九州男児でしょう?
酒が飲めないなんて冗談でしょ?
接待の場で初対面の人は必ずそう言う。
酒は、顔で飲むもんじゃないけど・・・「俺の酒が飲めないのなら被れ!」と頭から酒をかけられた営業さんの話を聞いたことがある。
酒が飲める人には、飲めない人のことが理解できない。酒を飲んで楽しくなる人に、気分が悪くなる人のことは理解できない。万人にとって酒は美味しいもんだ、飲めば楽しくなるもんだと思っている。
僕は、全く飲めないわけじゃない。でも、美味しいとは思わないし、飲めば気分が悪くなるけど、少しは飲める。飲むとすぐに頭がガンガンして、気分が悪くなる。そして寝る。所構わず寝る。客と飲んでいても寝る。とにかく寝る。たぶん、隣に裸のおねーちゃんがいても寝る。若かりし頃、馴染みのスナックでは、気がつくと真っ暗な店でひとりで寝ていた。テーブルには店の鍵と置手紙「鍵をかけて帰ってね」酒屋のにいちゃんが入ってきて驚いたこともあった。
で、初対面の客を接待するとき、「飲め」と言われたらこう言う。
「わかりました。飲みます。その代わりひとつだけお願いがあります」
「いいよ、言ってみな」
「僕をホテルまで連れて帰って下さい。酔うとひとりでは帰れないので」
「なんだ、そんなことか。御安い御用だ。タクシーで送ってやるよ」
僕は、飲んだら本当にひとりでは帰れない。出張先のしらない土地では、ホテルの場所など、伝えられるわけがない。だが、客は酔って千鳥足になるくらいだと思っている。自分がそうだからだ。
「では、お言葉に甘えて」
「おう、飲め!飲め!」
「お姉さん、バーボンをショットで」
僕は、たくさんは飲めないけど、バーボンをショットで飲むのが好きだ。
「おぉ?ストレートで飲むのか?」
「はい」
「なんだぁ、飲めるんじゃないか」
「いえ、少ししか飲めないんです」
「いいよいいよ。ストレートで飲むとはなかなかやるじゃないか」
で、5杯~6杯飲んだところで潰れる。
で、次回の接待。
「いや~、この前は参った。本当に飲めないんだね。いやいや、無理して飲むことはない。烏龍茶でどうぞ」
さて、前回の接待で何があったのでしょう?
いえ、決して絡んだり暴れたりはしていないのです。潰れた僕は、ぐっすりと寝ていました。客は「潰れちゃったよ」とか言いながら、僕を肴に飲んだ後帰ることにする。
「帰りますよ~。○○さん、帰りますよ~」
と、僕を起こそうとするのだが、揺さぶろうが、耳元で叫ぼうが、僕は起きない。やがて、客は僕を起こすのを諦める。途方に暮れる。しかし、約束をした以上、置いて帰るわけにはいかない。客は覚悟を決める。
ある客は僕をおんぶして、ある客は僕の肩を二人で支えて、タクシーまで。ホテルに着いてやれやれと思うのだが、客の苦難はまだまだ続く。僕はぐっすりと寝たままなのだ。なんとかタクシーから降ろし、ホテルのフロントへ。鍵をもらってエレベータに乗り、部屋まで連れて行く。ドアを開け、ベッドに僕を寝かせる頃には、汗びっしょり。酔いも醒めている。
「参った・・・」
それから客は、二度と「飲め」とは言わなくなる。