引き続き後編です。

 

セキュアベース・リーダーシップとは

  • Coombe(2010)は,セキュアベースの役割と機能に着目し,リーダーがメンバーにとってセキュアベースとなりうるにはどのような行動や機能が求められるかについて検討し,セキュアベース・リーダーシップ理論を提唱している[15]。
  • セキュアベース・リーダーシップとは、リーダーがチームメンバーの安全基地(セキュアベース)となることで、メンバーの可能性を開くというリーダーシップ論[5]。
  • セキュアベース・リーダーシップは安心感や帰属意識を高めた先に、メンバーが進んで挑戦できるようになるという考え方[5]。

 

セキュアベース・リーダーシップの二大機能

  • セキュアベース・リーダーシップは、「安心感や思いやり(安全)」と「挑戦やリスクテイク(探索)」の 2 つの機能を併せ持つ[15]。
  • セキュアベースの重要な特徴とは,「安全(安心)」と「探索(リスクテイク)」という 2 つの機能を併せ持っている点である[15]。
  • この2つの機能について従来のリーダーシップ論では,LMX やサーバント・リーダーシップは前者の機能と,他方,変革型リーダーシップなどは後者の機能と関連するものの,両方の機能を併せ持つ理論は看過されてきている[15]。
  • 変革型リーダーシップは,メンバーにリスクテイクを促す役割を持つものの,その行動を行う背景に安心感が十分でないことを示唆している[15]。
  • セキュアベース・リーダーシップは、リーダーとメンバーとの新しい関係性を築くことを目指して,リーダーがフォロワーに対して安心感と安全性を与えるセキュアベース(安全基地)となり,そしてそれによって未来に向けた挑戦的行動を促すことに着目する[15]。
  • セキュアベース・リーダーシップ理論とは,メンバーにとってリーダーが「安全基地(セキュアベース)」となることで,メンバーは守られている,安心できるという感覚を抱き,それを基盤として,未来への挑戦やリスクテイクが促される機能を持つ[15]。
  • セキュアベース・リーダーシップは、「安心感や思いやり(安全)」と「挑戦やリスクテイク(探索)」という2つの機能のうち、「探索」は、未来を志向してメンバーの成長やリスクテイクを促す働きかけを意味する[15]。
  • セキュアベース・リーダーシップの探索因子は,チームのメンバーが新しい課題に取り組むことを促す機能を持つ[15]。
  • セキュアベース・リーダーシップの構成要素が「探索の促進」「安心・安全の提供」「リーダーへの対人的信頼」の3要素から成るとした上で、このうち「探索の促進」の要素がチーム成果を高める[7]。

 

セキュアベース・リーダーシップの本質

  • セキュアベース・リーダーシップは、部下たちがリスクを取ることに挑戦する気持ちを呼び起こし、力づけるところに、核心的意義があるという点である。思いやりを示し、受容し、「守られている」という感覚と安心感を与えることは基盤として重要であるが、それだけにとどまって、リスクを恐れず挑戦したり、冒険したりしようとするモチベーションを高めることができなければ、セキュアベース・リーダーシップとはいえない[2]。
  • 端的に表現すれば、前向きに挑戦する行動を引き出すことができて、初めてその職場は安全基地になったといえる[3]。
  • 安心できる場であることは基本の要件であるが、それだけでは安全基地と呼ぶには不十分で、メンバーが思い切ってリスクテイクし、挑戦していく行動を促進する「場の特性」を備えることまでを視野に入れておくことが大切だ[3]。→だからOKRなのか?
  • 安心して引きこもってしまう甘えの場となってしまっては、真の意味での安全基地とは言えない[3]。
  • 結局のところ、リスクテイキングや挑戦には勇気が必要だ。この勇気に強く影響するのが、失敗に伴って受ける可能性がある損失(≒問責や懲罰)の大きさの見積もりである。この視点に立てば、失敗しても大丈夫だと思える程度が鍵を握ることになる。失敗によって被る損失や被害がかなり大きいと感じれば、リスクは大きく認知されるし、失敗が怖く感じられ、挑戦をためらうことにつながる。逆に、失敗によって被る損失や被害はさほど大きくないと感じれば、リスクは小さく認知され、失敗への恐怖は和らぎ、挑戦への動機づけが高まることになる[3]。
  • メンバーの才能、意欲、創造性、エネルギーを解き放つために、安心して“失敗”できる場を作ることが、セキュアベース・リーダーシップにおいて求められるリーダー像です[5]。
  • この結果からすると、リーダーがチームにおいて行うべきことは安心を与えることと、心置きなく挑戦ができるようにすること―その土台として、リーダーが愛をもってメンバーに接することが大切だということになるでしょう[7]。
  • リーダーがフォロワーに与えているものは本質的に愛情なのではないのか、それがフォロワーの安全につながり、成果を出せるようになっているのではないか、というのがセキュアベース・リーダーシップの核です[7]。
  • フォロワーに愛情を注ぎ、安全な場を与えてあげることで、その人は心理的安定を得て、挑戦を行うようになる[7]。
  • 組織や職場が母親のようにメンバーの挑戦を励まし、見守り、失敗して帰ってきても、へこたれることなく、経験を活かしてまた挑戦へと飛び出していく態度を育成することの大切さを説くものであるといえるだろう[3]。
  • Davidovitz et al.(2007)は,リーダーの愛着スタイルが,彼ら自身のリーダーシップ動機と関わりを持つ可能性があることから,人間関係に対して心配や不安を強く感じる不安型の愛着スタイルを持つリーダーは,利己的なリーダーシップ動機を持ち,リーダーとしての資質についても低い評価を受けていた.一方で,安定型のリーダーはフォロワーの反応に適切に対応することで安心感をもたらし(Mikulincer & Shaver, 2003),フォロワーの自尊心や自律性,創造性を醸成することが示唆されている(Popper & Mayseless,2003)[15]。
  • Coombe(2010)は,セキュアベース・リーダーシップを,a)メンバーに対して価値を認め,受け入れ,感謝することで安全を提供する,b)成長や発達,潜在性を強調することで探求心を提供する,そして c)前向きな方法で課題や状況に対処する,などの 3 つの要素を含む理論であると定義している(Coombe, 2010, p24)[15]。
  • Combe(2010)は、セキュアベース・リーダーシップを3つの要素からなるとしています[7]。
    • (1)メンバーに対して価値を認め、受け入れ、感謝することで安全を提供する
    • (2)成長や発達、ポテンシャルを強調することで探究心を促進する
    • (3)前向きな方法で課題や状況に対処する
    • 出典:Combe, D. D. (2010) Secure base leadership: A positive theory of leadership incorporating safety, exploration and positive action. Doctoral Dissertation, Case Western Reserve University.

