地元のインターチェンジよりも3つ手前のインターチェンジで高速を降りた
そのインターチェンジのすぐ近くに2年前にオープンした大型ショッピングモールがあった
地下の駐車場に車を停めたらいろいろな地域のナンバーの車があった
テレビCMもどんどん流してるショッピングモールだから当然だろう
車を降りる前に携帯電話を見ると
2時間ぐらい前にヨウコさんからの着信履歴があった…
なんだろう?…
メールじゃなくて…着信履歴…
しかも…ワンコールぐらいで切れている…
ヨウコさんの笑顔が浮かぶ…
ダメだ…
ヨウコさんのこと考えちゃダメだ…
もう…終わりにするんだ…
オレにはユミがいるんだ…
ユミにはオレしかいないんだ…
もうすぐオレは父親になるんだ…
結局携帯電話を閉じてショッピングモールの中に入った
ショッピングモールのフロアは3階まであり
2.3階のフロアの真ん中は吹き抜けになっていて
2.3階のフロアからは下の階の様子が見える構造になっていた
時間は20時をとっくに過ぎていたが
フードコートはまだ賑わっていた
チェーン店の和風トンコツラーメンで空腹を満たし
2階の紳士服売り場でワイシャツと下着と靴下を購入した
紳士服売り場ではサイズの合うカラーワイシャツが無かったので
3階のワイシャツとネクタイ専門のショップへ向かった
21時近くなっても各フロアやショップにはそれなりに客がいた
サイズの合う気に入ったカラーワイシャツを2着購入しショップを出た
ワイシャツとネクタイ専門のショップの真向かいの2階には
サーフィンやスノーボード用品中心のスポーツショップがあった
スポーツショップからTシャツとGパンの背の高い若い男性と
明るい髪をしたスラッとした女性が若い男性に手を引っ張られるように出てきた
男性には全く見覚えがないが…
女性はよく知っている女性だった…
"…ヨウコ…さん…"
オレは思わず小声でその名を呟いた…
なんで?…なんで?…
若い男性⁈…アッ⁈…あの夜…
ヨウコさんに思いを伝えてしまった…あの夜…
ヨウコさんが口にした言葉を思い出した…
"…ワタシ今お付き合いしてるヒトが2人いるんだ…"
"…1人は50代で会社を経営してるヒト…もう1人は大学生の男の子…"
ヨウコさんの言葉が何度も何度も頭の中を駆け巡る…
しばらくその場で立ち尽くし二人を目で追った…
二人はフロアを曲がりエレベーターのある方向へ行ったので
二人の姿はオレの視界から消えた…
ほんの数秒のことだった…
気づかずにオレは購入したカラーワイシャツの入った袋を落としていた…
ショップの店員がオレに声をかけてきた
店員
お客様⁉︎どうかされましたか?先程購入された物を落とされていますよ。
オレ
あ…あぁ…
店員
失礼ですがお客様、顔色が優れないように見えますが、大丈夫ですか?
オレ
…あぁ…ウン…大丈夫…です…
オレはすぐ近くのフロアのベンチに座り込んだ…
頭の中にあの夜の出来事がフラッシュバックした…
"…二人とも…そういう関係なの…"
ヨウコさんからの衝撃的な言葉が次々と浮かぶ…
その言葉が浮かんではオレの心を突き刺していく気がした…
…見てはいけなかった…
…見たくはなかった…
…オレは…オレは…
胸が締め付けられる気がした…
これが嫉妬という感情なのか…
若い男とヨウコさんが並んで歩く映像が
頭の中で何度もリプレイされて
オレの心には喪失感と絶望感が広がっていった…
しばらくは茫然とベンチに座っていた…
いろいろな感情が湧き上がり
あの新幹線の駅で出会った時から…
オレの思いを口にしたあの夜までを思い出していた…
オレは何をやっているんだ…
これでいいじゃないか…
踏ん切りがついたじゃないか…
それに…
ヨウコさんはトシヒコの奥さんだ…
…でも…
ヨウコさんはトシヒコに絶望している…
…それに…
ヨウコさんには2人の男がいる…
…でも…
オレとも繋がりを持った…
…それに…
ヨウコさんはオレの求めに応じると言った…
…でも…
セフレでいいって…
オレは大きななにかを失おうとしている…
でも本当は持っていてはいけないものだ…
ほんのさっきまでは捨てるつもりでいたのに…
捨てるんだ…と思うオレと…
捨てられない…と思うオレがいる…
どうしたらいいんだろう…
なぜ…迷うんだろう…
答えは分かっているのに…
気持ちがそっちに向いていかない…
ショッピングモールに "別れのワルツ" が流れた…
あと10分で閉店となる…
ヨロヨロとベンチから立ち上がり…
重い足を引きずって駐車場へ向かう…
車に乗ってもすぐにエンジンをかけられない…
ハンドルに頭をくっつけた…
やっぱり、若い男とヨウコさんが並んで歩く映像が頭の中でリプレイする…
また、胸が締め付けられた…
突然、携帯電話が鳴った!
