亡き妻の残したレシピをもとに、椎茸と格闘する泰平は、料理教室に通うことにした。不在という存在をユーラモスに綴る表題作のほか、叔母の家に突如あらわれ、家族のように振る舞う男が語る「ハクビシンを飼う」など。日常の片隅に起こる「ちょっと怖くて、愛おしい」五つの偏愛短編集。<泉鏡花賞受賞作>

 

 

中島京子さんの作品はどこか不思議な雰囲気が特徴なのかなと思います。

そもそも『妻が椎茸だったころ』って言われても一体どんなストーリーなのか想像もつきませんでした。

 

『リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い』

『ラフレシアナ』

『妻が椎茸だったころ』

『蔵篠猿宿パラサイト』

『ハクビシンを飼う』

全5編です

 

ちょっと前に『ゴースト』という作品も読んだのですが、そっちは本当に幽霊が出てくるような短編集で、私は好きでした。

こっちの椎茸は幽霊というわけではないのですが、なんだか私が見ている世界と中島さんの見ている世界ってちょっとズレているのかなって思うような奇妙さがなんとも言えずよかったです。

 

『リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い』は主人公が昔アメリカで経験した話を友人に語るという形式ですが、意外と危機一髪な体験を本人も気づいていないってことあるのかもしれないです。

 

『ラフレシアナ』

あまりモテなさそうな主人公が友人のパーティーで立花一郎を紹介される話。なんだろう?なんかゾッとしてしまった。

 

『妻が椎茸だったころ』

妻がくも膜下出血で突然亡くなってしまい、妻が申し込んでいた超人気の料理教室に代わりに行くことになる主人公。夫婦は生きている時にはお互い理解し合えていないところもいっぱいあると思うけれど、知らぬ間に代わりのない相手となっていることもまた真実だろうと思う。

妻のレシピ帖に書き込まれたメモが妻の不在をくっきりと描き出すところとか、主人公が自覚なしに妻の死に結構大きなダメージを受けていたことに気づいていく様子とか色々と好きな作品です。

 

『蔵篠猿宿パラサイト』

大学卒業を控え友達と温泉町に旅行に行く話。

これ結構怖かったです。

 

『ハクビシンを飼う』

ほとんど交流のなかったおばさんが亡くなって家の整理と処分のためにその家に出向いた主人公は縁側に腰掛けている若い男に出会う。彼は自分は甥のようなものだと名乗る。

これもまた不思議な話でなんだか化かされているような気分になる。なんだか寂しくて、悲しくて切ないけれど心の奥があったかくなるような感じ。

 

ハクビシンが一番好みでしたが、椎茸も良い。

中島さんの作品はなかなかに地味なんですが味わい深いのです。今回は何かに対する執着みたいなものが描かれているんですが、それがなんとなく世間並みとはズレているようなところが興味深かった。

ちなみに『妻が椎茸だったころ』は第42回泉鏡花賞受賞作品でなるほど泉鏡花賞はぴったりだなと思いました。