『ムーンフラッシュ』を読みました。
著者はパトリシア・A・マキリップ。
近ごろ、大昔に読んだ本を無性に再読したくなっています。
本書もその一冊。大好きな一冊。
SFとファンタジーが融合したような作品。
素直にSFファンタジーと言ってはいかんのか? とも思いますが、いかんような気がする。
なぜかは説明できませんが。
ストーリー:
主人公は、原始的な生活を送る部族の少女・カイレオール。
広大な森林地帯を流れるひとすじの河。「世界」は上流にそびえる〈屏風岩〉に始まり、河が大瀑布となって消える下流の〈十四の滝〉で終わる。それが「世界」のすべてだった。
しかし、好奇心旺盛で空想家のカイレオールは、疑問を抱かずにはいられなかった。
〈十四の滝〉の先には本当に何もないの? 河と直角に森を進んで行ったらどうなるの?
年頃になり、親の決めた、幼いころに一度会ったきりで顔もよくおぼえていない許婚と〈婚約の儀〉を終えたカイレオール。許婚は、彼女が空想にふけるのに、あまりいい顔をしない。そんな折り、幼なじみの少年・タージェが舟を漕いでいるのを見かけ、衝動的に河くだりの旅に二人で出かけてしまう。〈結婚の儀〉を迎えて正式な妻となる前に、どうしても〝世界の涯〟を見ておきたくなったのだ。
ひと目見たら、気が済んで帰るつもりだった。なのに……激流に呑まれて滝から落下し、故郷に帰れなくなってしまう。
〈十四の滝〉の先にも世界が広がっていることを知った二人は、河くだりの旅を続ける。
タイトルになっている「ムーンフラッシュ」とは、月面で、火花のような閃光がまたたく現象。
カイレオールの故郷では、それは愛の象徴であったが、下流の世界で出会ったいくつかの社会では、戦争の象徴であったり、死の象徴であったりした。「ムーンフラッシュ」とは何なのか?
旅の終着点で、カイレオールは、「世界」の真の姿と「ムーンフラッシュ」の正体を知ることになる。
少女から大人へ――ひとことで言うと、カイレオールの成長譚なのですが、心を揺らがせ、恐れながら、新しい世界への扉を開いていく過程が、繊細に描かれており、その筆致の見事さに唸らされます。
「女になるということは世界が単純であるという見方を受け容れることなのだ」といった意味の文章から、固定化されたジェンダーの問題を読み取ることは容易です。少女はやがて妻となり、母となり、子を産み育て、伝統を伝えていく。祖先から連綿と続く繰り返し。
カイレオールは、それが正しいことだと頭で考え、自分を納得させようとしますが、どうしてもできずに、自分の心で世界を感じ、理解する道を選択します。
旅を通じ、見聞が増えるにつれ、彼女の世界は広がっていきますが、それは必ずしも喜ばしいことばかりではありませんでした。
旅の終着点で、自分がもう二度と故郷に帰れないことを思い知るのです。それは物理的な距離の問題ではありませんでした。世界の真実を知ったあとでは、あの素朴な世界観の中に戻ることは、もう決してできなかったのです。河が「世界」のすべてだなんて!
少女時代、世界は物語と神秘に満ちていました。しかし、大人の目に映るのは、無味乾燥な「現実」。――それを知ることは、不幸なことなのでしょうか?
カイレオールとともに旅をし、彼女が「現実」の奥に発見した〈真実〉を一緒に確かめていただきたいと思います。
『ムーンドリーム』という続編があります。
『ムーンフラッシュ』で物語にひとつの区切りはついていますが、二冊あわせて読むのがベストでしょう。