ユミからだ
ユミ
れいじ!もう家に着いた?21時には電話くると思ってたんだけど…
オレ
あぁ…ゴメン…まだ家に着いてないよ…
ユミ
どうしたの?なんか元気ないみたい?ドコにいるの?
オレ
…○○のショッピングモールだよ…晩飯食べて、ワイシャツと下着と靴下買って、車に戻ったらなんだかウトウトしちゃって…
ユミ
そうなんだ!夜の高速の運転は疲れるよね。大丈夫?家までちゃんと帰れる?
オレ
…大丈夫だよ…少し寝たみたいだから、かえってスッキリしたよ。ユミからの電話で起きることができたし、元気出たよ!ありがとう。
ユミ
それなら良かった!○○のショッピングモールからだと家まであと1時間ぐらいかかるよね。気をつけて帰ってね。
オレ
日曜日の夜なんで道路も空いてるし、家まで45分くらいで着くよ。
ユミ
あまり飛ばし過ぎても危ないよ。安全運転でゆっくり帰ってね。家に着くの遅い時間になるから電話しなくても大丈夫だよ。
オレ
ウン…わかった…あの…ユミ…
ユミ
なに?どうしたの?
オレ
…ユミ…オレのコト愛してる?
ユミ
なに、急に?どうしたの?
オレ
ううん…今日と昨日とずっとユミと一緒だったから、明日からまたユミのいない日が始まるなぁと思ったら、なんか…
ユミ
れいじ…そうだよね…私もそうだよ…れいじ…愛してるよ…
オレ
ありがとう…ユミ…オレも愛してるよ…
ユミ
それじゃあ気をつけてね!明日もメールか電話してね。
オレ
分かった。大丈夫だよ。またね。
電話を切って…また落ち込んだ…
オレは最低だ…最低の人間だ…
自分の傷ついた心を慰めるために…
ユミを利用してしまった…
でも…ユミの声を聞いても…
ユミの気持ちを分かっていても…
オレの気持ちはやるせなくて…どうしようもなくて…
オレは…ユミを偽り…オレ自身も偽った…
オレは最低だ…
警備員が自転車でオレの車に近づいてくるのが分かった
オレは車のエンジンをかけて車を駐車場から出した
帰り道を車で走りながらも考えるのはヨウコさんのことだけ…
ヨウコさんと離れるつもりでいたのに…
この気持ちはなんだろう…
家には23時少し手前に到着した
持っているものをリビングの床に放り投げ
ソファーに寝転がって額に手をあて目を瞑った
スポーツショップから若い男と手を繋いで出てくるヨウコさんの映像が浮かんできた…
今はユミの笑顔が浮かばない…
あのシーンしか浮かんでこない…
ふいに起き上がってシャワーを浴びた…
シャワーを浴びていたら少し冷静になったのか
あのシーンが少し薄れてきた気がした…
シャワーから出てTシャツと短パンを着て
冷蔵庫から缶チューハイを取りだして
一本目を一気に飲んだ…
少し頭の中がぼんやりしてきて
いろいろとどうでもよくなった気がした…
2本目の缶チューハイを持ってリビングに行き
テレビをつけてボンヤリ眺めていた…
2本目の缶チューハイが空になったころ
リビングのテーブルに置いてある携帯電話から
メールの着信音が鳴った
ユミかな…
携帯電話を開くと…
メールはヨウコさんからだった…
"コンバンワ!オツカレサマ!もう帰宅してるカナ?今週末はつまらなくて淋しかったナ。夕方電話ワンコールしてゴメンね。早目にこっちに帰ってるなら晩ご飯一緒に食べたいなって思ってたの。連絡なかったから晩ご飯と買い物しにトモダチと○○のショッピングモール行ってきたよ!れいじクンはあそこに行ったことある?れいじクンの気に入るようなワイシャツとネクタイの専門ショップもあるよ。休日予定空いてたら一緒に行こうよ!じゃあ、またね!"
トモダチ…?…トモダチ…?…
○○のショッピングモール?…
ワイシャツとネクタイの専門ショップ?…
ヨウコさんはオレが○○のショッピングモールにいたことを知っているのか?
オレが気がつかないうちにヨウコさんはオレがいることに気がついていたのか?
トモダチ…?…トモダチ…?…
TシャツとGパンの若い男が頭の中に浮かぶ…
"…二人とも…そういう関係なの…"
ヨウコさんの言葉がまたもやオレの心に突き刺さった…
急に吐き気をもよおしトイレに駆け込んだ…
胃の中が空っぽになった…
洗面所で口をすすいでそのまま顔を洗った…
寝室へ入り布団を敷いて寝転がった…
頭の中がグラグラするけど
全然眠くならない…
カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいた…
布団から出てキッチンへ行き冷蔵庫を開いて
3本目のチューハイを一気に飲んだ…
寝室に戻り布団に入った…
なんなんだろう…
わからない…
ヨウコさんの気持ちがわからない…
酒の力を借りて少しづつ思考が停止していく…
オレは海の底に沈んでいく夢を見ていた…