陽が沈みかける頃…
ヨウコさんのお気に入りのレストランについた
レストランは港に隣接したヨットハーバーの敷地内にあった
店の名前は、"ブルーモーメント"
料理はイタリアンがメイン
席に案内される前にディナーコースをオーダーして
運良く窓際の席に座ることができた
窓の外は雲がオレンジ色に変わっていた
ヨウコさん
「ちょうどいいタイミングに来れたナ!」
オレ
「ウン!夕焼け雲がイイカンジだね。」
ヨウコさん
「今の時間もいいカンジだけど…れいじクン、このお店の名前の意味知ってる?」
オレ
「えっ?"ブルーモーメント" の意味ですか?知らないです。」
ヨウコさん
「もう少しすればわかるカナ…ワタシね…このお店は特別な人とだけ来ることにしてるの…」
オレ
「特別な人?…家族とか?…」
ヨウコさん
「そうね…もちろん、トシヒコとも来たことあるよ…」
トシヒコの名前を聞いても罪悪感が湧かない…
むしろ胸が少し苦しくなる…
この感覚はなんだろう…
でも…オレはヨウコさんにとって…
"特別な人" なんだ…
今度はふわっとした気持ちになった…
アンティパストの生ハムといちぢくのサラダが運ばれてきた
生ハムの塩気といちぢくの甘さが合わさってとても美味しい
車で来ていなければ白ワインを飲みたいところだ
ヨウコさん
「ほら外見て!れいじクン!」
水平線はわずかにオレンジ色の帯を残しているが
水平線の上の空の色は水色から青色に変わっていく…
空は上にいくほど青から藍色に変わっていくところだった…
空一面が全ての種類の青色に包まれているようだ
ヨウコさん
「このひと時の景色が "ブルーモーメント" って言うのよ。とってもキレイでしょ!ワタシこの時間がスゴく気に入ってるの。」
オレ
「ホントにキレイですね!夕陽が沈んだあとの空の色をこんなにじっくり見たことなかったです。」
ヨウコさん
「…この空見てると…このまま消えたくなっちゃうナ…」
ヨウコさんは頬杖ついて窓の外を見ながらそう呟いた…
オレ
「…ヨウコさん…どうかしましたか?」
ヨウコさん
「ううん、なんでもないよ…この生ハムといちぢくのサラダ、すごく美味しいね!」
運ばれてきた料理はとても美味しい…
いつしか二人の会話はまた学生時代の話になり
思い出話しに花が咲いて盛り上がった…
レストランを出るころには空に星が出ていた…
二人の住む場所に帰るため
海岸線沿いのバイパスを東に車を走らせる…
夢から現実に戻ろうとしている…
二人とも無口になっていたが
手だけは繋いでいた…
バイパスを降りたらヨウコさんの家まであと30分だ
信号待ちをしていた時、オレの携帯電話が鳴った
妻のユミからだ…
近くのコンビニに車を入れたら電話が切れてしまった
オレ
「ヨウコさん、オレ、チョット電話しなきゃいけないんで…」
ヨウコさん
「電話は奥さんからでしょ?早くかけ直さなきゃ。ワタシはコンビニで飲み物買ってくるよ!」
オレはコンビニの角に立ち、妻のユミへ電話した
オレ
「電話でれなくてゴメン!運転中だったんだ。」
ユミ
「そうなんだ…今日は暑かったね。そっちはどう?」
オレ
「暑かったよ。ユミは調子どう?」
ユミ
「変わらないよ。れいじは今ドコにいるの?」
オレ
「コンビニだよ。雑誌と明日の朝ゴハン買いに来たんだよ。」
ユミ
「ふーん…そうなんだ…れいじは今日ナニしてたの?」
オレ
「今日?午前中洗車して、ファミレスで昼ゴハン食べて、午後はホームセンターに買い物行って…」
ユミ
「ふーん…そーなんだ…」
オレ
「ユミ、どうしたの?」
ユミ
「最近、顔見てないから…すぐに来れる距離じゃないけど…やっぱりれいじの顔が見たい…」
オレ
「そうか…先月にそっち行ってもうひと月たつよな…じゃあ…お盆休み前に一度そっちに行こうカナ。」
ユミ
「ホント!でも大丈夫なの?」
オレ
「ウン。なんとかするよ!オレもユミの顔見たいし、お義父さんとお義母さんにもまたお礼しなきゃね。」
ユミ
「ムリしないでね…れいじ…わたしのコト…愛してる?」
オレ
「当たり前じゃないか。」
ユミ
「ちゃんと愛してる!って言って!」
オレ
「ユミ、愛してるよ。」
ユミ
「ありがとう。わたしもれいじのこと凄く愛してるよ!じゃあ、身体に気をつけてね。おやすみ。」
オレ
「うん、おやすみ。」
!!!
携帯電話を切ったオレの頬に冷たいナニかがくっついた…
とっさに振り替えるとそこには缶コーヒーを持ったヨウコさんが立っていた…