書道部の事件の話 | 怖い話します(選集)

怖い話します(選集)

ここはまとめサイトではなく、話はすべて自分が書いたものです。
場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

※ このブログでコメント等にはお返事できません。
お手間ですが、「怖い話します(本館)」のほうへおいでください。

今、高校2年生で書道部に入っています。よろしくお願いします。
これからお話するのは、私たちの学校で去年起きた事件についてです。
はい、時期は学校祭の前でしたから、10月でしたね。
私たち書道部は学校祭のとき、全員が作品を展示しますし、
校庭で書道パフォーマンスもやるんです。ですから、みなその準備に追われて、
毎日遅くまで作品を書いていました。
書道なんて、絵と違って作品はすぐできるだろうと思われるかもしれませんが、
それがそうでもないんです。1回書き上げても、
よく見るとあちこちに気に入らない部分があるんです。そこを直そうとすると、
今度は別の部分がうまくいかなくて、納得したものができるまで、
何十回も書き直すことがふつうにあるんですよ。

それで、その日も放課後、活動場所になっている教室で、
1年から3年までの部員10数人で、展示作品の練習をしていたんです。
ええ、もちろん書道ですから机は全部移動して床で書くんです。
私はそのとき、日本の漢詩を行書で書いてたんですが、
近くで米山さんという2年生の先輩が、隷書でも篆書でもない、
私が見たことのない不思議な字を書き始めたんです。
興味を引かれたので話しかけてしまいました。
「先輩、その字変わってますね。何ていう書体なんですか?」
そしたら米山さんは、「これね、甲骨文字っていうみたい。
 今からだと3千年以上前の中国の字」こう答えたんです。
「はー、甲骨文字ですか。初めて見ました。どっから手本を見つけたんですか?」

「ネットで適当に検索して出てきたやつを印刷した。意味はわからないわ。
 ほら、みんなと違って私、あんまり字 上手じゃないでしょ。
 でも、この甲骨文字だったら普通の字とはぜんぜん違うから、
 粗がわからないだろうって考えて、これにしたのよ」
「ははー、でも、これはこれで難しそうですよね。これまで練習してたんですか?」
「ううん、昨日まで手本を探してて、今日やっと始めたばかりなの」
先輩が書くのをしばらく見てたんですが、五文字目まで書き終えて、
次の行に移ろうとしたときに、急に気分が悪くなりました。
はい、胃がムカムカしてきて吐きそうになったんです。
それで、トイレに行って個室に入ってすぐに吐いてしまいました。
そしたら、真っ黒な、墨汁みたいなのが口からあふれてきたんです。

これちょっとヤバイかも、って思いました。
帰って親に話して病院に行かなきゃいけないって。
しばらく吐いていたら、なんとかムカムカはおさまったので、
洗面所で口をゆすいでいたら、書道部の同じ一年生の2人が、
小走りにトイレに入ってきました。そして私と同じように個室に飛び込んだんです。
それだけじゃなく、次から次へと書道部の部員が駆け込んできて・・・
最後に部の顧問の先生まで口を押さえながらやってきたんです。
ええ、学校はたいへんな騒ぎになりました。
だって、書道部のほぼ全員が同時に具合が悪くなっちゃったんですから。
保健室の先生も来て、救急車まで呼ばれたんです。
はい、特にひどかった子2人が救急車で病院に行きました。
 

私をふくめた残りの子は親が学校に呼ばれて、それぞれ病院に行くことに
なったんです。私は、病院に着くころには具合の悪さはおさまってましたが、

それでも胃カメラなんかのいろんな検査を受けさせられたんです。
でも、特に異常はなし・・・ トイレで吐いた黒い液体は、

胃の中には残ってなかったんです。学校では、まず給食による食中毒が
疑われたんですが、でも、そういうふうになったのは書道部の子だけで、

他の生徒はなんでもなかったんです。だから、何かの原因で、
私たちが活動していた教室の空気が悪くなって、みんなの調子が悪くなったんだろう、
そういう結論になりました。救急車で運ばれた2人は、
2日間入院しましたが、その後は学校に出てきたんです。それと、
そのとき具合が悪くならなかった人が一人だけいて、それが米山先輩だったんです。

