トリゴネリン」と聞いて解る人は少ないのではないでしょうか。私も恥ずかしながら初めて知りました。

コーヒーの有効成分といえばポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が浮かびますし、カフェインも良し悪しを併せ持つ成分として知られていますが、トリゴネリンは?でした。

 

 

そこで本稿では、改めてトリゴネリンについての情報を提供します。

 

コーヒーは1日3~5杯程度の摂取で高い健康効果が得られることが、多くの研究結果から判っています。主にクロロゲン酸の抗酸化作用やカフェインの覚醒作用などに依るものでしたが、ここにトリゴネリンが加わることになる訳です。

 

そもそもトリゴネリンが機能性を持つ成分として認知されたのはここ数年のようです。

特に認知機能改善効果が注目され、他にも血管機能改善、血糖降下、神経保護をはじめ、生活習慣病の予防に繋がる成果も出ており、つい最近では筋肉の機能改善に役立つ報告もありました。

 

コーヒーの生豆に多く含まれるということですが、次の様な分析結果があります。

 

 

確かに、コーヒーの生豆には他の食品に比べて断トツに多いことが判りますが、トリゴネリンは熱に弱いので、焙煎することで熱分解されてしまうのです。

従って普通に出回っているコーヒー(深煎りが多い)を飲んでも、ほとんど含まれていないことになります。

 

<ここでガッカリせず、読み進めてください!>

 

トリゴネリンはアルカロイドの一種で、その構造は次の様です(下図の左端)。

 

つまり、トリゴネリンはナイアシン(ビタミンB群の一種)に似ていて、脱メチル化(メチル基が脱離)によってニコチン酸になることが判ります。

 

実際、熱分解によってニコチン酸に変化すること、また生体内でも酵素によりニコチン酸に変化することが、既に数十年以上前の論文(*)で明らかにされていたのです。

この論文は、

トリゴネリンは、酵素的あるいは熱分解的にニコチン酸に変換され、ナイアシンとして再利用される成分で、一種のニコチン酸の貯蔵系である

と結論づけています。

 

ビタミンB群のナイアシンは、生体内でNAD+に変換されて、様々な脱水素酵素の補酵素として働く必須の成分です。

 

現に、トリゴネリンの筋肉機能の改善(上記)に関する論文では、トリゴネリンがNAD+プールに取り込まれてNAD+レベルを増加させることを証明しています。

 

つまり、これまでに明らかにされているトリゴネリンの機能性は、それぞれがトリゴネリンそのものなのか、変換されたニコチン酸からのNAD+なのかは定かではありませんが、少なくとも、トリゴネリンが分解されたものを摂ってもその効果は期待できることになります。

 

回りくどくなったかもしれませんが、要するに、コーヒーの焙煎度や銘柄に一喜一憂せず、これまで通り自分の好みを優先させて嗜めば良い(但し飲むTPOや量は考慮)し、そうすることでコーヒーの健康効果が減じることはない、というのが結論です。

 

((*)田口 寛ら:トリゴネリンの生合成と代謝並びにその生理作用(ビタミン,62,549-557(1988))。また本文中の下線部の詳細については、インターネット等の情報で確認してください。)