四凶と悪神 | 怖い話します(選集)

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今回はこういうお題でいきます。中国神話のお話ですね。
今日、2月29日は閏日ですので、最初はそれを書こうかと
考えてたんですが、どうしても長くなってしまうので、
別の話題を選ばせていただきました。

さて、世界の神話には「悪神」が登場するものがあります。
悪神は、邪神、魔神などとも言われ、これが強力な場合、
「善悪二元論型」の神話になります。代表的なのが、
古代ペルシアに起こったゾロアスター教で、善神アフラ・マツダに
対する悪神アンラ・マンユ(アーリマン)がいます。

善悪二元論型の神話・宗教では、最終戦争が想定されている
ことが多いですね。北欧神話では、終末の日ラグナロクが
ストーリーに織り込まれており、神々は最終戦争で巨人族と
相打ちになり、世界は火につつまれて破滅します。

素戔嗚命
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ただ、悪神という言い方は、キリスト教の広まりとともに
廃れました。この意味はおわかりですね。
キリスト教では神は一人だけであり、神に敵対するのは、
悪魔です。他の宗教の神たちも悪魔に格下げされてしまいました。
キリスト教には、ハルマゲドンという最終戦争の教義があります。

日本神話はどうでしょう。記紀を読んでも、絶対悪というべき
存在の神は出てきませんよね。神々は気まぐれであり、
ときにイタズラ心を起こして世界を混乱させたりします。
その代表が三貴神の一人スサノオで、乱暴を働いて姉の
アマテラスを怒らせ、岩戸に隠れられてしまいます。

北欧神話の最終戦争 ラグナロク
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このような存在を、比較神話学ではトリック・スターと言い、
物語の中で神界や自然界の秩序を破ることで、ストーリーを
先に進めていきます。ギリシア神話のオデュッセウスや
北欧神話のロキなんかもそうですね。

復古神道では、神は和御魂(にぎみたま)と荒御魂(あらみたま)が
あると説明され、荒御魂は神の荒々しい側面、荒ぶる魂で、
これに対し、和御魂は神の優しく平和的な側面を表します。
同じ神なのに、まるで別人格のようになってしまい、
別の名前が与えられてることもあります。

有名なのが、オオクニヌシの和御魂であるコトシロヌシで、
オオクニヌシが出雲大社、コトシロヌシが奈良の大神神社に
祀られています。あれ、悪神についての一般論を書いているうちに
ここまで来てしまいました。四凶の説明に移りますね。

混沌
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中国神話では、善神と悪神の対立というはっきりした概念はない
ように思います。世界が始まったときにさまざまな神が生まれ、
その中で人間に害を与えるものがよくない神とされます。
そのうちの代表的な4つの神が「四凶 しきょう」ですが、
この他に「四罪 しざい」というのもいます。

四凶の最初は「混沌」、毛の長い巨大な犬のような姿をしてますが、
目はあっても見えず、耳もあるが聞こえない。脚はあるが、
いつも自分の尻尾を咥えてグルグル回っている。羽を持って描かれる
場合もありますが、飛べません。ほとんど何の役にも立たないような
神で、世界にはこれと似たイメージがけっこうあります。

饕餮
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ギリシア神話にはカオスという神がいて、いつも大口を開け、その中は
何もない空間で、無限を象徴しているとされます。これは創作の話ですが、
クトゥルー神話のナイアーラトテップ(ニャルラトホテプ)も
顔なき盲目の混沌の神で、近づいた者は破滅します。

2番めは「饕餮 とうてつ」、牛または羊の体を持ち、体には毛が多く、
貪欲で人間を食べるとも言われます。黄帝と戦った牛の神
蚩尤(しゆう)と混同されることもあります。下の画像は、
「饕餮文 とうてつもん」が入った青銅器で、
所有者である王の威厳を表します。

青銅器の饕餮文 中央の2本角のある牛の顔のような部分
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3番めは「窮奇 きゅうき」で、牛の体にハリネズミの棘を持っています。
邽山(けいざん)という山に住み、犬のような鳴き声をあげ、
やはり人間を食べるとされますが、別書では虎の体と出てきます。
人間の言葉を理解し、人間が争っているときには、正しいほうの
人を食べると言われる、よくわからない神です。

4番めが「檮杌 とうこつ」。虎の体に人間の頭がついていて、
猪のような長い牙と、長い尻尾を持ち、 尊大な性格で、荒野の中を
好き勝手に暴れ回っています。西方に棲むとも言われますので、
中国では珍しい、実在する猛獣なのかもしれません。

窮奇 大型のヤマアラシ?
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さてさて、ということで、四凶について見てきました。
中国とは基本的に中原(中華文化の発祥地である黄河中下流域
にある平原)を含みます。それ以外は、古代においては異民族の地で、
そこで信じられていた神が四凶になったと考えられ、

饕餮はおそらく、揚子江下流域で信じられていた神ではないかと
推測されています。もう一つ、広大な中国大陸で、
見たことのない獣や旅中に害をなす猛獣に対する恐れも
あるのかと思いますね。では、今回はこのへんで。

檮杌 サーベルタイガーのようです
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