ワンダーワールド 悪鬼災来編 第29話 たこ焼きと百戦鬼と | 白龍のブログ 小説とかを描き続ける機械

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れなたちの拠点である事務所の目の前で、あるイベントが開催されていた。
れな、れみ、ドクロ、テリー、粉砕男にラオンに葵と、れなの仲間達が大集合。
更にそこに鬼子と火竜の二人、そして妖姫も加わり、十人のメンバーがある物を取り囲んでいた。
それは、たこ焼き器だった。煙があがるなか、美味しそうなたこ焼きがパックに入れられている。
葵が生地を流し入れながら皆に言う。
「熱いから気をつけてね皆。本当に熱いからね。気をつけてね。気を付けないと死ぬわよ」
たこ焼きに何かトラウマでもあるのだろうか…。死にはしないだろとラオンが彼女の背中を叩く。
その横ではれなは次々にたこ焼きを食べている。
更にその横でれみがこっそりれなのパックからたこ焼きを取ろうとしていた。
「あっ、妹だからといってやって良い事と悪い事があるだろが!!」
れみの頭を殴り付けるれな。あまりの勢いで、れみは地中に体が半分埋まってしまった。
ドクロはそれを呆れ顔で見つめてる…。
そんな彼女の隣からは…。
「おい、我が妹よ。あーんしろ。入れてやる」
テリーが、骨の指にたこ焼きをつまみながらドクロに歩み寄る。テリーは骸骨なのでたこ焼きは食べないようだ。
結構です、とばかりにドクロはそっぽを向いた。

火竜は炎の戦士なだけあり、熱々のたこ焼きを何の迷いもなく口に入れていた。鬼子は爪楊枝に刺したたこ焼きを見つめながら懐かしそうに言った。
「たこ焼きなんて久しぶりだわ。父さんが変わってしまう前は親子三人で食べてたわね」
思い出に浸りながらたこ焼きを食べる鬼子を見る火竜の目は何とも言えないものだった。

「うむ…」
鬼子の足元で、妖姫がわざとらしく疑問を浮かべた声を出している。
たこ焼きを見つめ、何かを考えてるようだ。
鬼子は膝を曲げて妖姫に聞く。
「どうしたの?」
「これ、何なのじゃ」
妖姫はたこ焼きをよく知らないようだった。
まずはそこからか…と火竜が笑ってる。


…一方粉砕男はまだ一つも減ってないたこ焼きのパックを持ちながら、何かを感じていた。
冷静な彼はこれから起きる事に気づきやすい。
周囲を見渡しながら、何かを警戒していた。


…そんな彼の予感は的中していた。


一同の真上…それも雲の上に達するほどに遥か上空に、侍のような悪鬼、技将百戦鬼が驚異的な視力で一同を見下ろしていた。
「やつらが例の悪鬼狩人とアンドロイドの連中か…。一見気抜けたやつらに見えるが、叡光鬼と剛強鬼の話を聞く限り、油断はできん。存在を気づかれぬよう、ここは最小限の威力の技で手早く仕留めるとしよう」
そう言うと、百戦鬼は腰元に備えていた槍を構え、振るい始めた。
槍が光り、とても小さく、透明な小型の槍が飛び出し、地上の一同へと向かう。
頭上の暗殺者に気づかない一同。
透明槍はあっという間に雲を抜け、一気に勢いがついて地上にいるれなの頭へ向かっていく!れなはたこ焼きに夢中で、気づいていない…!



…と、その時!
れなは突然たこ焼きのパックを空中に投げ飛ばし、バク宙、落ちてきたパックとたこ焼きを綺麗に受け止めるという奇行に出た。
一同はれなを白い目で見つめる。
「いやー折角のたこ焼きだし、何か芸でもやらないとと思ってね!」
透明の槍は地面に突き刺さり、消えてしまった。…誰も気づいていなかった。


とんでもない奇跡が起きたが、多くの戦いを乗り越えてきた百戦鬼はこの程度の事では驚かない。
「運が良いやつめ。ならば今度はこれでどうだ」
同じように槍を振るうが、今度は違う技だ。
百戦鬼の周りに風が巻き上がり、そのまま雲に穴を空けて地上の一同へと向かう。
「風を魔力で固めた風槍術だ」
聞こえるはずのない解説を始める百戦鬼。
次の標的はれなの横にいたれみだった…!


…が。

「あ、おい!!」
いきなり動くれみ。
隣のれなが自分のたこ焼きをこっそり奪っていた事に気づいたのだ。またもや奇跡の回避だった。
風槍術は地面に当たると、そのまま普通の風に分解され、一同に激しく吹きつく。
れみはそれによって更に憤慨。
「たこ焼き冷めちゃったじゃん!!お姉ちゃんのせいだぞこの野郎!!」
「風は関係ねえだろうがボケ!!」
理不尽な怒りと逆ギレのぶつかり合いが始まってしまった。
やれやれといった様子のラオンが、出来上がったたこ焼きを取っている。

「またまぐれか…!何という運の持ち主だ。ならば!」
またまた同じ槍の振り方だ。今度は百戦鬼の頭上に黄金の光が集まる。雷の魔力だ。
空間に亀裂を入れんばかりの勢いで雷が落とされる!
今度はれな、れみを同時に仕留める気だった。



「へくしょん!!」
雷にも匹敵する程の豪快なくしゃみが響き渡る!
ドクロのくしゃみだった。
そのくしゃみの勢いで、落ちてきた雷が何と今通ってきた軌道を再びなぞりながら空へと飛んでいく!

