奔放な実母・咲子とも、二度目の結婚でさずかった娘とも生き別れた塚本千春という女。昭和から平成へと移りゆく時代、血縁にとらわれず、北の大地をさすらう千春は、やがて現代詩の賞を受け、作家を夢見るが……。千春の数奇な生と性、彼女と関わる人々が抱えた闇と光を、研ぎ澄まされた筆致で炙り出す。桜木ワールドの魅力を凝縮した、珠玉の九編。 松田哲夫氏(編集者・書評家)激賞!『一人一人の命が星のように光っている。その輝きを「物語」に結実させたエンディングの鮮やかさは見事!』

 

こういう昭和からの脈々とした女の生き様は今や桜木さんじゃなくちゃ書けないなと思うくらいです。

人一人の人生に影と光があるのならばその影を描き尽くすのが桜木さんです。

 

この作品は千春の人生を中心にその母・咲子、娘・やや子を描いた連作短編集です。

スタートが『ひとりワルツ』でこの中に『乙女のワルツ』という歌謡曲が登場するのでおそらく1975年くらい?

咲子は本当は31だけれど25と偽ってスナック勤めをしている。昔付き合った男との間には千春という13の娘がいて母親に預けている。

もう絵に描いたような昭和歌謡の世界だなと思いました。

咲子はもちろん立派じゃない流されるように生きている女だけれど、咲子だけがいけないのか。

そうじゃないと思う。

月並みですが一般論として、きちんとした(貧しくても)家庭に育ち愛されて大きくなり心が安定しているという事がその人に人生にとって大きな事だろうと想像する。

要するに咲子や千春は自分勝手をしながらも自分を愛していない女だなと思う。

自己肯定感が低いので自分を男に安売りしてしまう。

どうしたら幸せになれるかを知らない女。

 

千春もまた同じような人生を送る。

祖母と二人の貧しい暮らしで簡単に近所の大学生の誘いに乗ってしまう。

とても歯痒いです。

これと言って魅力的でもないという千春もまた流されるように生きてしまう。

(これがなかなかに劇的な人生で唸ってしまいます)

 

一般論としてダメな女の中の人間臭い部分、可愛らしい部分をきちんとそこここで書いてくれている桜木さんのこの作品が好きです。

 

今の世の中でもきっとこういう人たちがいると思う。

こんな風に自分を安売りする女性がなくなる日がきて欲しいと思う。

形は違っても女を売りにするというのはそういう事だと思っている。

 

やや子もまた祖父母に育てられた母を知らない娘でありますが、この代でやっと希望が見えてきた。

ほっとしました。

 

途中登場する小説家志望の元編集者という存在が鍵となっていい感じのエンディングになっていました。

 

自分を大切にするということは言うのは簡単だけれど、実は難しい事です。

私もどちらかというと自己肯定感の低い人間なのでよくわかります。

今の私のように仙人のような生活ができればいいけれど、常に他の人と比較されたり、また自分が比較してしまうような環境は人間を傷つける場合がある。

そういう事で消耗してしまうタイプの人は生き方については慎重になる必要があると思う。

傷つかないコツを学ぶことは大切なことだ。

 

とにかく、桜木さんのこういう昔の日本みたいな作品が好きです。

昭和の人間の私にはよく理解できるから。