 

セキュアベース・リーダーシップによる心理的安全性の醸成

  • セキュアベース・リーダーシップは,チームのメンバーに発言や提案などの対人的リスクを取ることへの安心感をもたらし,さらにそうした行動を行うことへの動機づけを高めることから、心理的安全性を醸成する役割を持つ[15]。
  • 昨今,心理的安全性の重要性が叫ばれているが,それがどのようなリーダーシップによって醸成されるか実証的な検討は十分とは言い難い.セキュアベース・リーダーシップは,安心(安全)と挑戦(探索)の2 つの機能を併せ持ち,メンバーにとって安全基地となることで,メンバーは挑戦することができるようになることから,心理的安全性を醸成される役割を持つ理論と言える[15]。
  • 心理的安全性を醸成するためのリーダーの役割として,Edmondson(2019)は,リーダーがメンバーの支えとなり,助言を惜しみなく与え,疑問や挑戦を奨励するような態度や行動をとることで,メンバーはこのチームは安全であると感じるようになる[15]。
  • リーダーがミスや失敗を許容するシグナルを発することは,メンバーに対してミスを恐れない安全なチームを醸成することにつながることを主張している[15]。

 

心理的安全性は目指すことは「単に居心地の良い組織」ではない

  • 「心理的安全性」と「居心地の良さ」は、イコールではない。ただし、重要な関係はある[4]。
  • 心理的安全性は、快適な、居心地の良い職場づくりではない。達成基準を下げることではない。まして、・リーダーが部下に配慮しがちになり、言うべきことも言えなくなるようなことがあれば、本末転倒[*]。
  • 心理的安全性という言葉がバズワードになり、さまざまな企業で取り入られる中、改めて伝えたいことは、われわれが目指す組織は"学習する組織"であるということだ。心理的安全性は、快適な、居心地の良い職場づくりではなく、学習を促進できる「厳しい」職場づくりである[10]。
  • チーム学習やイノベーションなどを醸成する概念として関心が寄せられている[15]。
  • 心理的安全性とは、素直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを、人々が安心して取れる環境のことである(エドモンドソン『恐れのない組織』)
  • 居心地の良さや安心・安全という感情が土台として存在することでリスクがとりやすい場、リスクをとっても居心地が悪くない場[4]。
  • 心理的安全性とは,「対人的なリスクのある行動を取っても,このチームは安全だとメンバーが信じている状態」(Edmondson,1999)を意味する概念である[15]。
  • 野心的な目標を設定し、その目標に向かって協働することに有益[*]。
  • 心理的安全性のアウトカムは、「新規課題への取り組み」といったチーム成果[15]。

 

しかし、リーダーの奮闘努力だけでは限界アリ

  • 心理的安全性が高ければ全員が発言をするのか?結論から言えば、心理的安全性「だけ」ではムリ心理的安全性はあくまでそういう「環境」でしかない。そういう傾向、つまり全体でみれば発言を増やす傾向になる可能性が高く、発言を誘う重要な要素ではあっても、それだけでその結果をだせるものではない[4]。
  • 心理的安全性が高ければ発言「しやすく」なりはする。ただ、そこにおいて個々人が最終的に発言「する」かどうかは最終的には個人の判断になる[4]。
  • 近年、心理的に安全な職場はリーダーがつくるものであるという風潮がある。しかし、部下が主体性をもって取り組める環境をつくることはリーダーの役割ではあるが、部下が"口を開けて待っているだけ"では、"優しい職場"は実現できても、"学習する組織"にはたどり着けない[10]。
  • 近年、心理的に安全な職場はリーダーがつくるものであるという風潮がある。組織において心理的安全性の必要性が叫ばれる中、心理的に安全な職場はリーダーがつくるべきであり、メンバーはつくってもらうという規範が出来上がってしまうことは大きな問題。
  • 部下が主体性をもって取り組める環境をつくることはリーダーの役割ではあるが、部下が"口を開けて待っているだけ"では、"優しい職場"は実現できても、"学習する組織"にはたどり着けない。
  • 心理的安全性がある職場とは、一人ひとりが自分の意見・主張を持っているということであり、決して受け身の姿勢ではない
  • カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授の調査によると、組織が出す結果に対して「リーダー」が及ぼす影響力は10%~20%程度なのに対し、「メンバー」が及ぼす影響力は80%~90%にのぼることが分かっています。
  • アメリカにあるカーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授の調査によると、組織が出す結果に対してリーダーが及ぼす影響力は10%~20%程度。対してフォロワーが及ぼす影響力は、80%~90%にのぼるそうです。
  • カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授の調査で、リーダーが組織に与える影響力は10~20%なのに対し、メンバーが組織に与える影響力は80~90%との結果が出ています[8]。
  • 組織の成功に対してリーダーの平均的貢献度は20%であり、残りの80%はフォロワーが握っている[10]
  • フォロワーシップの重要性を説く中で、組織の成功に対してリーダーの平均的貢献度は20%であり、残りの80%はフォロワーが握っている
  • 学習や誘導や広報、(様々な意味での)報酬体系の整備といったあの手この手なからめ手が必要になる[4]。
  • メンバーのフォロワーシップが高いほど、組織で高い成果を発揮できるでしょう[8]。
  • 権威勾配が高い組織においては、リーダーの影響力は絶大[10]だが、心理的安全性が高いチームづくりに向け、リーダーがサーバント的(組織に奉仕する)に行動する中では、フォロワーシップが欠かせない要素となる。なぜならば、リーダーがサーバント的になることは、意図的にチームの中の権威勾配を低くすることにつながるからだ。もちろんVUCAの時代であり、現場の声や意見が重要だからこそではあるが、リーダーの権威勾配を低くするということは、必然的にメンバーの発言力・責任性が増すことにつながる。メンバーの発言力が増えれば増えるほど、当然ながら、その影響力は増してくる。だからこそ、メンバー自身が責任をもって、組織の目標達成に向けた率直かつ有益な意見を言う努力が欠かせない。
  • 上司が常に正しいとは限りません。上司の間違った判断や不適切な仕事の進め方を指摘し、チームを正しい方向性に導くためにフォロワーがいます。リーダーの指示・決定に疑問があれば、メンバーから訴えることも重要です[8]。
  • リーダーも完璧ではないと認識し、メンバー自身が積極的にリーダーのセキュアベースになろうとすることが肝要[10]。
  • リーダーは、メンバー管理以外にも仕事を担っていることが多く、チームを引っ張るのがたやすくない点でも、リーダーを助けるメンバーは大切な存在と言えるでしょう[8]。
  • ビジネス環境が変わるスピードは速く、時代の変化に合う業務展開が必要です[8]。
  • リーダー以上に現場で仕事をする機会の多いメンバーの視点は、顧客・社会から求められる新規事業に活かせると期待できます[8]。