それで、その日から大事をとって書道部の活動はしばらく中止になり、
私たちはそれぞれの作品を家で書いてくることになったんです。
それから1週間くらいして、米山先輩と廊下で会いまして、
「あなたたち大変だったわね」って言われました。
「先輩は具合悪くならなかったんですよね」
「うん、私だけぜんぜん平気で、なんか申しわけなかったみたい」
「家で、あの甲骨文字書いてるんですか?」
「うん、あれ書いてるとね、不思議な気分になるよ。
 なんていうか、一字書くごとに気力が充実して絶好調って感じ」
こんなやりとりをしました。でも、次の日から米山先輩、
学校に出てこなくなっちゃったんです。

はい、最初は学年が違うのでわからなかったんですけど、
先輩の彼氏が、米山先輩に連絡しても電話にも出ないしメールの返事もしない、
それで心配して家に訪ねていったら、先輩は部屋に閉じこもったきりで出てこない、
食事もほとんどとらないで、ずっと習字をやってるって話を、
先輩のお母さんから聞いてきたらしいんです。
はい、あの甲骨文字を1日中書いてるってことです。
そして、いよいよ学校祭が近くなった日に、大事件が起きちゃったんですよ。
ほら、先輩が学校にも行かないし、鍵をかけて部屋から出ようとしないので、
先輩のお父さんが屋根伝いに様子を見にいったんです。
そしたら、先輩はずっと風呂に入ってないボサボサの髪で、
手や顔を墨で真っ黒にして字を書いてたんですが、

窓ごしにお父さんの姿を見つけると、手元にあった文鎮を投げつけたんだそうです。
それで窓は割れ、文鎮がお父さんの顔にあたって、

お父さんは屋根から落ちちゃったんです。でも、下は庭になっていたので、
腰を打ったくらいで大きなケガにはなりませんでした。

お父さんは、これはとにかく先輩に字を書くのをやめさせないといけないと考えて、
男の親戚を何人も呼んで、米山先輩の部屋に踏み込んだんです。

そしたら、先輩はものすごい力で暴れて、大人の男の人を何人も
ふっ飛ばしたんです。でもどうにかとり押さえて、手から筆をもぎとり、

そのまま病院に担ぎ込んだってことでした。
そしたら先輩は、憑き物が落ちたみたいに大人しくなって・・・
でも、何日も食事をしてなくて衰弱していたので、

1週間ほど入院しなくちゃなりませんでした。
はい、この話は全部、米山先輩本人から聞いたんです。
ええ、今は元気になっています。
3年生になって、書道部の副部長をやっていますよ。
何でこんなことが起きたかって? それはですね・・・
先輩が書いてた甲骨文字に原因があったみたいなんです。
先輩のお父さんが、先輩が書いてた手本を学校に持ってきて、
歴史の先生に見せたんですけど意味不明で、次に漢文の先生に見せたら、
中国の学者の人に連絡をとってなんとか解読してくれました。
なんでも甲骨文字というのは、その当時の一般の人には広まっておらず、
神様に仕える人たちが占いをするために使ってたらしいんです。

それで、その占いというのが、今年作物がたくさんとれるためには、

何人の人間を生贄に捧げなくちゃならないとか、そういう怖い内容の
ものだったんです。でも、ネットで広まってたんだろうって?
そうなんですど、ただ見るだけだと特に影響はないっていうか、実際に書いて
みることで、字の持つ魔力みたいなのにとり憑かれてしまうらしいんです。

だから、先輩が手本を見ながら実際に字を書き始めたことで、
まわりにいた私たちも悪い気を受けて具合が悪くなった・・・
どうやらそういうことみたいです。・・・文字の力って恐ろしいですよね。
うーん、この話、学校側は納得したかどうかはわからないですけど、
とにかく書道部では、甲骨文字を書くのはいっさい禁止になったんです。
はい、あれ以後は平和に活動していますよ。まあこんな話なんです。

名称未設定 1sa

※ 甲骨文字は中国の殷(商)の時代の遺跡から出土する最古の漢字で、
 獣骨や亀の甲羅に刻まれています。これを焼いて、割れた形で吉凶を占います。
 発掘された資料には「生贄は30人で足りるか」などと書かれたものがあり、

 占いの結果が凶と追記されていたので、30人より
 多い生贄を捧げたものと考えられます。