Drawing Man~14、優しいキス~
あの日、春都と話をして、彼の頬をたたいた後、
私は彼の部屋から逃げ出して・・・それ以来会っていなかった。
私は普通に学校に行っていたけど、
彼はあのまま、風邪で一週間学校を休んでいたから。
私はまた、誰もいない教室で、沈んでいく夕日を眺めていた。
そのオレンジ色は、胸がきゅっとなるほど切ない色で、
それに照らされている自分をもひどく切なくさせた。
おもむろに右手を見つめる。
1週間前に春都の頬をたたいた手。
人をたたいたのは、あれが初めてだった。
後悔はしていない。でも、
彼をたたいた右手が、ひどく異質なものに見える。
―――春都に、届いたのだろうか。
私の想い、栗居さんの想い、依世の想い。
届いて欲しい。
でも届いたとき、そのときは―――
「さっちゃん」
そこに、響く、聞きなれた声。
その声は、小さいときから何度も聞いた、幼馴染のものだった。
でも、彼は私のことを「サト」と呼ぶ。
この声で、この呼び方をしてくれる人を、私は一人しか知らない。
「・・・依、世?」
「そう。お別れ、言いに来た」
「・・・」
わかってた。まだ依世が消えてないってこと。
だって、あの時まだ春都は依世を受け止めていなかったもの。
彼が意図して私たちの前に出てきていないってことはわかってた。
でも、その彼が現れたって事は、
春都に、ちゃんと伝わったてこと。
―――だから、私も、ちゃんと伝えなきゃいけない。
「依世、私、気づいたの。
春都のこと、好きだと思ってたけど、それは“恋”じゃないって
ううん、“恋”だったのかもしれない。
でも途中から変わってた。」
そう、
変わっていく人の、友達の心についていけなくて、
・・・変わらない春都の優しさを利用してただけ。
いつしかソレを、恋と履き違えてたんだ。
だって私が欲しかったのは、“絶対的な存在”だったんだもの。
それは、恋じゃない。
「そのことに気づくことが出来たの。
依世のおかげで。
そのことをどうしても伝えたかったから、
今、もう一度依世に会うことが出来て・・・本当に良かった。
依世がいてくれて、本当に良かった。」
良かったって、そう、思えるのに。
でも、なんでだろう。
なんでこんなに苦しいんだろう。
もう一度、会うことが出来たのに。
ちゃんと伝えることが出来たのに。
春都と同じ顔、身体、でも全く違う、依世。
優しい依世。
いつも私を見てくれてた。
必要な言葉を必要なときにくれた。
この先にある『別れ』が、今、私をひどく弱くする。
「キスしていい?」
彼は、唐突にそう言った。
「・・・どう、して?」
「言ったろ、俺の好きはさっちゃんを想う気持ちだって」
それに、と彼は続けた。
「俺の“好き”は俺のものだから」
そう言って、彼は、私の唇にそっとキスをした。
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