本を色々読んでいます4 | 女医の国際精神保健

女医の国際精神保健

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1 今の研究がどんどん「医療人類学」へ傾いていることから、とりあえず王道を読んでみたりしています。精神保健の医療人類学といえば必ず名前の上がるアーサークラインマン教授。

 

 

ー 現前性、文化的なレベルでの癒し、疾患と病の二分法、説明モデルが重要な考え方だと思います。

ー 上記を盛り込んだ医学教育をするためにミニエスノグラフィを医学部生に取り組ませる教育法も興味深い。

ー 「自己は統合されずに分裂したもの」であること視点も大事。

ー 社会問題を医療問題として定義され、社会的な解決ではなく医療的・技術的解決を求めているのが本質的ズレという視点も大事。社会の寛容性の大切さ。

ー 社会的苦しみは社会で生まれる視点。

ー 文化は「もの」ではなく「常識」であり「プロセス」である指摘。

ー 「患者や家族による病の主観的経験」は医療者が外からする「疾患」の説明や対策とは異なるという指摘。(これはまさに私が研究しているものだわ!)

ー 治療の目的は患者の人間性をサポートするための人間的文脈を作ることという視点。

 

本の中で挙がったこちらも読みたい。

 

 

 

 

 

2 日本のコンテクストから世界を見ながら精神医学の歴史と人類学を語ってくれる一冊。全体像を把握するのに最適です。

 

 

 

 

3 臨床哲学という分野が対談形式で分かりやすい一冊。

 

 

ー 実践して実感してという姿勢は基本的に同意しますが、所々elitistなpaternalisticな香りもしました。

ー 「書くことは考えることである」

ー 「現象学的研究は、個別事例の中に普遍的な本質を直感しうる」

ー 「現象学的研究は、それを読んだり、次の実践に適用する時に、経験の解釈(理解)の更新が起こる」

ー 上記は、読み手側の受容の仕方によっても変わる。つまり、役に立つか役に立たないかはそれを読む人次第。

 

4 精神科入院に関する研究をしていると、「症状改善のために入院加療」というよりも「家族が私のせいで疲れちゃってるみたいで悪いから」みたいな入院選択もあり、「意思決定というよりももめごと処理?」と思ったので読んでみました。

 

 

 

5 本人が苦手なことを周囲が手伝う、本人が苦手なことをできるようにする、本人のためと周りが思うことをする、とか色々考えることがあり読みました。

 

 

 

6 精神科入院とか精神科医療・福祉の利用とかってやはり「排除・差別」があるよね。

 

 

ー 差別が起きた時、「今ーここ」でどのような権力作用が働いているかを明らかにしたい。
ー 逆に、差別問題からなんとか逃避しようとしている人々が、どのような文化的リソースを持ち出して自己正当化していくのかも明らかにできる。
ー それらを一つ一つその場で改名することを通して、我々がいかに従順に支配的文化によって訓家されていくのかが明らかになる。
ー 人々の方法の行使の結果として出来上がったイデオロギを見るのではなく、生成しつつある今ここの流動性や多様性を隠蔽している協働で動員された様々な文化的装置(権力作用のメカニズム)を相対化する。
ー ある現象が誰かその場にいる人々によって差別や排除であると認識される場合に、我々は無意識のうちに使っている支配的文化によって提供された判断・推論が今ここで起こっている差別・排除を隠蔽し、あたかも差別や排除が働いていないように正当化していること、つまり文化的装置が権力作用として働いていることが明らかになる。
ー 中心にいると信じている人にとっては、中心が排除している周縁部分はマイノリティを自分たちが排除しているという行為や推論自体に気づかないし、排除を正当化している。つまり、中心にいると信じる人は差別的立場に立たざるおえない。