「アリスと協定を?」

次の日、WC会場の裏ではキセキの世代の黄瀬、緑間、紫原、青峰そして黒子が集まっていた。

しかし、呼び出した張本人、赤司の姿はまだない。

黒子が昨日アリスと交わした‘協定’について話すと四人は驚いたように目を見開いた。

「ったく…めんどくせー奴が帰ってきたもんだぜ」話を聞き終えると、青峰が舌打ちした。「よりによってこんな時に…」

「相変わらずわけの分からない女なのだよ」緑間がイライラとため息をつく。「何をしでかすか分からん」

「アリスの場合、何してもおかしくないっすよ、緑間っち」と黄瀬。「俺ら全員憎まれてるし」

「でもさーアリスがムカついてんのは赤司だけじゃないのー?」菓子を頬張りながら、紫原が眉を潜める。「なのになんで俺たちまであたりがくるわけ?」

「それは彼女がゲームをしたがっているからだ、敦」

突然背後から聞こえた声に5人が振り返ると、赤司 征十郎が階段の上からこちらを見下ろしていた。

「待たせてすまない」

そう言いながら、階段を一段ずつ降りてくる。自分の幼馴染が戻ってきても、その目は相変わらず感情を映さない。

紫原は眉を上げた。「ゲームって?」

「一度も負けたことがない僕たちを屈辱的に敗北させるゲーム」黒子にちらっと視線を向ける。「黒子を勝たせるためなら、どんなことでもするだろう」

「…で、その対処は?」と緑間。

赤司は肩をすくめた。「お前たちは何も心配せずにプレイしろ」

含みのある言葉に黒子は目を細めた。「きみはどうするんですか、赤司くん」

「僕は …」

赤司が全員を見据える。

背筋が凍るような冷たい視線に、五人は思わず息を呑んだ。

「彼女を止める」

もし彼女が彼女でなかったら、火神は力づくでナイフを奪っていただろう。

だがその瞳に何の躊躇いもないのを見て、彼女が本気だと分かった。


黒子は一歩彼女に近づいた。「アリス…やめてください」

「それはあなたの選択次第」彼女はカントクの首にナイフの刃先をより強く押し付けた。皮膚が裂け、赤い血が首筋を伝う。

恐怖に目を見開くカントクを見て黒子は拳を握りしめた。

「どうするの、テツヤ」

甘ったるい声で彼女が促す。「待つのは嫌いよ」

「てめぇ…!」

我慢の限界にきた火神が彼女に殴りかかろうとしたが、黒子が手で制した。

「…分かりました」

唖然とする火神とカントクを無視し、黒子は静かな声で言った。

彼女の大きな目が嬉しそうに見開かれる。

黒子はため息をついた。「君の好きなようにすればいい。どちらにせよ、僕たちは負けませんから」

「それでいいわ」彼女はにっこり笑ってカントクの首からナイフを離した。

「あなた…イカレてるわ」

肩越しに振り返ったカントクが吐き捨てるように言い放ったが、彼女は平然としていた。

「この協定は絶対よ。分かってるわよね?」

ナイフを指でなぞりながら、彼女は眉を上げた。

黒子は肩をすくめた。「きみのことをよく知っているので」

彼女は満足そうに微笑んだ。

「もし…」

彼女の視線が火神に移る。「もし、俺たちが負けたら…どうする気だ?」

「その時はもう一度ここに来るわ」

彼女は火神を見据えた。もう口元に笑みはない。「次は…容赦しない」

戦慄が走る中、彼女はくるりと三人に背を向けた。

入口付近でふと足を止め、肩越しに振り返る。

「明日が楽しみね」

そう言って、ぞっとするような笑みを浮かべてみせた。


「それは…復讐のためですか?」

黒子は落ち着いた声で尋ねた。聞かなくても彼女が誰のことを言っているのかは分かっていた。

応える代わりにアリスは甘い微笑を浮かべる。

黒子はため息をついた。「…僕にも復讐するために戻ってきたんじゃないんですか」

彼女は肩をすくめた。「そのつもりだったけど、気が変わったの」

「どうして僕を?」

「だって、その方が面白いでしょ?」彼女の顔が熱っぽく輝く。「一度も負けたことがない彼が、一番最弱のあなたに負けるなんて」笑みが大きくなり完璧な歯が覗いた。これほど美しく、寒気がする微笑は見たことがない。
「あの人がどうなるか見ものだと思わない?」

「あんたさっきから何を…」

「今は」彼女は冷ややかな視線を火神に向けた。「テツヤと話してるの」

「火神君。彼女に逆らわないでください。でも言いたいことは分かります」

黒子は彼女を見据えた。「僕はきみの復讐の駒になるつもりはない」

アリスは目を細めた。「断るっていうの?」

「僕たちは、僕たちの目的で勝つ」黒子ははっきりと言った。「きみに利用される権利はない」

僕に復讐したいなら、復讐すればいい。

そう言う黒子を彼女はじっと見つめた。

「あくまでも、私に逆らうのね…?」彼女は囁くように言った。

その瞳がキラリと輝くのを見て、黒子はハッとした。

次の瞬間彼女は驚く早さでカントクを引き寄せ、その首筋に隠しもっていたナイフを突きつけた。

驚愕する三人に、彼女は冷笑を浮かべ、首を傾げた。

「まさかの展開ね」