新しい生命を生み出すのに、必ずしも男と女を必要としなくなるかもしれない。
幹細胞と遺伝子編集技術を使って、中国の研究者たちが同性のマウスの
ペアに子どもを作らせた。これまでにも、雌のマウス同士では成功していたが、
新たな研究で、雄のマウスのペアでも子どもが誕生することが初めて示された。

2匹の雌から生まれたマウスの子は健康的に見え、その後、
自分でも子どもを産んだ。しかし、2匹の雄から生まれた子は誕生して
間もなく死んだ。全部で12匹が生まれたが、
48時間以上生きられたのはわずか2匹だった。
(National Geographic)

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今回は、科学ニュースから、こういうお題でいきます。何から話しましょうか。
これも中国の研究ですね。自分はこれまで、中国の生命科学について、
いろいろ批判的な記事を書いてきましたが、この内容そのものは批判するつもりは
ありません。マウスやサルなどの実験動物で、
人類のために役立つ研究を行うのは、自分は問題はないと思ってます。

これ以前、メスのマウス同士で子どもをつくる研究が2004年にあり、
それは日本の東京農大で行われたものだったんです。ただし、中国の場合、
人命軽視、人権軽視、不十分な倫理規定などの問題が世界的に取りざたされているので、
研究が、安易に人間にまで延長されてしまうことが危惧されるんですね。

あと、自分は何度も中国に行って、考古学関係の研究者とお会いしたりしてるんですが、
若い研究者は、よく言えば自負心があって熱心、悪く言えば功名心が強い。
人文科学でもそうなので、理系の分野では、その傾向はもっと大きいんだろうと思います。
そういう点でも、心配があるんじゃないでしょうか。

さて、みなさんご存知と思いますが、哺乳類の場合、オスはXYの染色体、メスはXXの
染色体を持っています。子どもは、親からそのうちの片方ずつを受けつぎ、
オスからXを受けつげばXXとなってメス、Yを受けつげばXYとなって
オスの子どもが生まれます。これは遺伝学の基本です。ですから、
もしメス同士で子どもが生まれるとしたら、必ずXXのメスになるはずです。

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生物の中には、単性生殖を行うものが数多く知られていますが、
哺乳類がオスとメスで両性生殖を行っているのには、意味があります。
新しい遺伝子同士が出会うことで、種のバリエーションが確保されるんですね。
そうして、環境の変化に適応したものが生き残っていく。

また、哺乳類には、「ゲノム刷り込み genomic imprinting」という機構があり、
子どもが持ついくつかの遺伝子について、片方の親から受け継いだ遺伝子しか
発現できないようになってるんです。なぜ、こういう機構があるのか
わかっていませんが、オスとメスの両性で生殖を行うことを前提としたものです。

これが、オス同士、あるいはメス同士での生殖の壁となっていました。
今回、中国の研究チームは、前にご紹介した「CRISPR-Cas9」という分子ハサミを使い、
ゲノム刷り込みによって成長に問題が起こりそうな遺伝子の部分を切除しました。
メス同士で3ヶ所、オス同士で7ヶ所の切断が必要だったようです。

胚の分裂
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では、なぜメス同士から産まれた子どもが成長できたのに、
オス同士だと成長できなかったのか。これにはいろいろな原因が考えられますが、
最も大きい点は、自分は、オスは卵子をつくれないためだろうと思います。
メス同士だったら、一方のメスの染色体を、精子の代わりに別のメスの卵子に入れて
やるだけでいいので、話は簡単です。ただし、これではメスしか産まれません。

ところが、オス同士の場合、この実験では、染色体を合体させたものを、
卵子から核を取り除いたものに入れ、メスの体内に戻しても成長できませんでした。
そこで、一定期間人工的に培養した上で、さらに別の代理母の子宮内に挿入し、
やっと子どもが産まれることができたんですね。まあ、こんなにあれこれいじくった、
複雑なプロセスを経たものが上手くいくのは難しいでしょう。

さて、当記事のお題は「女はいらない?」ですが、子孫を残すという点に関して、
男と女のどっちがより「必要ない」か(笑)、を生物学的に考えてみると、
これは間違いなく男でしょう。上記したように、男は卵子を持っていません。
ただ、まったく卵子なしでも、受精卵をつくって子どもに成長させるのは、
近い将来にできそうなところまできています。

オスの精子のDNAを覆う化学物質を完全に取り除き、新たな覆いを被せることで、
卵子のように変化させる研究が進んでいるんです。ただ・・・
受精卵を子どもにまで成長させるためには、女性の子宮が必要です・・・
いや、じつはこれも、できないことはないんですよね。

男性の妊娠?
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男性が出産するためには、腹腔に受精卵を移植し、腹膜妊娠の状態を作成して、
出産は帝王切開によって行います。実際、そういう例も出てきているようですが、
これ、胎児と妊娠した男性のどちらにも大きな生命の危険があります。
また、人間の体内を使わない、完全な子どもの人工培養器が完成するには、
できるとしても、今後 何十年もかかると思われます。

さて、話変わって、世界で「同性婚」が認められている国は、
現在のところ25カ国ほど。その他に、ある州では認められているという国や、
「同性パートナーシップ」で権利が保護されている国を合わせると、
全部で50カ国ほどになります。しかし、当然というか、
同性間で産まれた子どもについての法整備がされている国はありません。

同性婚
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それはそうですよね。これまで、養子は別として、そういう事態は
想定されていませんでした。では、同性同士の子どもができるようになると、
いったい、どんなことが起きるんでしょうか。
子どもの成長に、父性と母性の両方は必要ではないんでしょうか?

こう言うと、「母子・父子でも立派に子育てしている家庭は多い。そもそも、
父性や母性という概念自体、ジェンダーフリーに反するのでないか。」
こういう答えが返ってくるかもしれません。
でも、本当にそれでいいんでしょうかねえ。自分には疑問があります。

さてさて、哺乳類は、基本的に単性生殖できないと上で書きましたが、
単性生殖ではないかと疑われる世界的に有名な事例があります。
おわかりですよね。聖母マリアとイエス・キリストです。もしかしたら、
同性同士で産まれた子どもも、何か奇跡を起こすなどの力を持っている
のかもしれませんよ。では、今回はこのへんで。

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