"おはよう!れいじ!昨夜メール送ってくれなかったから、イジワルして今メールしたよ。どうせ、飲み過ぎて寝てるんでしょ!起きたら電話してね!10時までに電話なかったら私から電話するよ〜‼︎"
ユミからのメールで、いきなり現実に引き戻された…
そうか…昨夜はユミになんの連絡もしていなかった…
どのタイミングで電話しようかと悩んでいたら
ブルル…ブルル…
ヨウコさんの携帯電話が振動した…
振動は短めだったのでメールだろう…
あの男からなのだろうか…
いや、昨夜の男の様子から、もうあの男はヨウコさんには近づくことはないだろう…
しばらく考えを巡らせていた…
ブルル…ブルル…
また、ヨウコさんの携帯電話が振動した…
ヨウコさんを起こそうか迷っていたら
ブルルルルルルルルル ブルルルルルルルルル
とヨウコさんの携帯電話が振動した
誰かから電話がかかってきた
ヨウコさんの体がゆっくり動いて自分の携帯電話を持った
ヨウコさんは携帯電話の画面を開いて溜息をついた…
そして、そのまま画面を閉じて携帯電話を片方のベッドに放り投げた…
オレ
…おはよう、ヨウコさん…どうしたんですか?
ヨウコさん
…ううん……なんでもない…
ヨウコさんはベッドの上で膝を抱えて座った…
そして膝の上に顔をうずめて黙りこんだ…
なんて声をかけようか迷ったけど…
オレ
…昨夜の…あの男?…
ヨウコさん
…ううん…違う…
オレ
…どうしたんですか?…何かあったんですか?…
ヨウコさんは膝を抱えたまま沈黙した…
オレはベッドに戻りヨウコさんの後ろに座った
そのままヨウコさんを抱えこむように後ろからそっと抱きしめた…
ヨウコさんはオレの右腕に自分の頬をつけた…
二人とも何も言わずにしばらくそのままでいた…
ふと、ヨウコさんが口を開いた…
ヨウコさん
…さっきのメールと電話ね…例の大学生の男の子なの…
あの夜のヨウコさんの言葉を思い出した…
"1人は50代で会社を経営してるヒト…もう1人は大学生の男の子…"
そして、あの日のショッピングモールでのシーンが頭に浮かんだ…
心の中がざわついた…
けど、今ヨウコさんはオレの腕の中だ…
ヨウコさんは話を続けた…
ヨウコさん
…ゴメンね…れいじクン…聞きたくなかったよね…ゴメンね…
オレ
…気にはなるけど…ヨウコさんは今オレと一緒にいてくれてるじゃないですか…それに…ヨウコさんは "れいじのヨウコ" なんでしょ!
オレの心はざわついていたけど、ワザとおどけて言葉にしてみた…
ヨウコさんはオレの手をギュッと握り締めた…
ヨウコさん
…れいじクン…信じて…ワタシ…あの子にはまったく気持ちがないの…もう、あの子とはキッパリと終わりにしたいの…
オレはヨウコさんの話しを黙って聞いていた…
ヨウコさんの意思は本物だろう、だけど何か歯切れが悪いと感じた…
オレ
メールで"サヨナラ"って送って…着信拒否すれば終わりでしょ?…
ヨウコさんは黙ったまま、オレの手をさらに強く握った…
何かあると悟ったオレはヨウコさんに問いかけた…
オレ
…ヨウコさん…その大学生とは何かあるんですか?…
ヨウコさん
…れいじクン…あのね…でも…これ聞いたらワタシのコト嫌いになったり…軽蔑するかも…
オレのざわついた心がさらにざわつきだした…
けど、今ヨウコさんはオレの腕の中だ…
そして、ヨウコさんは、"れいじのヨウコ" になったんだ…
オレ
ヨウコさん、何か困ってるんでしょう?オレにできることならなんでも言ってくださいよ!もう、何を聞いても、ヨウコさんのコトを嫌いになったり軽蔑したりしませんから。
ヨウコさん
ありがとう…ありがとう…れいじクン…
ヨウコさんの頬をつたった涙がオレの腕に落ちてきた…
ヨウコさん
…あのね…あの子ね…ワタシの恥ずかしい画像を持ってるの…ワタシ…ホントにバカだよね…撮らせてって何度も頼まれて…絶対ダメって断ってたんだけど…こっそりデジカメで撮られてた…あの子にワタシの画像見せられて…それであの子のコト一瞬で冷めたんだけど…"画像が世間に出回っちゃってもいいのカナ" って言われて…それからも…れいじクン…ゴメンナサイ…
怒りに体が震えて髪の毛が逆立った
許せない!絶対に許せない!
オレの"ヨウコ"に!
オレはヨウコさんを抱く腕に力を込めた
ヨウコさん
れいじクン…ワタシのコト嫌いになったでしょ…軽蔑するでしょ…
オレ
嫌いになんてなってません。軽蔑もしていません。…ヨウコさん…辛かったですね…
ヨウコさんはオレの方に向きを変えオレにすがり付いた…
ヨウコさんはオレの胸に顔を埋めて体を震わせ声を殺して泣いた…
オレはヨウコさんを抱きしめて頭を撫でた…
しばらくそうしていたら、やがてヨウコさんは泣き止んだ…
なんとかしなくちゃいけない…なんとかしなくちゃ…
考えを巡らそうとしてもオレはその大学生のコトをまったく知らない…
相手の情報がなければ対処方法は見つからない…
オレは意を決してヨウコさんに問いかけた
オレ
…その大学生とは…どうして知り合ったんですか?
