「約束された場所で」と「違和感の正体」を読みました | 女医の国際精神保健

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「違和感の正体」と「約束された場所で」を読みました。

 

 

 

 

前者はなんとなく図書館の棚で手に取り、後者は「質的研究の良い例です」とどこかの研究室のサイトで推薦されていたので図書館で借りました。

というわけで、たまたま同じ時期に読みましたが、共通したテーマを感じました。

 

前者は、下記の主張を例を挙げながらずっと解説してくれる感じです。

ー 現在は善悪判断の基準となる「ものさし」は不在で、騒々しく「処方箋を焦る社会」

ー 例えば、不平等や格差社会是正も、短期間で成果をだしてほしいと焦る傾向が生まれる

ー 出来事に対して、ほとんど知識もないままに、善悪の判断を下し思いつきを大層な「意見」だと勘違いする

ー 一人一人の好みや気分がバラバラになり、「僕はこう考える」「私はこうだ」と正解も目標も細分化し、人の数だけ正義が存在し、何でも信じてよく何も信じられない時代にあり、それに耐えられず何かを盲目的に信じ安心しようとする力が働いている。

ー 排外主義的も台頭するが、この集団が「真面目」であり、また不安を抱えていることから「敵」へ他者批判し「つながり」を感じ、「生きている意味」を見出す

 

いろいろ賛同するところもありつつ、感情的な文章もあり、またご自身の意見なのか例に挙げている哲学者の意見なのか錯綜するような文章もあり、ちょっと読みにくかったかな。

震災でご自身が大変な日常生活を送っている時にマスコミで勝手な発言をしている短絡的な人や距離感を感じる政治家発言に持った違和感を記載しようとしているのかな?そのあたりは、実感こもっている感じだったので、もう少し読みたかったな。

 

 

そんな気持ちの中で、読み始めた後者。

サリン事件の後に、オウム真理教信者8人にインタビューし、その後心理学者の河合隼雄氏と対談し、あとがきも収録されている。

本の構成も文章もよく、読みやすく、盛り上がりまとまっていく。

私が変なまとめをするよりも、一冊を最初から最後までぜひ読んでほしい。

二冊の本に共通して出てくる「真面目」「純粋」な人々。「箱に入りたい」人々。

人にはバランスや深みやいい加減さも必要だなとも思いつつ、他人への好奇心や想像力も大切だなとも思いつつ、正解もないとも思う。

オウム真理教的なものはまた作り上げられるなあと思いつつ、解決策の一つに生活保護が話題に上がったことも興味深い。そして、消極的にでも「自分が死んでも別にいいかな」なんて発想や「世界はもうすぐ終わるから、それと一緒に自分もいなくなってもいい」なんてノストラダムスの大預言と希死念慮の発想が目立つのも興味深い。さらには、日常の周囲の人との関係が希薄なのも気になる。

そして、村上春樹氏が心の動きや現象を理解しようと耳を傾ける様子は素晴らしい。変な理屈や結論をつけようとしないから、インタビュー参加者も語ってくれている。

 

この記録が残ることは日本にとっても世界にとっても重要なことだと思う。

一読を強くお勧めしたい。