「…彼女が何を企んでいるにせよ」

しばらくして赤司が口を開いた。「今は試合に集中しよう。彼女が何か仕掛けてきたら、その時に対処すればいい」

「黒ちん」

6人がバラバラに解散しようとした時、紫原が黒子を呼び止めた。

何を言いたいのか分かっていたが、黒子は紫原を見上げた。「何ですか」

「アリスがバックにいるからって、俺は手加減しねーよ」冷ややかに言う。「徹底的にひねりつぶすから」

黒子は肩をすくめた。「当たり前です。それに…」

一旦言葉を切る。

「アリスもそう望んでいると思います」





「やっと見つけたぞ、敦」

6人が振り返ると氷室辰也が息を切らしながらこちらを見つめていた。

紫原は眉を上げた。「なんで室ちん俺の居場所分かったの?」

「とある女の子に聞いたんだよ」

そう言いながら、氷室は頬を赤らめた。

「女?」すかさず紫原が尋ねた。赤司がピクリと反応する。

「どんな?」

「ブロンドで、右目がゴールドで左目がブルーの綺麗な女の子だけど」

珍しく動揺している紫原に面食らいながら答える。

青峰が舌打ちした。「アリスだ」

「ディヴイット・ボウイが好きだったッスよね、昔から」うんざりとしたように黄瀬が言った。

「…室ちん何かされた?」

「いや、ぶつかっただけで何も…」

ポケットに手を突っ込み、言葉を切る。「…携帯がない」

「やられたな」

緑間がちらりと赤司を見る。「先手を打たれた」

その時、黒子の携帯が鳴った。

全員の視線が集まる。

赤司を見ると、彼は頷いた。

黒子は深呼吸をして電話をとった。

「もしもし」

「「あの優男君のシュートは厄介だけど、大したことないわ」」

電話越しに聞こえてくる甘い声。「「あなたのパートナーに対抗心があるようだけど、実力は彼の方が上よ」」

黒子はため息をついた。「…人の携帯盗んでおいて何言ってるんですか」

「「だって、こうしないと接触できないでしょう?」」彼女は明るく言った。「「それに、楽しいじゃない」」

「…赤司君がそばにいるのを分かってて電話をしたんですか」黒子が静かに言う。

沈黙。

彼女の興奮した息づかいが聞こえてくる。

「……彼に伝えて」囁くような声。

「このゲームに勝つのは…私よ」

そう言って、電話は切られた。

黒子はため息をつき、5人を見た。

「アリスは何か企んでます」





電話を切ると、彼女は口元に大きな笑みを浮かべた。


その手には、福田総合学園バスケ部の名簿が握り締められていた。



「全く…敦のヤツ、どこにいるんだ」

陽泉高校バスケ部、氷室辰也は会場中を走り回りながらキセキの世代の一人でチームメイトである紫原敦を探していた。

先ほどチラッと対戦相手である誠凛高校のバスケ部とすれ違ったが、彼らも同じくキセキの世代の黒子テツヤを探していた。

氷室は舌打ちした。

あと10分で試合が始まるのに…一体どこにいるんだ?

と、その時角を曲がってきたブロンドの少女に思いっきりぶつかってしまった。

小さく悲鳴を上げてバランスを崩しかけた彼女をどうにか抱きとめる。「ごめん、大丈夫?」

「え、ええ。こちらこそごめんなさい」

そう言って少女は顔を上げた。

その目を見て思わずドキリとする。

瞳は左右違う色で、右はゴールド、左は濃いブルーだった。

目が覚めるような美人で、これほど引きつけられる子は初めてだ。

ぽかんと口を開けていると少女は怪訝そうに眉を寄せた。「あの…?」

「あ、すまない」

慌てて身体を離し、頬を赤らめる。「人を探していて…前を見てなかった」

「いいのよ」彼女は微笑した。「それじゃ…」

「あのさ、紫色の髪をした選手見なかったかい?」

慌ててユニフォームを指差す。「うちの選手なんだけど」

「ああ、彼なら会場の裏にいたわよ」

「よかった。ありがとう。それと…」

少女は面白そうに首を傾げた。「何?」

「アドレス、教えてもらえる?」

ようやくそう言うと、彼女はクスクス笑った。

「多分、その必要はないとおもうわ」

「え…」

「また会いましょう」

少女は意味深にウィンクした。「その時に教えてあげるわ」

呆然と立ち尽くす氷室を残し、彼女はちょうど着いたエレベーターに乗り込んだ。

「じゃあね」

氷室が何か言いかける前に、エレベーターは彼女を乗せ下へ向かって行った。





彼女は手を上げ、ブロンドのウィッグを頭から外した。

「楽勝ね」

そう言って、先ほどぶつかった際抜き取った氷室の携帯を取り出す。

「まだゲームは始まったばかりよ」

アリスは口元に大きな笑みを浮かべた。