『波風』 藤岡陽子 市井の人々の懸命に生きる姿に胸が熱くなる | ドラゴンボーイの憂鬱@レンタルスペース自由が丘サクラボロー

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友人の美樹から「一生に一度きり」と頼まれ、朋子はある旅に付き添うことに。お互い看護師、三十代半ば。美樹が旅先で打ち明けた、この先後悔しないための決断とは?(表題作) 母親の再婚によって居場所を失った姉弟。二人を引き取ったのは動物園の飼育員のマア子おばさんだった。(「月夜のディナー」) 波乱含みの風が問う家族、夫婦、友情の形。爽やかに心揺さぶる7編。

 

 

藤岡さんの作品を読んだのは初めてです。

心が洗われるような良い話ばかりでなんだか浄化された気がする。

 

『波風』

『鬼灯』

『月夜のディナー』

『テンの手』

『結い言』

『真昼の月』

『デンジソウ』

全7編です。

 

家族、友人や周りの人間との関係に藤岡さんの優しい目線が感じられます。

藤岡さんの経歴を拝見すると大学卒業後に新聞社に勤め、留学もなさってそれから看護学校を卒業と読むだけでも藤岡さんの前向きな姿勢とその時その時のご自分の気持ちを大切に生きてこられたことがわかるような気がする。

自分の人生が恥ずかしくなるようで辛い。

 

この短篇集の中で男性が主人公のものは2編、それ以外は脇役として男性が登場しますがなんとなくみんなタイプが似ている。

派手さのない縁の下の力持ちみたいな人達、藤岡さんの理想の男性像なのかなと思う。

 

私が好きなのは『月夜のディナー』『テンの手』『結い言』です。

 

『月夜のディナー』は母親が再婚して新しい父親に愛されなかった姉弟が叔母に引き取られるという話。母親がなぜ子供たちを守ってくれないのかと読んでいて辛くなった。母親も一人の人間で自分を守りたいという気持ちはとてもよくわかるんだけれど、それでも納得いかない。叔母に反発する弟の気持ちもよくわかる。それでもやっぱり真心っていつかは通じるものなんだと思える作品です。

 

『テンの手』は北海道の高校生の話です。体格にも才能にも恵まれた野球部員であるテンと親友の晃平の話です。誰からも絶対に光のさす場所へと出ていくだろうと思われていたテンに起こったある事故。これ、テンも晃平も本当にいいやつなんですよ。それぞれに光るものを持っている。テンみたいに目立たないけれど努力を続ける晃平。良い話過ぎてめちゃくちゃ泣ける。

 

『結い言』着付け教室でただ一人の老人と主人公をはじめまわりの人間とのふれあい。なんでおじいさんが着付け教室に通うんだろうという謎に涙。この話も誰一人嫌な人間が登場しなかった。

 

普段私が読むような作品だと絶対にとてつもなく嫌な人間が登場するのだけれど、この作品集にはほとんどそういう人間はいない。ある意味現実に近いのかなと思う。現実を性善説の目でみたらこういう感じだと思う。私もこういう心持ちでいられたらどれだけ幸せだろうと思う。

 

実はこの後に辻村深月さんの『闇祓』を読んだのですが、あまりにもタイプが違いすぎて笑える。辻村さんは人間の心の奥のそのまた奥を描いている。誰か一人が悪なんじゃないというところまで導いてくれている。

 

心の描き方は本当に色々あるなと思う。

性善説を信じない私みたいな人間も藤岡さんの作品を読むとああこういう世界線ならみんなが最後には幸せになれるのになぜこうならないかと思ってしまう。

 

途中苦しい事、悲しい事があっても絶対に幸せになれるよって言ってくれているのがこの藤岡さんの作品だと思う。