骨相学と遺体盗難 | 怖い話します(選集)

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場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

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柩に戻されるハイドンの頭蓋骨

今回はこういうお題でいきます。オカルト論ですね。
最近、科学ニュースがコロナ一色になってしまったので、
オカルトの話題が増えましたが、当ブログは本来オカルトの
専門ブログですので、このほうが目的にかなうでしょう。

さて、先日、ゾンビ映画についての話を書きましたが、
これも、欧米の主な埋葬方法である土葬に関係した内容です。
キリスト教では、最後の審判のときにすべての死者の
肉体が魂とともに復活するとされ、
土葬でなくてはないらない必然性があります。

早すぎた埋葬のイメージ
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ただ、土葬というのはオカルトの宝庫なんですね。まずは
「早すぎる埋葬」。何かの理由で仮死状態になっていた人が
柩に入れられて埋葬され、暗い墓の中で生き返ってしまう。
エドガー・アラン・ポーの作品には、『アッシャー家の崩壊』
など、このモチーフで書かれたものがたくさんあります。

「吸血鬼伝説」もそうですね。何かの理由で遺体の腐敗が
遅れ、掘り返してみたときに生きているように見える場合があり、
夜な夜な墓を抜け出して人の生き血をすすっていたのでは
ないかと言われる。あとは「屍食鬼 グール」の話もそうです。
墓場には夜中に遺体を掘り出して喰う魔物が棲んでいる。

グールのイメージ 野犬のようですが実際そうなのかもしれません
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もう一つ、「遺体盗難」というのもあります。ヨーロッパでは
早くから解剖学が広まっていましたが、学生の実習用の
遺体が足りない。そこで死体を盗み出すプロが登場します。
ただ、遺体盗難には、解剖用途以外の理由もあり、
それが今回お話しする内容なんです。

さて、みなさんは骨相学という学問をご存知でしょうか?
ドイツの医師、フランツ・ヨーゼフ・ガルが18世紀に
創始しました。彼は大脳生理学に大きな業績を残していますが、
同時に、骨相学というトンデモ学問をも生み出してしまいました。

フランツ・ヨーゼフ・ガル
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骨相学とは、頭蓋骨(他の骨も)の各部位の形や大きさと、
その持ち主の性格や才能には相関があるとするもので、
19世紀には大いに隆盛しました。これはまあ、しかたのない
面もあります。本来は脳と性格の相関を調べればいいんでしょうが、
脳は人間の体の中で、最も早く腐敗する部分です。

それと、生きた人間の頭蓋骨を開き、脳を刺激して調べるなどの
ことは不可能ですよね。生体実験と言われて倫理的な非難を
受けます。現代でも、脳科学がなかなか進展しないのは、
この問題によるところが大きいんです。

骨相学のテキストから
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ただ、脳そのものならともかく、頭蓋骨を調べてその人の気質が
わかるなんてことはないですよね。また、頭蓋骨の大きさと
脳の容量も、必ずしも比例しているわけではありません。
現代のわれわれには、その間違いは明らかですが、
これを信じた人もその当時は多かったんです。

さて、ここでまた話変わって、クラシックの音楽家ハイドンは
ご存知でしょう。フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは18世紀に
活躍したオーストリアの作曲家で、交響曲の父とも呼ばれ、
その曲の一部はドイツ国家にも取り入れられています。

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
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ハイドンは1809年に77歳で亡くなり、ウィーンの
フントシュトルム墓地に埋葬されましたが、その直後、頭部が
切り落とされ、盗まれてしまったんですね。犯人はわかっていて、
刑務所管理人のヨハン・ペーターと、ハイドンの崇拝者であった
ローゼンバウムという2人の人物です。

ヨハン・ペーターは上記の骨相学の信奉者で、他にも死刑囚の
頭蓋骨を収集しています。ペーターは盗んだ頭蓋骨で、
ハイドンの天才性と脳容量の相関関係について研究し、
「ハイドンの頭蓋骨には音楽丘の隆起が見られた」などとする
論文も発表しています。純粋に学問的興味から盗んだわけです。

ハイドンの墓
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その後、頭蓋骨はローゼンハウムが保管しており、盗難が明らかに
なってから警察が捜索しましたが発見されませんでした。
ローゼンハウムはハイドンのパトロンであったエステルハージ家と
金銭的な取引をし、頭蓋骨を引き渡しましたが、それは若い女の
ものと判明します。また、その後渡した頭蓋骨も偽物でした。

ローゼンハウムが所有していた本物は、あるときから唸り声を
立てるようになり、歯をガタガタと鳴らし、ついには宙を
飛び回ったとまで言われます。恐ろしくなったローゼンハウムは
とうとう頭蓋骨を手放し、その後、何人もの手を経るんですが、
やはり同じ霊障現象が起きたとされます。

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1895年、頭蓋骨はウィーンの楽友協会の所有となり、
保管されていましたが、1954年、頭蓋骨はアイゼンシュタットに
運ばれて柩に戻され、ハイドンの2回目の公式な葬儀が行われました。
これで、およそ150年の頭蓋骨の放浪が終わったわけです。

さてさて、遺体が盗難にあった有名人はハイドンだけではありません。
シェークスピア、同じ音楽家のモーツアルト、ベートーベン、
イギリスの革命家トマス・ペインなども、頭蓋骨の一部または
全部が盗まれているんです。ということで、土葬にまつわる
怪談話でした。では、今回はこのへんで。