何年前になるだろうか?会社の後輩に連れられて行った日出漁港。今は、城下鰈の養殖場になって入ることはできないが、当時は埋め立てが始まったばかりで、工事をしてない日は、絶好の釣り場になっていた。
会社の同僚数人で、昼頃からわいわいと釣りをしていた。黒鯛の釣り方など何も知らず、撒き餌も適当に買った集魚剤だけだったと思う。
夕方も近付いてきた頃、運の悪い黒鯛が僕の餌を食べた。20cmくらいだったと思う。それでもその日唯一の黒鯛だったので、結構盛り上がった。「今日の竿頭だ」などと持ち上げられて、その気になっていた。
日も暮れた8時前、「来た!」と叫ぶ後輩。42cmの見事なチヌを釣り上げた。新たなヒーローの誕生である。「やったなぁ」と握手をする。
で、後輩は早々に帰り仕度を始めた。
「家まで1時間かかるので、ぼちぼち帰りますわ」
「そうやなぁ、結構遅い時間になるもんなぁ」
それから、ちょっと釣り談議。仕掛けがどうで、引きがどうだったとか。
「じゃあ、またな」
と、話を終わらせて、海を見る。海を見る。自分の浮木が浮かんでいた辺りを見る・・・
「俺の浮木がない」
「え?」
「何か食ったかなぁ」
ベールを開けて置き竿にしていた竿を持ち上げる。ベールを閉じて糸を巻いた途端、強烈な引き。がんがん竿を叩く。初心者の僕は、何もできずにただ竿を持っていた。ジージーとドラッグが音をたて糸が出て行く。ただ竿を持っている僕。
沖に走っていた魚が、右に方向転換。そして、防波堤の際に生えていた藻に絡まる。すると後輩が
「そのままにしておいて。動かないで」
と言ってタモを持ち、魚が藻に絡んだ辺りに走って行く。幸い僕の右側にいたのは全員会社の後輩だった。
「ごめん、ライトを点けます」
後輩はそう言って、キャップライトで海面を照らし、藻と一緒に魚をすくい上げる。後輩が釣ったチヌと同じサイズ。42cmの魚体はライトに照らされて銀色に輝いていた。
後輩の薦めで魚拓をとることになり。帰るついでだからと後輩が釣具屋へと持って行ってくれた。その魚拓は僕の勲章となり、今でも家に飾っている。