ヨウコさんは車の外を見ながら話しだした…


れいじクンも知ってるでしょ…ワタシとトシヒコとは大学生の頃から、くっついたり、離れたり…ワタシと付き合ってるのにトシヒコには別の女の子ができて…ワタシから離れていって…でも、女の子と別れるとワタシのところに戻ってきて…トシヒコは戻ってきてくれるけど…やっぱりいつも不安だったの…

二人とも社会人になってからもそういう関係に変わりはなかった…20代後半になって…これからもトシヒコと続いていくのカナって考えていたら…思いがけずトシヒコからプロポーズされて…ビックリして…トシヒコから、"オレの人生にはオマエしかいない!フラフラしてたけどやっぱりオマエのところしか戻るところはない!オレと結婚してくれ!" って言われて…やっと誰にも邪魔されずトシヒコと二人きりになれる!ワタシだけのトシヒコになってくれた!…嬉しくて、楽しくて、幸せで…

結婚してもトシヒコは相変わらず忙しくて、全国をあちこち出張してて…月の3分の1ぐらいしか家にいない…トシヒコの留守中は淋しいけど、ワタシはトシヒコの奥さんなんだから、トシヒコのいない間は家のコトちゃんとしなきゃって思ってたの…

ある日、出張から帰ってきたトシヒコのワイシャツを洗濯しようとしたら、ワイシャツの襟に少し口紅がついてた…アレ?…洗濯してもちゃんととれないからクリーニング店に持っていって…ずっと不安だったけど、思い切ってトシヒコに聞いてみたら、"出張先で仕事終わってから接待があってそのままキャバクラ連れてかれたんだよ。その時かなぁ。酔ってて覚えてないよ" …

その時は、そうゆうことだったんだって…

また別の日に、家のゴミ箱からトシヒコの出張中の日のビジネスホテルとレストランのレシートが見つかって…ホテルのレシートには宿泊2名、レストランのレシートにはテーブルチャージ2名って打ってあった…トシヒコは基本的に1人で出張してる…誰かのレシートが紛れたのカナ…でも…やっぱり不安でたまらなくて…トシヒコに尋ねたら、"ホテルの2名宿泊は後から来た先輩と一緒になったんだ、個室予約したのにホテルが間違えてツインルームになっていたんだよ。レストランのテーブルチャージ2名はその先輩とだよ。たまには出張先の高くても美味いもの食べようって先輩がいうからさ。会計はいつも先輩が払ってるんだけど、いつもじゃ申し訳ないから、今回はオレが支払いしたんだよ。" …

そうなんだ…ワタシの勘違いなんだ…

ワタシはワタシに言い聞かせたの…

また…トシヒコの悪いクセが出てるのカナ…でも…トシヒコはプロポーズした時、"もう、絶対ヨウコを悲しませることはしない!" って約束した…ワタシ達は結婚したんだ…トシヒコは変わったんだって…ずっと思ってたの…

それから何回目かの出張から帰ったとき…トシヒコの出張用のキャリーバッグから女性モノのハンカチが出てきたの…

コレって…

トシヒコはワタシには変わらず接してくれていたから…

もう、トシヒコに尋ねるコトはしなかった…

あの日…れいじクンがワタシの家に来た日にテレビとビデオが届くからって…トシヒコが、"オレがセッティングするからね!" って言ってたのに…金曜日の夕方早くに帰ってきて、"納品先で急にトラブルあって、土日でライン止めて調整入るから今から出張してくる"って急に出発していったの…

いつものことだから仕方ないか…そう思っていたら、1時間後くらいにトシヒコの会社の後輩から電話がかかってきたの…

"突然すいません。トシヒコさんの携帯電話に何度もかけても繋がらなくて。トシヒコさんに、今回の月曜日現地入りの出張ですが、先方の都合で火曜日現地入りになりましたので、移動は月曜日からになります、とお伝えください。"…