ヨウコさん
…ワタシの会社の繁忙期に配送と倉庫のアルバイトに来ていたの…それで…
オレ
出身地とかどこの大学とかは知ってるんですか?
ヨウコさん
関西出身で○○大学の4年生ってコトしか知らないの…
オレ
アルバイトでも会社に履歴書出しますよね?ちょっと調べてみてくれませんか?
ヨウコさん
…わかった…れいじクン…ゴメンナサイ…ワタシ…
オレ
ヨウコさん、もう謝らないでください。なんとかいい方法を考えてみますから。…え〜と、今日はこれからどうします?
ヨウコさん
なんにも考えてなかったなあ…どうしようか?アッ!でも、ウチのコトなんにもしてなかったっけ!お洗濯もしなくちゃ!
オレ
そうなんですね…じゃあ、ここで朝食を食べたら帰りますか?
ヨウコさん
…ウン…帰ったら…今日はもう会えないの…
オレ
…そんな…コトないですけど…
ヨウコさん
お互い家のコト済んだら…今日の晩ゴハン一緒にどうカナ?…
オレ
イイですよ!
ヨウコさん
やったー!れいじクン、ありがとう!
オレ
ではシャワー浴びてから朝食食べに行きましょう!ヨウコさんからお先にシャワーどうぞ。
ヨウコさん
…一緒に浴びよう…
上目使いでヨウコさんはオレに問いかけた…
オレはヨウコさんに手を引かれ…
一緒にバスルームに入った…
シャワーを浴びながら、ヨウコさんはオレを求めてきた…
オレはヨウコさんの求めに応じながら、オレもヨウコさんを求めた…
バスルームには30分以上いることになった…
ホテル一階にあるレストランのテラス席で朝食を摂った
テラス席の目の前には夏の海が広がっていてキラキラと輝いていた
朝食を済ませて部屋に戻る前にホテル一階のトイレに寄ってユミに電話した…
オレ
ユミ、おはよう!昨夜は電話できなくてゴメンね。
ユミ
おはよう!飲み過ぎてない?大丈夫?
オレ
大丈夫だよ。ユミは変わりない?
ユミ
変わりないよ!元気だよ。なんかさっきから、れいじの声が響いて聞こえるんだけど、ドコにいるの?
心臓の鼓動が急に早くなった…
オレ
…えっ…今、家の近くのコンビニのトイレからだよ。ユミから10時までに電話してってメールにあったし、気がついた時に電話しなきゃと思って…
ユミ
やーねー!なんでそんなところから電話してるのよ!もー!れいじったらー!
ユミは電話の向こうでゲラゲラと笑っていた…
オレはユミの笑い声で普段のオレを取り戻した…
ユミ
れいじは今日どんな予定なの?
オレ
どんなって…今日も暑くなりそうだから、どこへも行きたくないしさ、ビデオをレンタルしてきてずっとエアコンの効いた部屋にいるつもりだよ。
ユミ
そうだね!あと赤ちゃんの名前も考えておいてね!思い浮かんだらメールしてね!
オレ
分かった。ユミはどう過ごすの?
ユミ
こっちも暑いから、どこへも行かずに家でダラダラと過ごす予定だよ。それじゃあね、れいじパパ!夜また電話かメールしてね!
オレ
ウン、分かった!じゃあね。
携帯電話を切ったオレはふと考えた…
オレの中にはユミの夫であるオレと
ヨウコさんを求めるオレの二人がいる…
ユミに気遣い、心配し、ユミを喜ばそうとするオレ…
ヨウコさんのために動き、ヨウコさんを求めるオレ…
どちらが本当のオレなんだろう…
部屋に戻るとヨウコさんは携帯電話でメールを打っていた
メールを打ち終わって送信したらオレに抱きついてきた…
ヨウコさん
あの子しつこくてね…メール返信してなかったから何度もメールが来て…今 "昨日の夜から体調悪くて寝てるから無理!" ってメール返しておいたの…
ヨウコさんはオレから体を離して、自分の携帯電話の画面をオレに見せた…
オレはヨウコさんの携帯電話の画面をチラッと見てすぐに視線を外した
ヨウコさん
れいじクン、もっとちゃんと私の携帯電話を見て!ホラ!
またもやヨウコさんは自分の携帯電話をオレに差し出してきた…
オレは差し出されたヨウコさんの携帯電話を閉じた…
オレ
ヨウコさん、大丈夫ですよ。ヨウコさんは、"れいじのヨウコ" になったんでしょ!
ヨウコさん
…ウン…れいじクン…
オレはヨウコさんをそっと抱きしめて唇を重ねてヨウコさんの髪を撫でた…
オレは心の奥底で思った…
でも、オレは、"ヨウコのれいじ" じゃない…
オレは、誰の "れいじ" なんだ…