 

フォロワーシップとは

  • フォロワーシップとは、リーダーの言動に対して建設的な批判をし、自発的で担当業務以上の仕事をすること」(Kelly, 1992)
  • フォロワーシップとは、上司の不足をサポートする姿勢を指し、「優秀な部下力」とも訳されるスキル。
  • フォロワーシップとは、上司のスキル不足をサポートすること
  • 上司から「信頼される存在」になるためのセオリー
  • フォロワーシップとは、上司を動かす力
  • フォロワーシップとは、チームワーク向上を目的にリーダーや他のメンバーに積極的に働きかけることです。「リーダーを率先して支援する」「自らの意志で組織に貢献する」などの意味を含みます[8]。
  • フォロワーが組織のゴールをリーダーと共有し、そのゴールに向かって行動することで直接的または間接的にリーダーや組織に対して発揮される影響力」(西之坊・古田,2013)
  • リーダーや組織に対して発揮される肯定的な影響力のこと
  • リーダーの指示に従うだけではなく主体的にゴールに向かって行動すること
  • フォロワーシップとは、チームの成果を最大化させるために、「自律的かつ主体的にリーダーや他メンバーに働きかけ支援すること」です。具体的には、リーダーの意思決定や行動に誤りがあると感じた場合は、臆することなく提言を行ったり、チームがより良い方向に進むようメンバーに働きかけたりと、自分の置かれたポジションだからこそできることを主体的に実行していくことを指します。
  • フォロワーシップとは、フォロワーがリーダーや組織のために考え行動すること。
  • フォロワーシップは、その言葉から「リーダーをフォローする人(=部下やチームメンバー)に求められるもの」と思われがちですが、そうではありません。フォロワーシップは、リーダーを含めてチーム全員に求められるものです。役職や立場に関係なく、状況次第でリーダーがフォロワーとなり、リーダーシップを発揮している部下に対して、健全な批判をしたり、提言を行ったりすること
  • また会社組織においてフォロワーシップは、リーダーも含む全従業員に必要なスキルといえる。

 

「批判」という言葉について
注意したいのは「批判」という言葉の意味です。ここでは物事の善悪や是非を評価して論ずることを指しており、ミスを非難するといった否定的な意味合いは含まれません。しかし日本人にとって批判という言葉は、否定的な使われ方が多いです。アメリカのフォロワーシップの研究では「批判する力」という言葉が出てきますが、日本ではそのような否定的な意味と誤解されるのを避けるため、「提言する力」として用いられることが多い。

フォロワーシップが注目されるようになった背景

  • 現代のビジネス環境は急速に変化しており、組織のリーダーではないフォロワーも、能動的な判断や行動が求められるようになっています。
  • 現代では多様な価値観や考え方が尊重されるなか、フォロワーシップの重要性が増してきているのです。一人ひとりが個性を発揮しながら多くの人とかかわり、組織全体を発展させていくには、フォロワーシップが必要だからです。
  • 変化の激しい現代においては、課題やプロジェクトへの当事者意識が強く、知識や能力のある人がフォロワーシップを発揮した方が、より良い結果を出すことがあります。チームとして成果を最大化させるには、メンバーのフォロワーシップが欠かせないことが分かります。