電話を切って…トシヒコの携帯電話にかけようとしたけど止めた…

窓の外をボーっと見ていたら夕陽が沈んだのに空はまだ明るくて…そのうちに空と地上の間はオレンジの帯が現れてきて…空の色は上に行くほど青色から藍色に変わっていった…大好きなブルーモーメントのはずなのに…

たまらなく悲しくて…その時、ワタシの心の中にいたトシヒコが消えていく気がしたの…

そして、このままワタシもココから消えてしまおうカナって思ったの…

次の日の土曜日もずっとボーっとしていたら夕方になって…昨夜も良く寝られなかったからビール飲んでみて…明日、テレビとビデオ来たらどうしよう…って思ってダイニングのカレンダー見たら…日曜日のメモ欄には、"テレビ&ビデオ"のメモ書きの下に、"れいじ招待状" って書いてあった…
れいじクン!久しぶりダナ!明日ワタシの家に来るんだ!…時間あったらトシヒコの愚痴聞いてもらおうカナって思ってたの…

寝る前に女性誌読んでたら、"夫の浮気には妻も浮気で対抗する!" とか、"既婚女性も恋愛してココロのバランスを保つ" とか、"セッ◯スパートナーはなくてはならない存在" とか載っていて…
れいじクンとそうなっちゃおうカナ?…れいじクンは婚約者いるけど、まだ "独身" だし…でも…そんなことしたら…

今頃、どこかのオンナと楽しんでるトシヒコのコト考えたら…腹が立ってきて…トシヒコは好きなコトしてるけどワタシは…いろいろ考えすぎて頭の中が混乱してきて…

日曜日、お昼少し前にテレビとビデオが配達されて…大きなテレビだから、リビングのソファーの位置変えたりしてたら暑くて暑くて…れいじクン来るのすっかり忘れててブラジャー外して悪戦苦闘してたの…

あの時、ワタシの家にきたれいじクンはワタシの胸をチラチラ見てくるけど、すぐに視線を外す…面白くなってワザと胸が見える格好したら、一瞬ガン見したのがわかった…れいじクンにこの後時間あるか聞いたら大丈夫だって!…今しかない!…トシヒコに復讐してやりたい…トシヒコには言えない秘密を持てば、やるせない気持ちが少しはおさまるかも…

だけど…あの時…

やっぱり上手くは行かない…でも…初めて浮気するなられいじクンがイイな…学生の頃、トシヒコと何度目かの別れの後に友達とヤケ酒飲んで酔っ払って、偶然同じ店で飲んでたれいじクンに家までオンブして送ってもらったコトがあったの覚えてる?…あの頃トシヒコへの当てつけにれいじクンと付き合おうと思ってたんだよ…でも、その時はれいじクンにカノジョがいるの知って諦めたんだよ…

それから、感情を抑えて表面上を取り繕いながらトシヒコと生活を続けてた…でも…時々、ワタシから求めても、トシヒコはあまり応じてくれなかったの…

れいじクンの結婚式の少し前…トシヒコが年明けからアメリカへ出張することが決まって…また、ワタシの気持ちがザワついてきて…結婚式の二次会でれいじクンに会ったらワタシの気持ちを伝えてみようと思ったの…

もちろん、れいじクンに対して、"ワタシと浮気して!" なんて言えないから…ちょっとおどけて伝えてみてれいじクンの反応を見ようとしたの…

あれから秋から冬になり…その間、ワタシとトシヒコはお互いを求めることも肌に触れることもなく…年明けにトシヒコはアメリカへ旅立った…

ワタシの心は空っぽのまま…家に帰っても誰もいない…誰かと繋がりたい…なんでもないメールなられいじクンに送っても大丈夫カナ…

れいじクンからのメールは当たり障りのない内容で…ワタシはもう少し距離を詰めたい気もするけど…お互い結婚してるし…れいじクンは新婚サンだし…

そんな時…ワタシのカラカラに渇いた心は…砕け散るコトになったの…




いつしかヨウコさんの頬には涙がつたっていた…