皿屋敷の舞台 | 怖い話します(選集)

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場所は都内某所にある怪談ルーム、そこに来た人たちが語った内容 す。

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今日はけっこう地味めな話題になります。日本の三大怪談というと、
「四谷怪談」「牡丹燈籠」はほぼ確定的ですが、3つ目には「累ヶ淵」と
「皿屋敷」を入れる人に分かれたりします。「皿屋敷」の場合、
主家の大切な10枚揃いの皿のうちの一枚を割ってしまった

奉公人のお菊が、折檻を受けて井戸に身を投げ、それから夜な夜な
幽霊となって井戸から現れ、「一枚足りない、うらめしや~」とつぶやく、
わりと単純な物語だと思ってる人が多いようですが、
実はそうでもないんです。

まず、お菊の話には前段がありますが、これをご存じない人が多い。
そして井戸がキーになっています。ところで、
「皿屋敷」には「播州皿屋敷」と「番町皿屋敷」と2つあるんですが、
播州は現在の姫路で、番町は江戸の町名です。
これがなぜ2つあるかというと、千姫つながりなんですね。

千姫
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千姫というのは徳川秀忠の娘、徳川家光の姉で、たいそうな美人
だったそうですが、桑名藩主の嫡男本多忠刻と結婚します。
本多家はこの後、播磨姫路に移封されますので、
ここで播州との縁が生まれます。ただし播州での千姫の人生は
不幸なもので、長男と夫を病気で失ってしまいます。

まだ30才で未亡人となりました。将軍の家光は姉の不幸に同情して、
江戸の五番町に下屋敷を建てて移り住まわせることとなりました。
ここで番町との縁ができます。さて、まだ若い千姫ですので、
江戸に移ってきてから荒淫伝説が生まれます。
 

「吉田通れば二階から招く、しかも鹿の子の振袖で」という俗謡が
ありますが、吉田というのは、千姫が住んでいた吉田御殿のことです。

情欲をもてあましていた千姫は、この御殿の窓から道行く人々を眺めて、
いい男がいたら振り袖で招いて屋敷にひっぱり込み、食い物にしていた・・・
ところがこの話が広まると、御殿のそばを通る人がいなくなった。

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そこで千姫は、側役を務める花井壱岐という侍と密かに通じるように
なったんですが、ある日、この花井の浮気が発覚してしまったんですね。
花井が侍女の竹尾と戯れているのを見つけた千姫は、嫉妬のあまり
竹尾の顔に焼け火箸を押しつけ、屋敷にある井戸に投げ込んで殺してしまう。

さらには自分を裏切った花井も殺して、同じ井戸に放り込んだ。
それ以来、井戸からは2人の亡霊が夜な夜な現れるようになった。
やがて千姫が死に、屋敷は荒れ果てて住むものもなく取り壊され
更地になり、その土地は「更(さら)屋敷」と呼ばれた。

これで「皿屋敷」の舞台が整いました。で、この土地を買って屋敷を建てたのが、
火付盗賊改・青山播磨守主膳です。あとはみなさんご存知の物語で、
ここに菊という下女が奉公していた。承応二年正月二日、
菊は主膳が大事にしていた皿十枚のうち1枚を割ってしまった。怒った
奥方は菊を責めるが、主膳はそれでは手ぬるいと、皿一枚の代わりにと
菊の中指を切り落とし、手打ちにするといって一室に監禁してしまう。

菊は縄付きのまま部屋を抜け出して裏の古井戸に身を投げた。
まもなく夜ごとに井戸の底から「一枚、二枚」と皿を数える女の声が
屋敷中に響き渡り、身の毛もよだつ恐ろしさであった。
やがて奥方の産んだ子供には右の中指がなかった。
この事件は公儀の耳にも入り、主膳は所領を没収された。

その後もなお屋敷内で皿数えの声が続くというので、
公儀は小石川伝通院の了誉(りょうよ)上人に鎮魂の読経を依頼した。
ある夜、上人が読経しているところに皿を数える声が「八枚、九枚・・・」
そこですかさず上人は「十」と付け加えると、
菊の亡霊は「あらうれしや」と言って消え失せたという。


もちろんこの話は創作で、青山播磨守主膳という
火付盗賊改は実在していませんし、
了誉上人も、200年ほど時代がずれた人です。
歌舞伎芝居や講談で有名になっていったものなんですね。



さてさて、千姫の逸話が因縁になって「更屋敷」はもともと呪われた
土地でした。ですから、お菊の事件のようなことが起きてしまったのも
当然といえば当然です。現代の怪談でも、よくない場所に家を建てて
家族が崩壊していく、なんてのは定番になってますよね。
これは呪われた土地とそこにある井戸のお話なんです。

最後に「お菊虫」のエピソードをつけ加えておきましょう。
お菊虫はお菊のたたりで大量発生したと言われます。
その形は「女が後ろ手に縛り上げられた姿」をしていて、
ジャコウアゲハのサナギではないかと考えられています。

お菊虫