リーダーシップとフォロワーシップの関係

  • リーダーがビジョンを示し、フォロワーが実行に落とし込む
  • 改めてリーダーシップとは、何だろうか。リーダーシップとは、方向性やビジョンを提示し、同じ方向に向かって周囲を動機づけ、目標を実現していく影響力のこと。この影響力は、決定権・責任を持つリーダーだけでなく、立場に関係なく発揮すべきものである[10]。
  • 組織を動かすのに、フォロワーシップと切り離せないのがリーダーシップです。リーダーシップは組織のビジョン・方向性を示す、意思決定することで発揮されます。またフォロワーシップに基づく行動は、組織の目標達成のため具体的な計画に基づいて業務を進めるリーダーの設定した目標や意思決定に問題がある場合は代案を進んで持ちかけるといったことです。リーダーシップとフォロワーシップ、​どちらかだけでは効果が低く、​相互に働きかけられることで一体感のある組織となります[8]。
  • フォロワーシップは、単独では影響力がありませんリーダーによるリーダーシップのもとで効果を発揮します。たとえば、リーダーシップによりビジョンが提示された状況下で、物事を具体化して実行するのは、フォロワーシップの力によるもの。つまりリーダーが方針を示したのち、フォロワーが実現できるように計画するという流れになっています。
  • リーダーは、フォロワーの存在なくして成り立ちません。どんなに素晴らしい功績があっても、その人をリーダーと認めるフォロワーがいなければ、リーダーで居続けるのは難しいといえます。組織ではリーダーとフォロワー、互いに認めあうことが必要。つまりフォロワーシップの強化は、組織全体の信頼関係に影響しているのです。
  • リーダーシップとフォロワーシップは、組織という車を動かすための両輪の関係にあります。どちらかだけでは効果が低く、相互に影響しあうことで、組織として成果をあげることができます
  • リーダーの役割の1つが「ビジョンや組織の方向性を示す」ことであるのに対し、フォロワーの役割は「具体的な行動計画を立て実行する」ことです。フォロワーシップのある組織は、リーダーが示したビジョンをフォロワーが具体的な行動計画に落とし込み、当事者として業務を遂行していきます
  • リーダーが意思決定し、フォロワーは"健全な"批判をする
  • リーダーの役割は「意思決定する」こと、フォロワーの役割は「提言を行う(=健全な批判をする)」ことです。
  • リーダーのビジョンや意思決定に誤りがあると感じた場合は、フォロワーがリーダーに率直に提言を行います。
  • ビジネスを取り巻く環境変化が激しい現代では、メンバー全員が主体的に考えて行動し、チームとしての成果を上げていくことが求められます。
  • リーダーシップとフォロワーシップは相互に補い合い、相乗効果を生み出す関係にあります。例えばリーダーが主導するのに対して、フォロワーはリーダーを支えます。リーダーが決断するのに対して、フォロワーは批判・提言を行います。両者がリーダーシップとフォロワーシップの両方について理解することで、信頼関係の構築が進みます。互いに互いの役割を尊重して業務を遂行するからこそ、建設的な議論が可能になり、余計なストレスなく目的に向かって業務を遂行できるようになる。
  • リーダーは最終決定の権限や責任を持ちます。フォロワーシップを持つメンバーは、決定が下されるまでに、リーダーとこまめにコミュニケーションをとりながら目標や途中経過を共有しているため、最終決定を受け入れられます[8]。
  • 上司も組織の中ではフォロワーの一人です。部下からの信頼を得るには説得力ある言葉で伝える必要があります[8]。

 

フォロワーシップとメンバーシップの違い

  • フォロワーと聞くと、リーダーを補佐する役割のある部下・メンバーを思い浮かべることから、フォロワーシップは一部の従業員に求められるものと考える方もいるでしょう。しかし、フォロワーシップは全ての従業員に求められます。より良い組織づくりにチーム全員の協力が欠かせないためです[8]。
  • フォロワーシップと似た言葉に「メンバーシップ」があります[8]。
  • フォロワーシップもメンバーシップも、チーム・組織を良くするためのものである点は共通です。違いはどのようにサポートするかです[8]。
  • フォロワーシップはチームの機能を果たすためにリーダーをバックアップするのに対して、メンバーシップは自分の役目を果たしたり目標を達成したりしてチームを支えます[8]。
  • フォロワーシップとメンバーシップは意味合いが異なります。フォロワーシップとは、フォロワーの立場からリーダーを支援するという面が強い。メンバーシップ:各人がそれぞれの立場で役割を果たし、組織全体を支援する。つまりメンバーシップとは、リーダーシップとフォロワーシップを包括したものです。

 

フォロワーシップを規定する主要二軸

  • フォロワーシップとは、組織の一員として「リーダーへの自律的支援」と「組織への主体的貢献」を行うことです。フォロワーシップを発揮できる優れたメンバーの存在は、組織が成果を上げるためのカギとなります。
  • ロバート・ケリー教授は、2つの軸(①批判的関与、②積極的関与)をもとに、5つのタイプに分類しています。
  • ロバート・ケリー教授は、「批判的思考」「積極的関与」の2つの軸を基にフォロワーを5つのタイプに分けました。

Ⅰ軸:批判的思考

  • リーダーが示した方針や戦略、指示内容などを主体的に考え、建設的な批判や提言を行うこと
  • リーダーの決定や指示を自分で深く考え、建設的な批判や提言を行うことができることをいう
  • independent critical thinking(独自の批判的思考) と表現されます。批判的思考とは、感情や主観に流されずに物事を客観的・論理的に判断しようとする思考プロセスのことです。批判的思考の対極にあるものとしては、dependent uncritical thinking(依存的・無批判の思考) があります。
  • リーダーの指示・決定に対し、自分から批判や提言ができること[8]

Ⅱ軸: 積極的関与

  • リーダーが示した方針や戦略、指示内容をポジティブにとらえ、協力的な姿勢で関与すること

  • リーダーの決定や指示、役割を前向きに捉え、実現に向けて積極的に協力することができることをいう

  • 組織パフォーマンスに対する貢献力に相当

  • 貢献力とは、自分の能力を積極的に発揮してリーダーを支援し、 組織の目的達成に貢献する力のことです。貢献力を評価する基準は、「フォロワーがリーダーに対して積極的に関与しているか」になります。active(積極的関与) とpassive(消極的関与) に分類される。

