ってんだ?玉章…そんなこと言うなよ!!オレを認めてくれたのはお前じゃねぇか!そうだろ!?なぁ、オレはまだやれる!!」
すがりついてくる犬神に、玉章は冷たくせせら笑った。
「――――主人のものに手を出す犬を、そう簡単に信用できると思うか?」
その言葉に、犬神は目を見開いた。「・・・・え」
玉章の目は氷のように冷たい。「君が瑚々に向けている視線を―――僕が気付いていないと思ったか?ボクを欺けることができて君たち二人が一緒になれると本気で信じていたのか?」
その見覚えのある意味深な笑みに、犬神ははっとした。
まさか・・・・・。
後ろを振り返り、呆然とした目で薄ら笑いを浮かべている彼女を見つめる。
「瑚々・・・お前・・・・・・・俺を・・・騙したのか?」
案の定彼女が笑うのを見て、犬神は愕然とした。
そんな・・・そんな・・・そんな!
頭の中が真っ白になり、世界がくるくる回り始める。
恐怖と絶望でガタガタと震えている犬神を見て、彼女はすっと目を細めた。「――――本当に、‘私’を分かっていないね、犬神」
彼女は膝をついて、犬神に視線を合わせた。その輝く瞳を見て、犬神は心臓を貫かれた気がした。
「勘違いしているようだけど私は慰めてほしいとか、苦痛を紛らわしてほしいとか、そういうことを玉章に期待してるんじゃないの。彼に利用してほしいのよ。玉章は私の全て。生きる目的。彼の願いが私の願い。そして彼が―――私自身なの」
そう言って彼女は首を傾け、犬神の顔を覗き込んだ。「――――――私は未来永劫玉章のものなのよ、犬神」
彼女の強烈な告白を犬神は黙って聞いていた。怒りは遠のいて行った。遥か彼方へ。
いや、怒りなんて本当に感じていたのだろうか?犬神にはそんなふうには思えなかった。
「瑚々、あまり時間を無駄にするな」
近づきすぎている二人を見て、玉章が苛立った声を上げた。
「仰せのままに」にこりと微笑んで、彼女は立ち上がり、玉章のそばに身を寄せた。
犬神は顔を上げ、瑚々と玉章を見つめた。
お互いに身を寄せ合うその姿は、まさに完璧だった。
二人は一つ。一人一人がなくてはならない存在――――犬神に、この二人を引き離すことなど、できない。
愕然と立ち尽くす犬神に、玉章は不敵な笑みを浮かべながら手をかざした。
「散れ、カス犬」
しかしその時パチンと指を鳴らす音がして、犬神の体が一瞬のうちに業火に包まれた。
玉章は振り返り、すっと目を細めた。「・・・・相変わらずお前は自己中心的だな、瑚々」
「この方が華やかでしょ」瑚々は微笑んだが、その笑みはすぐに消えた。「私の体に触れた罪は重いわ」
犬神は悲鳴を上げない―――――煙に器官が潰されていて、声を上げることができないのだ。
だがその目は、じっと彼女を見つめていた。
憎くて、憎くて―――それでも、犬神は今この時も、彼女を愛していた。
犬神が消える前に、彼女はゆるりと妖艶に微笑んだ。
「バイバイ、犬神」
別れ
あとがき:この章作成するの約一週間かかりました(笑)
瑚々が言っている「野生なるものが・・・・」の部分はD.Hローレンスが書いた「自己憐憫」っていう詩です。
野生なるもの、つまり犬神ですね・・・あー複雑な心情。
この章には実はまだ裏がありまして。四国編が終了したら書く予定です^^
今回まぁ、かなりビッチなCocoでしたが、裏盤では・・・みたいな。
心持、柳田と彼女を絡ませたい!あと山ン本とも!
百物語組をぐちゃぐちゃにするCocoの姿が目に浮かぶ(笑)
わくわく♪