「!?」
百戦鬼は息を呑む。
流石に対応できず、自分の雷に直撃して大ダメージを負う!
黒焦げになりながらも、百戦鬼は一同の実力を認め始めた…。
「中々できる…!不意打ちで倒す事は不可能か…!」
そう言うと、百戦鬼はゆっくりと地上へと降りていく…。


「れみぃぃ!!それ私のよぉぉぉ!!」
鬼子のたこ焼きをこっそり奪いとったれみが鬼子から逃げ回っているのを笑いながら見守る一同。もはやまともに食べられないのか。
そんななか、粉砕男と妖姫だけは上空から迫りくる殺気に気づいていた。

「おい、何か来るぞ」
粉砕男の言葉に動きが止まる一同。


…ゆっくりと顔をあげると…冷ややかな目でこちらを見下ろす百戦鬼の姿が。
一同はたこ焼きをきっちり食べてから真っ先に構える。
草一本揺らす事なく繊細に舞い降りた百戦鬼に、れなが恐る恐る聞いた。
「な、何だお前!いつから見てた!?」
「我こそは百戦鬼。我らが大将亜華魔姫様の命により、お前達の首を貰い受けに来た」
それを聞いてれなは自分の首を抑えながら歯を食い縛る。
「いくら払っても首なんか売ってあげないよ!」
ボケをかますれなに問答無用とばかりに百戦鬼は槍を振り回し、構えをとる。
猛速度で空中に上昇、凄まじい速度で急降下し、まずは鬼子から狙う!
真っ向勝負では、悪鬼狩人である鬼子が一番厄介と見たのだ。
「やらせるか!」
火竜が飛び出し、槍を両手で受け止める!
衝撃で生じた風で、たこ焼き器の熱が瞬時に冷める。
百戦鬼は魔力を槍に集中し、槍に電撃を纏わせる!
火竜の手の平に激しい電気が走り、慌てて手を離す。
その隙を突き、即座に槍で胸元を突き刺そうとする百戦鬼だが、背後から大きな気配が近づくのを感じ、振り替える。
粉砕男の拳が、今まさに百戦鬼を殴ろうとしていた。
百戦鬼が槍を振り上げると同時に地面から氷の塊が出現し、粉砕男の顎を打ち付けた!
「がっ!!」
かなりのダメージだ。百戦鬼はその隙に粉砕男を蹴飛ばし、転倒させてみせた!
「むっ、まだ来るか!」
一難去ってまた一難。今度はドクロとテリーが魔力で鎌を召喚し、百戦鬼の頭上から振り下ろしてきていた!
その一撃を槍で受け止めるが、百戦鬼は一瞬バランスを崩す。
「小娘に骨男…。見た目は全く異なるが、この息のあった攻撃、お前達は兄妹か」
槍を振り回し、風を巻き上げ、竜巻を発生させる百戦鬼。兄妹ははね飛ばされてしまう。
今度はれなとれみが同時に足を振り上げ、風圧を発生させ、百戦鬼の竜巻を打ち消してみせる!
そのまま突進していく姉妹。更に二人に続いて葵が隠し持っていたハンドガンで発砲、ラオンがナイフを構えて突撃!
れな、れみ、葵、ラオン。アンドロイド四人の総攻撃だ。
百戦鬼は、真っ先に向かってきたラオンのナイフに槍を叩きつけて反撃、次に飛んできたハンドガンの弾を的確に突く事で破壊、姉妹が繰り出してきた蹴りも回し蹴り一発で相殺してみせる!
…だが、ここまで連撃が来ると百戦鬼も流石に対応が難しくなるようだ。
れなが叫ぶ。
「葵!今だ!」
葵が更にもう一発弾を放つ!
弾は百戦鬼の左手に炸裂し、槍を持つ手が僅かに震えた。
更に右手、右足に銃撃を叩き込み、体勢を崩させる!
「なっ…!人間が作った銃ごときでなぜここまで!」
「悪いけど私、持ってる銃は全部改造に改造を重ねてるのよ。れなたちの拳にも負けない威力だわ!」
得意気にハンドガンを向ける葵。そのまま発砲しながら接近していく!
弾丸を切り落としながら立ち上がる百戦鬼だが…。
「どこ見てやがる!」
ラオンのナイフと粉砕男の拳が百戦鬼の背中に叩きつけられた!
前のめりに倒れそうになるも、槍を地面に突き刺す事で転倒を免れる百戦鬼。
そのまま飛行し、空中からの攻撃に移行しようとしたのだが…。

その瞬間を狙い、れなが右手の平から青い破壊光線、オメガキャノンを放った!
彼女のすぐ横ではれみも人差し指から白いレーザーを撃ち、威力を更に倍増させていた。

…爆発が発生した。

一同は拳を握りながら、煙に呑まれた百戦鬼を睨む…。



…テリーが、呟いた。
「くそ…そう簡単にはいかないか」

煙から出てきた百戦鬼は、自身の正面に赤い光の壁を展開し、オメガキャノンの威力を半減していた。

「なるほど…。中々の実力者たちだ。お前達を一度に相手するのは骨が折れる。特に…」
百戦鬼は葵に赤い目を向けた。
ハンドガンを構える葵。
「人間ごときが作り上げた銃でダメージを負ったのは初めてだ。葵と言ったな…。この技将、百戦鬼。必ずやお前の首をとる!今ばかりは背中を見せるが、次はこうはいかん!」
百戦鬼はこちらに背中を向け、その姿を瞬時に消した。
一同は、百戦鬼が姿を消した直後も尚構え続けていた…。