  • リーダーの指示・決定を前向きに捉え、組織を良くするための行動を積極的にとれること[8]
  • 目的を達成しようとする意欲
  • 合目的的に物事に取り組む姿勢[16]。
  • 合目的的に行動できる[16]。
  • 「合目的的」であること価値ある目標であれば、どんな人でもそれに向かってチャレンジすることを厭わない目標を示し、その達成のために何が合目的的な行動のか。リーダーが判断基準をそこにおく限り、人は協調し、同じ方向を向いて行動する。ぞの基準さえ踏み外さなければ、部下に仕事を大きく任せても良いという。「合目的的」とは、人を纏めるキーワードである[16]。

 

 

フォロワーシップ5類型

  • この5つのタイプはフォロワーシップの解説としてよく引き合いに出されるものの、本来の意味でフォロワーシップを発揮しているのは①だけであり、②~④は単なるフォロワーの分類説明でしかありません。
  • 言えばそれなりに仕事をしてくれる「順応型」や「実務型」は、上司にとっては比較的扱いやすそうな部下に見えます。しかし、フォロワーシップに詳しい神戸大学大学院経営学研究科教授の金井壽宏氏は、このような「単に喜んでリーダーについていくだけのフォロワー」を問題視しています。なぜならば、リーダーの指示が誤っていたとしても、誰も正してくれないから。また、万が一リーダーが不在になった場合、チームが崩壊する可能性もあります。同様に、「孤立型」が増えてしまっては、そもそも仕事が進んでいきません。「消極的フォロワー」が増えるとどうなるかは言うまでもありませんが……。
  • フォロワーには5つのタイプがありますが、この分類の目的はフォロワー内に優劣をつけることではありません。社員が現在、どのフォロワータイプなのかを把握することが目的です。その上で今後、批判的思考力と貢献力の両方を伸ばしていけるようサポートすることが重要になります。
  • フォロワーシップには「建設的提言」と「貢献意欲」がいかに大切であるかが理解できる

 

タイプ1.模範的フォロワー

  • 批判的思考、積極的関与の傾向がともに高いのが模範的フォロワー
  • 模範的フォロワーは、いわば「パートナータイプ」
  • 無批判な考え方に陥ることなく自分なりの考えを持ち、主体的に行動できる
  • 上司やリーダーの意見に対して主体的に考え、正しいと感じた場合には積極的、協力的に取り組みます。また、批判や提言を行う際もその理由が明確かつ建設的
  • リーダーにとっては「右腕」ともいえる存在で、その名のとおり、もっとも理想的なフォロワーといえるのが模範的フォロワー
  • リーダーとほぼ対等な立場で建設的な提言を行いつつ、周囲とも協調しながら組織に貢献できる。
  • 独自の批判的思考力を有し、組織に対して積極的関与を示すフォロワーです。組織の非能率的な壁に立ちはだかっても才能をいかんなく発揮し、目指すべき目標に対して積極的に取り組んでいくという特徴を持っています
  • 理想的なフォロワーとされるのが模範的フォロワーです。積極的に意見を言え、他のメンバーのことを考えながら行動にも移せます[8]。
  • リーダーシップも持っているので、メンバーをまとめるような仕事も任せられ、将来的にはリーダーとして活躍できる素質を備えています[8]。
  • 未来志向。フォロワーシップが高いと、チームの目標・ミッションを理解した上で、会社や社会に貢献できることを積極的に発信します。今やるべきことだけではなく、将来のためにできることを考えながら行動します[8]。

 

タイプ2.孤立型フォロワー

  • 一匹狼タイプ
  • 批判的思考の傾向が高く、積極的関与の傾向が低い
  • 批判はするが組織への貢献意欲が低いため、自らは行動しない評論家的な存在。
  • 批判的な視点を持つだけで行動しない
  • エネルギーが、仕事そのものではなくチームを嫌悪する方向へ向かっているタイプです。批判的・建設的な思考はするものの、チームのために積極的に動こうとはしてくれません
  • 自の批判的思考力を有するものの、組織に対して消極的関与を示すフォロワー
  • 批判や提言の内容は明確かつ建設的ではあるものの、積極的に関与しようとする姿勢が少なく、「チームプレーには向かない」と評されることもあります。評論家のようなフォロワーといえるでしょう
  • 興味深いことに多くの孤立型フォロワーはもともと模範的フォロワーであったが、リーダーや組織に対して嫌気がさした経験があったり、不当な扱いを受けたと考えていたりするとも言われています
  • 意見は言うものの、組織への貢献度が低いため行動力はありません[8]。
  • ですが、意見を言えるのは物事を冷静に見ているからとも捉えられ、チームにメリットの大きい意見を持っていることも多いです[8]。
  • 良い案や改善策はないか聞くようにし、評価していることが伝わるようにしましょう[8]。
  • 実行力も高めるには、信頼しているからこそ手本となるような行動を示してほしいことも伝えるのがポイントです[8]。

 

タイプ3:順応型フォロワー

  • 批判的思考の傾向は低く、積極的関与の傾向が高いのが順応型フォロワー
  • 組織に積極的関与を示すが、依存的・無批判の思考のフォロワー
  • リーダーに対して服従し順応することが義務であると考える傾向があります。
  • 「リーダーには服従することが義務である」と考えています。リーダーから与えられた仕事はそのとおりこなしてくれるので、リーダーにとっては扱いやすい反面、指示待ち人間というデメリットもあります
  • リーダーが決定した方針や指示内容は絶対ととらえ、忠実に従うという特徴があり、自分の考えがない「イエスマン」と映るケースもあります。リーダーにとっては扱いやすいフォロワーと考えられがちですが、具体的な指示がなければ動かないことも多い
  • 言ってみれば、ゴマすりタイプ
  • 順応なイエスマン
  • リーダーの決定・指示に従順に従う。扱いやすいが「指示待ち」と捉えられることも。
  • 自分から意見を言うことは少ないですが、言われたことはこなせるタイプです[8]。
  • 指示に従ってくれる、チームの和を乱すような態度をとらない点では一緒に働く上で困ることはないですが、自らのアイデアを共有したり自分から動いたりするのは苦手です[8]。
  • 主体性を持てないのは、反対意見を述べたり自分なりに仕事を進めたりすると、評価が下がると思い込んでいる可能性も考えられます[8]。
  • 考えを共有する機会や、チャレンジできる環境で自分の考え方が悪く評価されないと分かると、主体性を持てるようになるでしょう[8]。

