「誰だ、テメーは!?今すぐ放せよ、オイ!」

「ああ?ってお?お前…さっきアツシに勝った奴じゃん」唖然とする火神に向かって男はニヤリと笑いかけた。「見てたぜ…けっこうやんな…」

「やめろ!!」今にも殴りかかろうとする火神を氷室が手で制した。「手を出すな!問題になるのはお前だけじゃないぞ!」

「なんで…何があったんだんだよ一体…」


ことの始まりは五分前…。

「すまない、アレックス。俺はあの時…」

「気にするな。試合前に選手が気が立っているなんてよくあることだろ」

試合後。

会場裏で謝る氷室をアレックスが優しく宥めた。「いい試合だったよ。わざわざ日本まで見にきたかいがあった」

と、その時。

「あれぇ?お前さっき試合出てた奴?」

突然背後から聞こえてきた声に振り返ると選手と思われる背の高い男がにやにや笑いながら近づいてきた。氷室の顔を見ると、ますますその笑みが大きくなった。

「…やっぱり!近くでみるとやっぱ負け犬ってツラしてんな」

「ちょっと聞き捨てならねーな」男の暴言にアレックスは目を細めた。「誰だお前」

だが男はアレックスの話を聞いておらず、代わりに、その豊満な胸をまじまじと見つめた。

信じられないと言わんばかりに目を丸くする。「うぇぇーマジで?!そんなカスがそんないい女に慰められてんの?カンベンしてよ!」そう言って、アレックスの肩に馴れ馴れしく腕を回した。「番号教えてよ!こんどどっか遊びにいこーぜ!」

「ふざけんな!気安くさわんじゃねーよ!」

「やめろ。用があるならオレが聞く」

見兼ねた氷室が冷たく言うと、男はギロリと彼を睨んだ。「今なんか言った?」

その瞬間男の拳が氷室の顔をめがけて飛んできた。

反射的に避けたが、次にきた蹴りを思いっきり腹部に受けてしまった。

「タツヤ!」

うずくまる氷室に駆け寄るアレックス。

だが男の力強い手に首を掴まれて…。




「…なんだよ、それ…」
氷室が説明すると、火神は信じられない思いで目の前の男を見つめた。「そんな気まぐれみたいことでバスケ選手が人をなぐっていいのかよ?!」

男は動じた様子もなく火神や氷室を見ながら挑戦的に笑っている。

と、その時一つのボールが男の顔面に向かって飛んできた。

だが男は顔色を変えることなくバチィと激しい音を立てながら顔にぶつかる前にボールを素手で受け止めた。

「オイオイ。いきなりおれにボールを投げつけるなんていーい度胸だな」

ボールを離し、眉をあげる。「リョータぁ」

「黄瀬?!」

火神は男を睨みつけているキセキの世代の一人、黄瀬涼太を見て目を丸くした。

「お前…まさかあいつと知り合いなのか?!」

「まぁ…そッスね」

歯切れ悪く答えて黄瀬は肩をすくめた。「名前は灰崎。帝光でオレが入部する前までスタメンだった奴ッスよ。そして…」

「そして、彼にバスケ部を強制退部させられた選手よ」

突然聞こえてきた甘美な声。

その瞬間二人の体が強張る。

火神はゆっくりと息を吐き出し、黄瀬は振りかえった。

「…久しぶりッスーーーアリス」
紫原と黒子の試合が始まったちょうどその時、赤司の携帯がポケットの中で振動した。

携帯を開け、画面を見る。

《私が恋しい?》

知らないアドレスからだったが、相手は誰か分かっていた。

赤司はしばらく画面を見つめたが、返信もせずパチンと携帯を閉じた。

「誰から?」

チームメイトの実渕が興味津々に尋ねた。「もしかして恋人?」と冗談交じりに冷やかす。

「…いや」


赤司は携帯をポケットに戻した。


「赤の他人だ」
「あの女が試合を妨害してくるってことはねぇーのか?」

試合直前、バッシュの靴紐を結びながら火神が尋ねた。

あの衝撃的な出会いから、火神は彼女を あの女 と呼ぶようになっていた。

黒子は肩をすくめた。「それはないと思います。アリスは僕と同じで表舞台には出ません。妨害するとするなら試合後でしょうね」

「試合後、か…」

火神は苛立しげにため息をついた。「ったく、あの女のせいで試合に集中できねぇ」

「それが彼女の手ですから」

淡々という黒子に、火神は呆れたように目をぐるりと回した。「…お前にしろ、他の奴らにしろ、よくあんな女に我慢できたな」

「まぁ、彼女のことは好きでしたから」

黒子の言葉に火神は目を丸くした。「…は?」

「皆彼女のことが好きだったんです。性格はああですけど僕たちのためーー特に赤司君のためーーに全力を尽くしてくれた人ですから。でも」

黒子は神経を張り詰めている紫原を見やった。



「敵に回したら…厄介です」