スキップとローファー (全12話) | 物語の面白さを考えるブログ

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元旦にBS朝日で一挙放送していたのを録画して観ました。

面白いね、これ。

とりあえず第1話だけ観て買い物に出かけるつもりだったのに、結局、6時間テレビの前にいて、最後まで鑑賞してしまいました。

 

本作は、石川県の端っこの方から東京の高校に転校してきた岩倉美津未ちゃんが、志摩聡介くんをはじめ、タイプの異なるクラスメイトたちと次第に仲良くなっていくスクールライフ・コメディである。

同種の作品はたくさんあるのに、なぜこんなに面白いと感じたのか、考えてみました(当ブログのタイトルを見るべし)。

この作品の面白さの肝は、キャラクターの心理や人間関係を安定させずにストーリーを進行している点にあると思います。

安定してしまったら、それはもうハッピーエンドなわけで。物語、終わってしまいます。

常に誰かの心の中や、誰かと誰かの関係が緊張をはらんでいるので、この先どうなるのだろう? と、視聴者は気になって目が離せなくなります。

このような物語作りは、ひとつの理想形なので、面白い作品は、本作にかぎらず、いま述べたような仕組みが巧みに構築されているはずです。

さらに本作では、「意外性の面白さ」を要所に用いることによって、視聴者を飽きさせずに興味を持続させています。

 

キャラクターの掘り下げがまだなされていない第1話では、「意外性の面白さ」を畳みかけるように連発することで、視聴者を作品内に引き込みました。

まずは、主人公の美津未ちゃんが、転校初日、入学式に遅刻しそうになります。

初手から意外性のある行動ですね。

電車の乗り換えに失敗して困っているところを志摩くんにたすけられ、二人で登校するわけですが、間に合いそうになかったのに、ここでも美津未ちゃんは意外性のある行動に出ます。靴を脱いで裸足で駆け出すのです。

どうにか間に合うと、新入生代表のスピーチ役が美津未ちゃんであることが判明。おまえ首席だったんかーい!(意外)。

登壇したところで、スピーチの原稿を忘れてきたことに気付く。おまえ頭いいけどアホの子なのかーい!(意外)。

しかし全部暗記していたので、原稿なしで立派にスピーチをやり遂げる。おまえやっぱり頭いいんだな!(意外)。

壇を降りると、極度の緊張からゲロを吐いて担任の先生の服を汚す。ぅおーいっ!(意外)。

……とまあ、こんな具合で、「意外性の面白さ」を連打されたことで、もう美津未ちゃんから目が離せなくなってしまいましたとさ。

 

人間関係に緊張をもたらすために、悪役――と言ってしまうのは過言ですが、不協和音をもたらす役割を持ったキャラクターが配置されています。

前半では、江頭ミカ、後半では、西城梨々華がそれに該当します。

この作品では、彼女たちを単なる「悪役」にして、これを懲らしめてカタルシスを得る、といった展開は放棄しています。

彼女たちの中にある、嫉妬や恐れ、コンプレックス、エゴなどを肯定し、彼女たち自身がそれを認めることで心情が変化する、といった展開が採用されています。

つまり、物語の中に、彼女たちの居場所がちゃんと用意されているわけです。

優しい作品だな、と思わず微笑を浮かべてしまいました。

サブキャラにすぎない生徒会の人たちや、演劇部の先輩などにも、ちゃんと居場所が用意されています。彼らの心の中の不協和音が静まる瞬間というのが、ちゃんと描かれているのですね。丁寧な物語作りに好感が持てます。

心の不協和音が静まる瞬間をどう描くか、という段にも、「意外性の面白さ」が効果的に使われていて、一番印象的だったのが、梨々華嬢ですね。

彼女は志摩くんの過去に深く関わっているキャラクターで、志摩くんの心の十字架となっているのですが、その重荷から解放されて前向きに生きたいと志摩くんから告げられた後で、意外な一面を見せます。大泣きするんですね。クールで気の強い「悪役」だと思っていたのに、こうまで弱い面を見せられると、視聴者としては何かもう憎めなくなっちゃうんですね。もうわかったから、そんなに泣くなよ、とハンカチのひとつも差し出したくなる。幼なじみのクリスくんがハンカチを差し出したら、鼻水かんで返されましたけど(意外性)。

――とまあ、こんな感じで、「不安定な心理・人間関係性」を「意外性の面白さ」で演出して、上手にストーリーを進展させる手法が、本作の面白さの大きなひとつの要因なのだと思いました。

 

あと、特に言っておきたいのが、OP映像の楽しさ!

美津未ちゃんと志摩くんが楽しそうに踊っているので、観ているこっちも楽しい気持ちになります。

これが本来のアニメーションの楽しさ、素晴らしさなのじゃないかと思います。

「絵の動き」そのもので見る者の感情を動かすっていう。

作画カロリーの高い絵でヌルヌル動けば神回! みたいな最近の風潮にちょっと疑問を感じている私には、このOP映像の方がよっぽど神作画に思えるのですよ。

音楽と合っている踊りのリズム、振り付け、衣服の躍動感、キャラクターの表情、カメラワーク――全部完璧じゃないですかね。

「お化けの手」で踊っているところが特に好き。本当に楽しそう。観るたびに楽しくなってしまいます。