Drawing Man~12、障りのある、害~
「杏に、別れようって、言われた」
春都はポツリとつぶやいた。私は、彼の声に耳を傾ける。
だって、そんな春都の切ない声、初めて聞いたもの。
「俺、杏に、気づいて欲しかったんだ。アイツの、存在を」
「どうして」
「・・・否定してほしかった。
バレーを選んだのも、その理由だよ。
誰かに・・・アイツの存在を、否定してもらいたかった。」
―――春都がなぜ、バレーを選んだか知ってる?
「アイツが、アイツであるためだよ」
昔、依世は言った。
私が「なんでバレーを続けてるかわからない」と聞いたときの、その答え。
「個人競技じゃだめなんだ。俺が出てきても他人は気づかないからね。
でも団体競技だったら、仲間がいれば、気づくかもしれないだろう?
俺と春都は身体は同じでも、性格は違うんだから。
そうして、自分じゃない誰かに、『依世』を否定してもらいたかったんだ。
そうすることで、本当の自分を見失わないために」
「そんなの・・・ずるいよ。
依世はちゃんとココにいるのに。」
―――言ったろ?春都は、ずるいって。
俺に出てきて欲しくないなら、自分で立ち向かえばよかったんだ。
でもそうしない。これも、あいつの優しさなのかな。
依世は、全部わかってたんだ。
―――そう、春都と依世は、同じ身体を共有してた。
『解離性同一性障害ですね』
と、そのことを医者は8文字の言葉に当てはめた。
人は、全てのことを人の言葉に当てはめるようとする。
そうすることで人々に認識されるから。
そうして、“異常”というレッテルをはずしてもらって、安心を得ようとする。
でもそれに、何の意味があるのだろう。
たまたま、人と少し違っただけ。
ううん、みんな、ほんとはそれぞれ違うはずなのに
それなのに
どうして“彼のそれ”を、わざわざ“障りのある害”と名づけるのだろう。
どうして人は、『依世』を否定するのだろう。
お気に召しましたらぽちっとお願いします↓↓