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今回はこういうお題でいきます。ノーベル賞発表週間ですので、
それに関連したお話です。それにしても昨日の物理学賞はけっこう意外な
受賞者3人でした。ジェームズ・ピーブルズ教授は御年84歳。
ビッグバン理論が生まれた初期に、その基礎を築く重要な仕事を
数々行った人で、それらの業績が総合的に評価されたんでしょう。

亡くなる前に受賞させなければという思惑があったのかもしれません。
また、ミシェル・マイヨール氏とディディエ・ケロー氏は
観測を中心とした天文学の研究者で、太陽系外惑星を初めて
発見した功績が認められたものです。太陽系に地球その他の惑星が
あるように、太陽系外にも惑星があるだろうということは、

ずっと昔から想定されていましたが、なかなか見つけることが
できませんでした。理由はおわかりだと思います。恒星と違って、
惑星は小さいうえに自ら光を発していないからです。ちなみに、
両氏の発見は1995年でしたが、現在では観測の手法が発達して、
4000個以上の太陽系外惑星が見つかっています。

朝永振一郎博士 いかにも頭が良さそうです
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さて、今回の記事は、日本人のノーベル賞受賞2人目である
朝永振一郎博士について書いてみたいと思います。朝永博士というと
「くりこみ理論」と反射的に思い浮かびますが、
じゃあ、くりこみって何かというとこれがよくわからない。

湯川秀樹博士の「中間子理論」はわかりやすいですよね。
原子核の中には陽子と中性子があって結びついています。
これらを束ねる力を持つ仮想上の粒子が中間子だったんですが、
湯川博士の理論は実質的に、この宇宙にある4つの力(重力・
電磁気力・強い力・弱い力)のうち、「強い力」の発見でした。

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これに対し、くりこみ理論は式の上での数学的な手法といえるもので、
素人には理解しにくい上に、重要性もよくわかりません。
ただ、これがないと量子力学における場の理論の式の多くは
発散してしまい、進歩はずっと停滞したままだったでしょう。

よくわからない単語が出てきましたね。「場の理論」と「発散」です。
うーん、なるべくわかりやすく説明していきたいと思います。
自然界の状態を数式で表す場合、質点系として表すのと、場として表す
方法とがあります。質点系は、惑星がどう動くかとか、投げ上げたボールが
どのように落ちてくるかという、わりと単純な式になります。



これに対し、電磁場などの場合、ある時刻のある位置におけるある強さの
電場に粒子を置くとどうなるかという形で式に記述しなくてはならず、
きわめて複雑になります。また発散のほうは、式の計算中に無限大が
出てきてしまって、その式が破綻してしまうことです。量子電磁気学では
式の発散が頻繁に起きていて、理論を前に進めることができない。

なぜ発散が起きるのか。これは難しいんですが、ごくごく大ざっぱに言うと、
電磁場の中にある電子が波と粒子の両方の性質を持ってるからなんです。
現在の原子モデルは、中心の原子核のまわりを電子が存在確率の雲
としてとりまいた形で表現されることが多いですよね。
これをどうにかして式の中に一定の値として代入できないか。

経路積分の概念図
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欧米の量子力学の研究者たちが大勢集まり、頭を絞って考えてました。
第2次世界大戦終戦直後のことです。そんな中で、アメリカの科学者
ジュリアン・シュウィンガーがどうにか解決策を見つけ出します。
また、それに遅れて、リチャード・ファインマンが「経路積分」の
手法を開発し、くりこみ理論が完成しますが・・・

ここで少し「経路積分」について。A地点からB地点へ行く最短距離は
直線になって1本しかありません。ところが、AからBへ電子が動く場合、
さまざまな経路をとることが考えられます。極端な話をすれば、
A点を出発し、宇宙の端から端までを通ってB地点に着く確率もゼロでは
ありません。上で書いたように、電子は存在確率の雲なわけですから。

スター科学者のはしり リチャード・ファインマン
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ファインマンは、そのすべての経路を積分して一つの値として合成し
くりこみに使用しました。これって面白いと思いませんか。
自分は、つねづね記事に書いているように「多世界解釈」の
信奉者なんですが、経路積分は、無限に分岐する多世界の積分とも
考えることができると思います。

さて、1948年、ファインマンらのもとに、日本から小さな小包が
届きます。中には京都で1943年に発行され始めた物理学雑誌の
論文を英語に翻訳したものが入っていました。最初はどういう意味なのか
わかりませんでしたが、内容が明らかになって彼らは驚愕します。

経路積分は多世界と相関があります
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日本の朝永振一郎という物理学者が、第2次世界大戦の真っ最中、
世界からの情報が完全に遮断された中、欧米の物理学者が誰も知らない
ところでシュウィンガーより5年も早く、すでにくりこみ理論を
完成させていたんですね。朝永博士の使った手法は明快で、
「超多時間論」と呼ばれ、数学的には経路積分と等価のものです。

欧米の研究者は、朝永博士の論文を見たときの驚きを、「深淵からの声
のようだった」と表現しています。1965年、朝永、シュウィンガー、
ファインマンの3名は、くりこみ理論でノーベル物理学賞を受賞します。
前述したように、理論の完成は朝永博士が最も早かったんですが、
これはしかたのないところでしょうね。

さてさて、ということで、ノーベル賞の一つ一つには物語がありますが、
この朝永博士の話もその一つなんですね。今日は化学賞の発表の日ですが、
化学と一口に言っても、あまりに領域が広いため、自分にはとても
予想は困難です。では、今回はこのへんで。

名著です