 

タイプ4.消極的フォロワー

  • 批判的思考、積極的関与ともに低い傾向
  • 無批判で消極的
  • 自分の意見もなく、積極的な関与もしない
  • 依存的・無批判の思考を有し、消極的関与を示すタイプのフォロワー
  • 端的にいえば、無気力タイプ
  • 建設的な批判や提言をすることが少なく、協力的に関与する姿勢も見られないことから、主体性がなくおとなしいといった印象を持たることが多いでしょう。模範的フォロワーとは対照的な存在であり、組織への貢献度はもっとも低いフォロワーといえます。
  • 考えることをリーダーに頼り、仕事に対する熱意や責任感、積極性に欠ける傾向にあります。自分の業務分担を超えるような危険を犯すことはありません。
  • リーダーに頼りきりで仕事に対する熱意もありません。
  • 意見もなく自分から動こうともしない、フォロワーとは言い難いタイプです[8]。
  • 自分の考えや行動でチームに迷惑がかけることを恐れ、積極性や主体性を失っているとも考えられます[8]。
  • 自分で考えて動くのが苦手なので、仕事を頼む時は、やってほしい業務内容と業務の目的・お願いした理由なども説明することがポイントです[8]。
  • スムーズに業務をこなせるようになるまで大きなリターンを期待せず、伝えたことができていたら評価するくらいの姿勢が求められます[8]。
  • 業務中に不明点やトラブルがあっても、相談・報告しないことがあるので、困ったことはないか定期的に聞くことも大切です[8]。


タイプ5.実務型フォロワー

  • 批判的思考または積極的関与へ傾向が偏らず、中立的な立場を貫くのが実務型フォロワー
  • 自身の業務範囲内の仕事はやるものの、指示されていないことについては積極的に関わらない。
  • リアリストタイプ
  • 適度に独自の批判的思考力と積極的関与を示すフォロワーです。いい仕事はしたがるが、進んで自らを危険にさらすことはなく、失敗も避けたがります。
  • いい仕事はしたがるものの、自らすすんでチャレンジしようところまでは行きません。失敗を恐れる現実主義者タイプです。
  • 自分自身の役割や仕事に徹し、与えられた業務に対して一定の成果は出せるものの、自分自身に与えられた仕事以外には関わることがない傾向があるフォロワーでもあります。「挑戦的な思考が欠けている」といわれるケースもあります。

  • 批判的思考と積極的関与の特徴をバランスよく持つものの、自分の業務範囲以外のところでフォロワーシップを発揮しない「実務型」は注意が必要
  • 適度に意見を述べたり行動に移します。また、仕事は仕事と割り切っています[8]。
  • 限られた範囲内でも主体性と積極性を発揮できるので、頼んだ仕事をしっかりこなせていたら評価し、新たな仕事を依頼するというように、責任ある仕事を少しずつ任せることでフォロワーシップの発揮が期待できます[8]。

 

健全な批判や提言を行う力を身につける

  • フォロワーシップを発揮するためには、組織やリーダーの意思決定に対して「その意思決定は本当に正しいのか」「問題の本質は一体何なのか」について、"あえて"批判的に考えてみる必要があります。こうした思考法は、「クリティカルシンキング(=批判的思考)」といいます。
  • クリティカルシンキングで重要なポイントは、単に否定をすればよいということではなく、批判的に検討を加えることで、主観や感情に流されることなく、物事を客観的に捉え、適切な判断を行うことです。
  • フォロワーはリーダーを支える役割のため、批判的な思考を持つ、つまりクリティカルシンキングを身に付けるのも重要です。組織やリーダーの意思決定に対して、「意思決定は本当に正しいか」「問題の本質は一体何なのか」つねに意識している人物が必要といえます。組織がイエスマンのみで構成されているとなれ合いが発生し、組織のパフォーマンス向上は期待できません
  • リーダーに積極的に意見を伝える

 

フォロワーシップがもたらす組織的効果

  • 部下が自発的に動き、積極的にリーダーをサポートできるようになる[8]
  • 決定に誤りがある時は方向性を正したり、滞っている業務を分担したりして上司をフォローできる[8]
  • リーダーの考えや意思決定に疑問を感じた場合、フォロワーは建設的な批判や提言を行い、リーダーに気づきを与え考えなおす機会を与えることができます
  • フォロワーが、リーダーに批判や提言を行うことで、リーダーは常に健全な緊張感を持つことができ組織の自浄効果が働きます
  • リーダーの考えをチーム全体で共有・理解した上で、目標達成のための行動に移れる[8]
  • コミュニケーションが活発になる[8]
  • 現場の情報を上層部に伝えやすくなる[8]
  • チームで目標や仕事の目的が共有されることで、一体感が生まれる[8]
  • 指導者に対するフォロワーシップだけでなく、共通の価値観や目標に基づく一体感が大切であり、個々のチームに対しての貢献意識が組織全体の発展に繋がることを忘れずに行動することの重要性は昔も今も変わらない[9]。
  • メンバー間の結束が強まり、信頼関係が生まれる[8]
  • フォロワーは組織を活性化させる存在としても重要です。リーダーとともに組織の構成要素であるため、行動の仕方により組織全体を活性化できます。
  • フォロワーシップを意識して行動すると、「同じ成果にたどり着くまでの時間や費用が節約できる」「組織が活性化する」などプラスアルファの効果が期待できます。
  • リーダーの指示をチーム全体に浸透、波及させる。時には、リーダーの指示がチームメンバー全員に行き渡っておらず、不満が出てくることがあるかもしれません。そのような時は、フォロワーがリーダーに指示の背景にある目的や意図を確認し、それをチーム全体に浸透させる役割を担いましょう。そうすると、リーダーからの信頼、メンバーからの信頼の両方を得ることができます。

