浮世絵町に立つ巨大なビルの吹き抜けロビー・・・。


一階には四国から駆け付けた大勢の妖怪たちが集まっていた。


「玉章ィ――」


「来たぞぉ―――」


「本当にぃ―――!?ワシら・・・この街でやっていけんのかい」


「天下とるんだよな―――」


その声に応えるように、奥から四国八十八鬼夜行の幹部たちが姿を現した。


針女、手洗い鬼、犬鳳凰、夜雀、崖涯小僧、そして―――玉章。


その姿を見て、ますます歓声が上がる。


「うおおおおお」


「針女やーい」


「手洗い鬼―――オレだ―――」



「すっごいねぇ――見たことない妖怪ばかりだ」


周りの妖怪たちをきょろきょろ見渡しながら狸に化けた馬頭丸は声を上げた。


「ふん・・・当たり前だろ」


面喰っている馬頭丸を馬鹿にするように牛頭丸は鼻を鳴らした。

「どいつもこいつも・・・田舎くせぇ妖怪じゃねぇか」




‘四国八十八鬼夜行増援に乗じて、敵陣に潜入せよ’


前日の夜、奴良組若頭、リクオ(牛鬼)の命で密偵を頼まれた二人はしぶしぶながらこうして変装をし、敵陣の中へ紛れ込んでいた。


調べることは二つ―――敵の「次の手」と「戦力」だ。


「・・・にしてもすんごいビルだね~いつ作ったんだろ?」


「ケッ。狸の妖怪なんだろ?どーせ幻術か何かだろーよ」


そう言って牛頭丸は上階のバルコニーで手を振ってる玉章を見上げた。


「へっ。あれが大将?なんだ・・・ガキじゃーねーか」


不敵な笑みを浮かべる牛頭丸をじーっと馬頭丸は見つめた。


「牛頭丸~~~~~ゥ!?今・・・・何考えてた~~~~~?‘隙あらばあの大将の首’・・・って思ってただろ!!」


馬頭丸が牛頭丸を必死で注意していたその時、辺りがシン・・・と静まりかえった。


「なんだ・・・?」


訝しげに顔を上げると、玉章の横に、一人の女が姿を現した。


黒衣のドレス。艶やかなブルネットの髪。ヴェールで隠していても輝きを放つ紫色の瞳。


「諸君、初めに紹介しよう」


玉章は女の肩を抱き寄せた。


「彼女こそが我が花嫁・・・瑚々だ」


少女がヴェールを外すと、驚くほど愛らしい顔が露わになった。


あまりの美しさに妖怪でも息を飲んだ―――しかし、何より周りを魅了したのは・・・。

(なんつー妖気を放つんだ・・・あの女)


牛頭丸の額からジワリと汗が噴き出した。


あまりの妖気に周りにいたひ弱な妖怪たちが何人か倒れた。


牛頭丸や馬頭丸でさえも立っているのがやっとだ。

(あれが・・・例の‘花嫁’かよ・・・)



と、その時少女の視線が牛頭丸と馬頭丸に止まった。


「っ・・・!やっべ・・・」

馬頭丸と牛頭丸は慌てて狸の皮を被った。


(ばれた・・・か?)


恐る恐る目を上げると、彼女はすでに違う方向に視線を向けていた。


「・・・セーフみたいだね」


隣で馬頭丸が囁く。心底ほっとしているようだ。


「あれが・・・例の花嫁だろ?本当に人間なのかな?」


「知るかよ」


そう言って、牛頭丸は自分の手を見下ろした。


その手が震えているのを見て、小さく舌打ちする。


(ちくしょう・・・あんな人間の女に・・・)






