富士を辞め、国立国際医療研究センターに移籍しました | 排出ポンプが作動しません

排出ポンプが作動しません

部屋の隅で固まったホコリと無駄毛の集合体は、掃除されるときを待っている。
僕の頭の中にそのようなものが溜まったならば、ホウキでまとめてゴミに出さなければ。

アメブロは、燃えるゴミですか、それとも燃えないゴミですか。

昔、Age35という漫画があった。

確か、ドラマ化もされたはずだ。

 

漫画の内容はドロドロの不倫話なのだが、まあ、それは置いておいて、

若き日の僕は、そのエピローグの一説をなぜか鮮明に記憶していた。

 

「35歳という年齢は、何かを壊して全てを一から始めるのにギリギリの年齢なのです」

 

その頃の僕は、まさか自分に35歳が来るなんて思ってもみなかったはずなのだが、実際に35歳は来てしまった。まあ、誰しもそういうものなのだ。

 

折しも35歳になった僕に、声をかけてくれたヒゲの男がいた。

世間でDr. Gなどと言われている男だ。

 

彼はあまりにも軽いテンションで、僕の人生を変えようとした。

 

「いやー、来年度から同じ職場っすね、よろしく」

 

あまりのノリの軽さに、僕は確か周期表を思い浮かべたはずだ。

スイヘーリーベーボクノフネ。

あれは、軽いものから順に記載されている元素の表だったと思う。

 

「どういうことですか?」

 

「来年度からうちに薬剤耐性菌に関する部門を新たにつくることになった。そこのオープニングスタッフとして働かないかい?」

 

オープニングスタッフ、と聞くと、新しく開店するスタバやマックのバイトを募集しているようにしか聞こえないが、言葉としては正しいのだろう。

 

「国立国際医療センターで働けるということですか?」

 

「国立国際医療”研究”センター、な」

 

ヒゲの男は、意外と細かいようだ。

 

「まあ、強制はしない。君次第だ」

 

家族や先輩は、将来不透明な選択に対して若干むつかしい顔をしていた。

しかし、僕が自分の重大な選択をするときに他人の意見に耳を貸さないのをしっているためか、まあ、好きにしたらいいさという感じだった。

 

僕は相当迷ったものの、たぶん、それは迷ったフリで、最初から答えは決まっていたんだろう。JFLの選手が浦和レッズに来ないか、と言われたら、行くに決まっている。

 

男ってのはみな、夢追い虫なのだ。

 

まあそんなこんなで、僕は今までいた富士市立中央病院も、内定していた大学院も、慈恵医大の医局さえも辞めることになり、この4月から 国立国際医療研究センターの薬剤耐性菌クリニカルリファレンスセンターで働くことになった。

 

実はクリニカルリファレンスセンターでどんな仕事をするかは、3/31現在でもほとんど知らされていない。だから未だに、これは大掛かりなドッキリなんじゃないかという気持ちが拭いきれないでいる。

 

誰かの暗殺を頼まれたスナイパーみたいだ。「君はこのポイントでこの男を狙撃する、それだけだ。その他のことは知らなくていいんだ」。

 

後輩に頼まれたこともあり、僕は適宜、ここでの仕事をブログで世の中に出していこうと思う。それが仕事の役に立つこともきっとあるんじゃないだろうか。

 

とりあえず、ヒゲの男に「医局を辞めました」と報告したら、

 

「本当に辞めてしまったのか、どうしよう、おれ、人の人生変えちゃったかなあ」

 

と、今さらなことを言っていた。

でももう、周期表は浮かんでこなかった。

Age35なのだ。おそらく今以外に、全てをリセットするタイミングはない。

 

たぶん、僕は本当に国立国際医療研究センターで働くことになり、そして、その仕事は多忙で、でもきっと楽しい。

 

とりあえずは、今まだ僕らの部署の仕事部屋がないので、明日は部屋を作ることから仕事が始まるらしい。

 

そんな仕事はあまり聞いたことがないが、あるのだから仕方がない。まあ、きっとそれはそれで楽しい。

・・・ハズだ。