木村英司さんの「病的多飲水.水中毒のとらえ方と看護」を読みました | 女医の国際精神保健

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精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護/木村 英司
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例によって、医局の図書からお借りして、診療の合間に読みました。
熱心に真摯に筆者が水中毒で苦しむ患者さんと問題を解決していった様子がまとめられています。
病態としてはまだ分かっていないことも多く、臨床現場では苦労することの多いですが、この本は愛情があって、そして実践的。

「水中毒とは、いらいらや不安感が強くなったときに、ものすごく喉が渇いて水分をたくさん飲んでしまう病気で、排泄されるよりも多く飲んでしまうので、身体に水がたまって血液を薄くしてしまう。それが過ぎると発作を起こして倒れてしまう病気」

したがって、患者さんに「水を飲んではいけません」ときつく言ったり、気をそらせるために何か課題を与えたり、水から遠ざけるために力ずくで臨んだり、隔離したり拘束したりというアプローチが多くなりがちで、患者医療者関係が非常に悪くなりがちなことが多いです。
そこを「美味しく安全にお水を飲む」という発想で、看護や医療にあたるといった、アプローチの発想が紹介されます。これなら、患者と医療者が味方同士であれます。
信頼関係の構築や患者教育がとても大事なことが強調されます。

ー 水分摂取の目安は1日の体重変動が体重の4%程度
ー 血中のNa、K, Cl, ADHなどを測定
などの具体的な医療的目安も示されます。

下記のようなことも改めて知りました
ー 水中毒発作が起きるずいぶん前からNaが135を下回る値を示すこと
ー Naがある程度下がってしまうと集中力が低下して、周囲の忠告などに耳を貸せなくなること
ー 飲める水の量に変動があり、ときによってはずっと少ない水の量で水中毒を惹起することがあり、季節も大きな影響を与えていること
ー 夜間不眠は飲水行動につながること
ー 精神症状不安定は飲水行動につながること

まだまだ不明なことの多い病態ですが、こんな愛情と熱意のこもった医療が展開されて、報告がされることが繰り返されれば、医療も前進するだろうなと勉強になり励みになった一冊です。