―――上階、バルコニー



「玉章」


視線を前に向けたまま、瑚々はあまり口を動かさないように小さな声で囁いた。


「鼠が2匹、紛れ込んでるわ」


そう言って、ちらりと狸の皮を被った奇妙な二人組に目を向ける。


本人たちはやり過ごしたと思っているようだが、瑚々はすぐに彼らがよそ者だと分かった。


四国妖怪特有の匂いと、妖気の色が全く違うのだ。


「ほう・・・」玉章の口元が不敵に弧を描く。「奴良組か?」


「おそらく」


玉章は刀の柄を指で叩いた。「殺すか?」


「いいえ、まだ駄目よ」


瑚々はゆるりと微笑んだ。「泳がせてやりましょうよ。前奏の前の余興も、悪くはないわ」


その言葉に、玉章が満足げな笑みを浮かべる。「確かにな」


二人は頬笑み合い、ゆっくりと唇を重ねた。




余興




















―――――四国八十八鬼夜行本拠地、松山の山口霊神堂。



「ムムム・・・ムチ・・・?そ・・・それで来たのか・・・アンタ・・・」


狒々がムチという妖怪に殺されたという話をすると、隠神刑部狸はガタガタ震えはじめた。


そのただならぬ様子にぬらりひょんは目を丸くした。


だが隠神刑部狸が気にとめた様子はない。「あの・・・バカ息子どもめが!!人間の娘にたぶらかされよって!!」


喚き散らす隠神刑部狸の言葉に、ぬらりひょんは眉を寄せた。「人間の娘・・・?」


最初隠神刑部狸ははぁはぁと息を荒げていたが、しばらくしてようやく溜息をついた。


「・・・あの馬鹿息子が10年前に拾ってきた人間の娘よ・・・。生まれながらに妖の力を持った娘」


「人間が妖の力を?」ぬらりひょんが驚いて目を見開くと、隠神刑部狸は頷いた。


「奇怪に聞こえるだろうが、本当じゃ。あの子とは一度しか会ったことがないが、あの凄ましい妖力・・・!大妖怪のワシでも立ち尽くしてしまった・・・。だが、それ以上にワシが感じたのは、なんだと思う?」


ぬらりひょんが黙っていると、隠神刑部狸は続けた。「狂気じゃよ。全てのものを支配しようとする狂気。何もかもあの娘の赴くままに事が運ぶ。全てが計画されていたかのようにな。玉章も彼女と出会って以来変わってしまった・・・。馬鹿息子が本当に変わる前に、と時を見計らって、あの娘を殺そうと思ったほどじゃ」


「だが、殺さなかった」ぬらりひょんが指摘すると、隠神刑部狸は哀しげに苦笑した。


「ああ・・・おかしなものよのう・・・。昔なら、躊躇わず切っていただろうが―――あろうことか、あの馬鹿息子が何かに情を抱いたのは、あの娘が‘初めて’じゃった。たとえ、あの娘がどんな化けの皮を被っていようがあいつのあんな顔を見たのは、今まで一度もなかった。そして思ったのじゃ・・・‘親なら、息子の幸せを重んじようと’―――」


そう言った隠神刑部狸の表情は、大妖怪ではなくまさに思いやりにあふれた父親のそれだった。


しばらくして、首を振る。「おそらく、玉章をうまく言いくるめたのであろうな。あの娘ならやりかねん」


ぬらりひょんはすっと目を細めた。「・・・・その娘の名は?」



隠神刑部狸は顔を上げ、ぬらりひょんを見据えた。「本名は分からぬが・・・瑚々と名乗っておった。またの名を――――血塗られた花嫁」




動き始める影






あとがき:隠神刑部狸けっこー好き。息子想いっぽいし。


隠神刑部狸とCocoの初めて会った時の番外編書きたいな。あと、その後。


楽しみ♪


「さて、と」


振り返り、彼女と玉章は顔を見合わせて微笑んだ。赤々と燃えあがる炎が影をつくり、玉章と瑚々の姿を舞台に色濃く映し出していた。


「―――お前ら、今その犬を・・・」


後ろで部下たちを引きつれているリクオの姿を見て、瑚々はゆるりと笑みを浮かべた。「ああ・・・これはこれは若き総大将殿。この姿でもう一度お会いできて、嬉しいわ」


と優雅にお辞儀する。「でもこの姿の方がお好きかしら?」


そう言って彼女が顔の前に手をかざすと、その姿はあの望月瞳のものに変わった。


リクオの目が大きく見開かれる。


「――――とんだ雌猫だな」と不敵に笑って見せる。


「お誉めの言葉として受け取っておくわ」そう言ってにこりと微笑む姿はまるで魔性だ。


「でもまぁ・・・そんな立派な姿になるなんてねぇ・・・」


瑚々の口元にぞっとするような笑みが浮かび、リクオたちはとっさに身構えた。


彼女はふん、と鼻を鳴らし流れるような動きで、玉章の肩に腕を回した。


「ねぇ、玉章・・・。今の彼になら―――あなたが名乗るのにふさわしいんじゃない?」


玉章は首を回し、瑚々と顔を見合わせた。「奇遇だな。僕も同じことを考えていた」


そう言って顔を上げ、不敵な笑みを浮かべる。「だけど―――こんな姿じゃ説得力がないね」


ふわりと玉章の手に玉章(たまずさ)の葉が浮かび上がり、二人を包み込む。


「僕は――――四国八十八鬼夜行を束ねる者。そして、八十八狸の長を父に―――持つ者」


風が舞い、玉章の姿が長髪の歌舞伎の仮面をした本来のものに変わっていく。


その姿を見て、瑚々は満足げな笑みを浮かべる。


「妖怪・隠神刑部狸 名を―――玉章。君の畏れを奪い、僕の八十八鬼夜行に並ばせてやろう」


「・・・それはこっちの台詞だぜ・・・豆狸」


「それでは」


玉章は瑚々を抱き寄せた。「さらばなり。また会おう」


「次は・・・」玉章の腕に抱かれながら瑚々は不敵に笑った。「あんたに絶望を―――味あわせてあげる」


そう言い残し、二人の姿は闇に消えた。





宣戦布告






あとがき:なんか玉章がメインっぽくなーい!


まぁ、これはシリーズだから汗


内容薄くてもいいよね。