LSHTM日本人同級生進路(卒後8年) | 女医の国際精神保健

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精神保健および公衆衛生を軸に、韓国、ロンドン、ジュネーブ、ニース、フィジー、赤道ギニア、東京、インド。
他にも、旅行、馬術、音楽、写真などについて記載しています。

卒業後すぐの進路は下記に記載した通りです。


 

疫学修士過程、公衆衛生学修士課程(私)、公衆衛生栄養学修士過程、熱帯医学・国際保健学修士過程の卒業生(日本人)からこの八年間取り組んでいたこと今取り組んでいることを記載しました。みなさまの進路の参考になれば幸いです。

 

(疫学卒)

修士課程卒後、LSHTMの博士課程に進み西アフリカ・ガンビアに3年間滞在しながら博士号を取得しました。アフリカでは6%を超える成人がB型肝炎に慢性感染しており大きな公衆衛生課題となっています。主な感染経路として出生時の母子感染と小児期の水平感染がありますが、同じ慢性感染者でも元の感染経路の違いにより予後が異なるという仮説の検証のため、システマティックレビュー、研究デザイン、フィールドワーク、データ解析、論文作成という一連のプロセスを博士課程で経験しました。ガンビアでのデータはいずれも、母子感染が肝がんや肝線維化の危険因子であることを強く示唆するものでした。アフリカではB型肝炎ワクチンの初回接種は出生6週後以降が一般的でしたが、これでは十分に母子感染を防げないため、出生後24時間以内に初回投与を行うBirth dose vaccineの導入をWHOが推奨しています。このWHOの推奨勧告に、母子感染予防の重要性を裏付けたアフリカ発のエビデンスとして私の論文が引用されたことは、疫学という道具を使っての途上国への貢献を志していた自分にとって、大変やりがいのあるものでした。現在はパリ・パスツール研究所へと移り、仏語圏アフリカを中心に肝炎対策・研究を文化人類学、ウイルス学、医療経済学など多分野の専門家と協力しながら行っています。欧州やアフリカの国際保健関係者にLSHTM卒業生は多く、そのようなネットワークの中でグローバルヘルスの枠組みが決まり、研究やプロジェクト実施に向けた資金が動く印象を強く受けています。

 

 

(公衆衛生学卒)

修士課程卒後、インターン専門官(JPO)コンサルタントとしてWHO精神保健部で勤務いたしました。その間、ガイドライン策定、世界白書策定、ツール開発、データベース策定、専門家委員会補佐などを担当しました。そのいずれにおいても、LSHTMで学んだ疫学、統計、医療経済、社会医学などの知識・技術を活用して現状分析や情報の取捨選択や論理的まとめを行いました。また、専門家委員会などで多くのLSHTM教授をWHOで見かけ、学術と実践が連動しているのを感じました。フィジー大学医学部招聘教員として精神医学教室設立や赤道ギニア国立病院コンサルタントとして病院再建に携わった際も、また外務省事務官として国際保健政策「平和と健康の基本方針」策定やG7伊勢志摩サミット準備支援やG7進捗報告書保健章議長の仕事をした際もLSHTMで学んだ知識や考え方を活用し、同大学院で学んだことが実務的であることを感じました。また、他国のG7担当者などLSHTM卒業生と要所で出会えることも仕事をしやすくしました。

現在は、A大学大学院博士課程において精神科強制入院と意思決定に関する研究に当事者と一緒に取り組んでおり、フィールドは日本とインドです。LSHTMでの指導教官に本研究へも実践的でインスピレーショナルな助言を頂いております。

 

 

 

(公衆衛生 栄養学卒)

修士課程卒後、A大大学院での内科学博士課程を経て、臨床(糖尿病・在宅医療)や産業医、A大病院臨床研究支援センターで臨床試験のコンサルテーション業務に携わりました。そこでは規制等の新しい知識習得も必要でしたが、研究デザイン・解析での基礎知識をLSHTMで学べたからこそ、様々な種類の臨床試験に対応をすることが可能でした。併行して、医薬工学部連携プログラムで、医療機器・医薬品開発・ベンチャー設立などができる人材を育成するコースで教員として携わり、新しい時代が来たことを肌で感じました。これらの業務でITシステム構築などに携わるうちに、未来型の公衆衛生の一つとして、高普及率の携帯電話を用いた生活習慣改善プログラムを提供できないのかと考え、東大センターオブイノベーションでプロジェクトを開始しました。この4月より工学系研究科に異動し、本格的にアプリ開発に専念しています。LSHTMで学んだ社会医学のアプローチを生かし、Precision Healthとして個別化対応がどこまで可能であるかは、とてもチャレンジングですが、人工知能等の技術の助けを借り、公衆衛生を学んだ動機でもある貧困と肥満の二重の負担に効率的に取り組む方法として、最終的に多くの人に広く届けられるような生活習慣改善プログラムをめざし、研究開発をしております。

 

 

(熱帯医学/国際保健学卒)

「世界のがん死の7割は低中所得国で起こっている(WHO)」ことを知りLSHTM修士で学びました。卒後は修士で学習した熱帯医学を実践すべく,ガンビア共和国にて2か月間「The Partnership for the Rapid Elimination of TrachomaPRET)」研究に参加しました。日本のようにはインフラが整備されていない環境で、予防を含め医療をどのように展開できるかを考える機会となりました。その後は、がん診療を実践し診療技術を身につけるため日本に戻りがん臨床に携わりました。がんをよく理解するためには基礎研究も必要と考え大学院に進学し研究しました(継続中)。世界のがん死について考えたいという目標は今も変わらず、今後自分がどのように関わることができるか模索している最中です。LSHTMとは今もつながっており、修士論文を投稿させてもらったり、国際学会先で当時の同級生と議論したり、同級生や当時の担当教官の来日時は観光案内したり、Peter Piot学長が来日の際は卒業生で囲んだりと貴重な時間を過ごしています。LSHTMの日本人卒業生とは卒業年度に関わらず年に複数回集まって情報交換しお互い刺激を得ています。LSHTMでの学びと経験は今でも自分の大きな礎となっています。

 

 

 下記は我らの共通の感想です。

1. LSHTM修士課程で習得したことは4人それぞれの多様な進路選定や進路先での任務遂行の基礎として役立っています。

2.  LSHTMで得るものは学問そのものに加えて、国境を超えた公衆衛生学的着眼点・姿勢であり、ネットワークです。この記事が今後留学を希望される皆様の一助となれば幸いです。