 

フォロワーシップがもたらす個人的効果

  • 一人ひとりが良い人間関係を築きながら率先して仕事ができるようになる[8]
  • キャリアアップにつながる[8]
  • 指示を待たずに自分から動けるようになる[8]
  • 若手の時から上司に提言する機会が多いおかげで、権限のある仕事ができる可能性が広がる[8]
  • 上司の立場に立って仕事をすること自体が、人材育成の一環になる[8]

 

“対チーム”フォロワーシップ発揮の5ステップ [9]

  1. 自身の立ち位置を把握する
    • 自分の役割や現在の立ち位置を理解し、チームへのアウトプットを行う[9]
  2. チームの目的・目標・状態を知る
    • チームの目的や目標、現在の状態を理解することによって、進むべき方向性をリーダーと共有する[9]
  3. チームとコミュニケーションを図る
    • コミュニケーションを図ることで、メンバー同士の理解を深める[9]
  4. チームのニーズを把握する
    • メンバーが考える理想と実際のチームのギャップや、求めている点を把握する[9]
  5. チームの不足を補佐する
    • メンバーのニーズやコミュニケーションを通して、チームに不足している点を理解し、自身のスキルや能力で補完する提案を行う[9]
  6. チームに提言・提案する
    • チーム全体の進歩を促進するために、自分から提案を行い、行動に移す[9]
    • フォロワーシップの発揮は、チーム全体の目標達成や効率向上を通じて、自身のキャリアを発展させることにもつながります[9]。

 

心理的安全性をベースにしたチームが目指す姿[10]

  1. 一人ひとりが自分の意見・主張を持っている[10]。
    • 自分なりの考えを持つことはフォロワーシップに欠かせません。新しい視点は組織の発展に役立ちます[8]。
    • 心理的安全性がある職場とは、一人ひとりが自分の意見・主張を持っているということであり、決して受け身の姿勢ではない[10]。
  2. 自らの意見をチームやメンバーに表明できる。相手の意見に対して違う意見がある場合に、その意見を伝えることができる
  3. お互いの意見の相違について、その内容を受け止め、組織の目標達成に向けて最も合理的な選択をした上で話し合いができる
  4. 相手の意見を否定したりしても、後々、そのことで対人関係が悪くなったり、評価が下げられたり、人格的な攻撃を受けたりしない
    • 「意見の批判」と「人格の否定」を区別できるようになることが肝要

 

目指すは「学習する組織」

  • 縦軸を「心理的安全性」、横軸を「目標達成に対する責任感」とした時、第2象限は心理的安全性だけが高い「快適 Comfort」なゾーン。目指したいゾーンは、横軸「目標達成に対する責任感」の高さも加えた第1象限[4]。
  • 社会心理学の領域で研究されてきた、制御焦点理論(regulatory focus theory; Higgins,1997)で論じられているように、人間には利得(≒成功)を求めて前向きに挑戦的な態度でものごとに臨む傾向(=促進焦点)と、損失(≒失敗)からできるだけ遠ざかろうとする消極的で逃避的な態度でものごとに臨む傾向(=回避焦点)とが備わっている。この2つの傾向のバランスによっては、リスクテイキングや挑戦、冒険に積極的に取り組む傾向を強く持つ個人もいるだろう。とはいえ、性格的には促進焦点に重心がある人でも、損失(≒失敗)する可能性、すなわちリスクが高ければ、当然のことながら、挑戦や冒険には強いためらいを覚えるだろう。他方、リスクが低ければ、挑戦や冒険へのためらいは小さくなるだろう[3]。

  • 過去のリスク・テイキングの意思決定の結果を振り返ったときに、成功が続いているのか、失敗が続いているのか、その成否状況の変化の様相である。成功が続いているとき(=景気が良いとき、調子が良いとき)であればリスク・テイキングは難しいことではない。しかし、逆に失敗が続いているとき(=景気が悪いとき、調子が悪いとき)であれば、どうしても慎重さが増し、リスク回避を選択することがわかっている。1990年代に始まった景気の停滞・低迷からなかなか抜け出せていない我が国の状況を考えれば、失敗する確率が高いのに「挑戦してみなさい」と指示されても、無謀に思えるだけで、心を動かされないという人が多いのは仕方のないことかもしれない[2]。
  • 挑戦的な行動を組織的に引き出せるか否かを決めるポイントは、自分の所属する職場や組織では、失敗したときに、どのような組織的対処が待ち受けているのかについて、各メンバーがどのように認知しているのか、というところにある。これは、組織や職場のマネジメントの工夫によって、望ましい方向に導くことが可能なものである。失敗を懲罰、叱責の対象に位置づけるのではなく、今後の成功に活かす学びの対象と位置づけるマネジメントである[3]。
  • 果敢に挑戦することを奨励し、挑戦の結果であれば、失敗しても問責ではなく、そこから何を学ぶべきかを考えることに取り組ませるマネジメントは、具体的にどのようなものだろうか。もちろん、組織トップの英断と指揮が効果的であることは確かであろう。他方、個々の職場やチームで行うボトムアップの取り組みも重要である。職場を「仕事をこなす、片付ける場」と捉えてしまうフレーミングから「学びの場」というフレーミングへと変化させていく管理者のリーダーシップ行動が求められる[3]
  • 心理学の用語に「ローカス・オブ・コントロール(Locus of Control)」という言葉がある。これは、行動やその行動によって起きる結果が、自分の力でコントロールできるのか(自己統制・問題解決思考)、それとも外的な力によってコントロールされているのか(環境・他者依存思考)という認知様式である。自己統制・問題解決思考のメンバーが多いほど、チームの成果は高いことは明らかである一方で、心理的安全性が低い組織では、環境・他者依存思考になってしまっていることが多い[10]。
  • 人はリーダーとフォロワーの双方の立場を併せ持つが、フォロワーの視点になった瞬間に、ベクトルが自分に向かず他責になりがちになる。知らず知らずに組織の悪しき風土や落ち度に対して、自分よりも上のリーダーの責任にしているのである。"心理的安全性は権限を持つリーダーが変わらなければいけない、ビジョンを示して安全基地をつくるべきだ"というように。このような思考でいると、他者依存的になり、人間の自律性の欲求が満たされず、ストレスがたまる。筆者の経験上も、できることから始めて、リーダーの良きフォロワーになること、リーダーのセキュアベースになろうと決めた瞬間から、その気持ちは前向きになり、実際にストレスは軽くなった[10]。

 

新時代の組織環境要請に合致するセキュアベース・リーダーシップ

  • 昨今のVUCA と称される組織環境や,リーダーとメンバーとの物理的距離が存在するリモートワークやバーチャルチームにおいては,リーダーが安全基地となるメンバーとの関係性は,ますます求められていくと考えられる[15]。
  • 昨今,働き方の自由度が高まり,オフィス以外で働くリモートワークが浸透しつつある.関連して,チームも多くのメンバーがオンラインで参加,活動することも増えている.こうした環境では,リーダーとメンバーとの間に物理的な距離が生じることから,新しい関係性を築く必要性に迫られている. なぜなら,Hoch & Kozlowski(2014)が示すように,リーダーとメンバーとの間の物理的な距離は,リーダーシップの影響力を低下させる危険性を持つからである.そこに資する新しい関係性のアプローチがセキュアベース・リーダーシップである.すなわち,メンバーにとって,リーダーが安全基地となり得るかが,たとえ離れた場所で働いたとしても,自律的に働くだけでなく,挑戦やリスクテイクを取ることができるかに影響する.ここに,これからの組織環境において,セキュアベース・リーダーシップに着目する意義がある[15]。
 

リーダーシップ研究の焦点は「行動」から「関係性」へ

  • これまでに,組織メンバーやチームによる自律的でプロアクティブな行動を引き出すために,様々なリーダーシップの効果が検討されている.
  • 変革型リーダーシップ(e.g.,Avolio et al., 1999; Bass, 1985)では,変革のビジョンを掲げ,その必要性や意義を理解させながら,メンバーを動機づけている(Schmitt et al.,2016)
  • サーバント・リーダーシップも,ビジョンの実現に向けてメンバーを支援することで自律性を促している(Luo & Zheng, 2018)[15]。
  • メンバーを支援するサーバント・リーダーシップの行動が心理的安全性に結実する効果は,既にSchaubroeck et al.(2011)などでも明らかにされている[15]。
  • これらの研究は,リーダーの働きかけに焦点が当てられてきたが,重要な点が見落とされていると思われる.すなわち,リーダーの働きかけを受け入れ,プロアクティブな行動につながるかは,リーダーとメンバーとの関係性のあり方に依存するからである[15]。
  • 従来のリーダーシップ論における関係性アプローチを代表する理論に,リーダー・メンバー交換理論(LMX; Graen & Uhl-Bien, 1995)が存在するが、LMX が想定するリーダーとメンバーの関係性は相互の期待を充足した「安心感」に基づくものであるため,メンバーの職務行動が失敗を伴う挑戦的な範囲にまで及ぶとは必ずしも言えない[15]。
  • したがって,不確実性が高く,予測が困難な状況において,メンバーやチームによるリスクを伴うプロアクティブな行動を引き出していくためには,LMX の枠組みでは限界があり,リーダーとメンバーとの新たな関係性を検討していく必要があると考えられる[15]。
  • リーダーの行動だけでなく,リーダーがメンバーにとって支援的な存在であるかがチームにおける心理的安全性の醸成に大きく寄与することを裏づけており,心理的安全性の形成や開発にも示唆を持つ知見と言えるだろう[15]。

[参考文献]
[1] https://www.ogis-ri.co.jp/column/kr/369.html
[2] https://www.ogis-ri.co.jp/column/kr/373.html
[3] https://www.ogis-ri.co.jp/column/kr/371.html
[4] https://qiita.com/i9i/items/219f5abb43f31821b0ab
[5] https://jinjibu.jp/keyword/detl/1474/
[6] https://www.weblio.jp/content/%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9
[7] https://yasabi.co.jp/securebase-leadership/
[8] https://survey.lafool.jp/mindfulness/column/0155.html
[9] https://www.re-current.co.jp/column/column/7905/#i-3
[10] https://www.rosei.jp/readers/article/83259
[11] https://www.weblio.jp/content/%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9
[12] https://www.yourexcellence.jp/2017/03/%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%9F%BA%E5%9C%B0%EF%BD%9E%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F
[13] https://www.syougai.metro.tokyo.lg.jp/sesaku/communication/list/com02.html
[14] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E7%9D%80
[15] https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/56/1/56_20221130-4/_pdf
[16] https://www.amazon.co.jp/hz/reviews-render/lighthouse/4478066965?filterByKeyword=%E5%90%88%E7%9B%AE%E7%9A%84%E7%9A%84&pageNumber=1

【出典】
https://www.kaonavi.jp/dictionary/followership/
https://mba.globis.ac.jp/careernote/1239.html
https://achievement-hrs.co.jp/ritori/followership-and-leadership/
https://www.re-current.co.jp/column/column/4518/
https://studyhacker.net/followership-importance
https://media.bizreach.biz/36876/
https://www.corner-inc.co.jp/media/c0164/#%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AD%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B5%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97
https://www.question-circle.jp/2020/10/1135
に対し