その後、何度も読み直し、

何度もちょこちょこ書き直していましたが、

 

うん、

ようやく完成したといえるのかな。

 

「参加者の声」や「自分ゴト化に至る四段階」など、組み込みたい内容はまだまだ在りますが、ページ数の制限があるため、やむを得ないです。

 

今回は、

全6回のうちの、第5回。

最終回は総まとめなので、それまでとは性格が異なります。今回が、実質的な最後の主張。

 

最終章の末文は

品質表現に相当する「副詞句」を追加し、主張を締め括ることにしました。ハッキリとした、強い副詞を示すことにしました。

 

これ以外の言い回しはない。

これでいい。

 

 

1 はじめに

 かねてから、「経営者目線を持て」「オーナーシップをもって臨め」などという掛け声は存在していますが、それを実践できている企業がどれだけあるでしょうか。従業員一人ひとりが事業の明日を自分ゴト化する手立てが必要だと思われます。

 建機メーカーのコマツが「ブランドマネジメント活動(BM活動)」と呼ぶ独自の取組を開始して今年15年目を迎えました。BM活動は、顧客から見てコマツがなくてはならない度合いを高めパートナーとして選ばれ続けるための組織横断的活動です(図表1)。経済紙などメディアでたびたび紹介される同社スマートコンストラクションのアイデアはBM活動から生まれました。その後、最終的に経営トップが決断して誕生したものがスマートコンストラクション事業です。

 BMの根幹にある思想は、徹底的な顧客志向。日本をはじめ、北米や欧州、アジアなど世界の各拠点で部門横断型チームが「顧客は、何をしたいのか?(顧客Do)」と「そのようDoニーズに応えるべく、自分たちコマツは何をすべきか?(自社Do)」という命題に取り組んでいます。前者は外部適応、後者は内部適応に関する検討といえます。毎秋に開催されるグローバルBM大会では、世界各国のBMチームが自分たちの取組みを交換し合い、コマツがパートナーとして選ばれ続けるための知識創造が継続的になされています。


2 TQMからみたBM活動の位置付け

 TQMにおけるBM大会の位置づけを考えてみましょう。組織的な知識の集約と生成による「組織学習の場」という点でQC大会とBM大会は同じです。しかし、QC大会が「事業の改善」を重視する傾向があるのに対し、BM大会は顧客志向の徹底による「事業の発展」に目を向けており、両者の強調点は異なります(図表1(ⅱ))。事実、同社スマートコンストラクション事業は、「我々は顧客の何の実現にコミットすべきか?」という顧客志向の徹底によって生まれた事業発展のアイデアであり、「いま在る組織オペレーションの改善(事業の改善)」という発想ではありません。

 

 かつては改善活動に参画することが従業員一人ひとりに達成感をもたらしたと言われています。QC活動およびQC大会はモチベーションを高める中心的な役割を担ってきました。しかし、持続的改善の成果が事業の競争優位に直結した過去と比較して、今日の競争要因はビジネスモデルの差別性など多岐にわたります。事業を発展させることに着目した組織横断的な小集団活動の必要性が生じており、「事業の構想活動に参画する場」が従業員モチベーション向上の新たな担い手として注目されていくことでしょう。BM活動ならびにBM大会は、まさにこの点に着目した知識創造の場と考えることができます。

 先進企業によるBM活動ならびにBM大会の位置づけは目を見張るものがあります。それは、BM大会が方針決定後の「いかに実現するかを検討する場」というより、経営層に対する提言を通じて「経営層による方針策定をサポートする場」としての側面をもっている点です(図表1(ⅲ))。経営者の最も重要な仕事は決断することであり、トップのリーダーシップが重要であることに今後も変わりありません。ただし、今日はVUCAの時代です。未来の事象を抜け漏れなく予見した上で決断することは至極困難な時代を迎えています。前述の「決断」は、言い換えると「選択肢から選ぶこと」であり、極論すると、選択肢づくりは経営層の仕事である必要はありません。むしろ、市場環境変化が激しい今日は、顧客に最も近いところにいる現場が部門の分け隔てなく当事業の明日を構想することで、事業の明日を拓く選択肢の幅は広がります。BM大会は、世界中の各拠点から未来を見据えた選択肢が提案される場と考えることができます。このことについて、コマツ大橋会長は「BMは明日の地平を切り開く取り組み」と述べています。




3 TQMとBMは事業開発の両輪

 一般的に「開発」と呼ばれる行為は、開発と実装という2つのフェイズから構成されます。「構想力」と「実装力」は事業開発の成功を支える両輪です。令和大磯宣言は、この考え方に基づいています。

 

 

 組織プロセス,経営システムとして実装する方法論としてTQMの右に出るものはありません。しかし、現状のTQMは「何を実装すべきか」という事業構想に長けているとはいえない。つまり、"How to do"には強いが、"What to do"は弱い。だからこそ、事業構想を得意とするBMとの強固な連携を説くものが、令和大磯宣言だといえます。現場によるBM活動から生まれた事業構想を,TQMの緻密な思考で仕組みに落とし込むという組織的な仕組みを構築することができれば、「ビジネスモデルで先行し、現場力の勝負に持ち込む」という経団連元副会長でコマツ相談役の坂根正弘氏の提言を実践していくことができると考えています。
 

 これからの時代、目指す姿は、所属部門を問わず、一人ひとりが顧客志向を徹底し、「自分たちの事業は、顧客のどのようなジョブに応えるべきか。どのように応えるべきか」を考え続けること。この取組の継続が、未来を見据えた新たな競争優位の自立的な確立をもたらすと信じています。そして、このような事業の構想活動に参画する場が、モチベーション向上の役割を担うと考えています。そのように考えの背後にある基本的前提は、「誰だって,自分が進む道は自分で決めるほうが楽しいに決まっている」。事業に関わる一人ひとりが事業の明日を考え、それらの様々な事業構想案を俯瞰して経営層が事業の進路を決断する、これが新たな全員参加型経営として目指す姿です。BM活動は「事業が生きる道を自らの意思で描く“make our own will”の取組み」であり、すべての従業員の事業に対するオーナーシップを醸成し、仕事に対するモチベーションを高める手立てとしての可能性を秘めています。
 

 今後、業種を超えてさまざまな企業がBM活動に取り組むことによって、未来を見据えた新たな競争優位を自立的に確立できるようになることが期待されます。そのような新たな全員参加型経営を目指し、QC大会と双璧を成す新たな「組織的な相互学習の場」としてのBM活動ならびにBM大会の創設と継続を産業界に広めてまいりたい。筆者としても生涯をかけて全力で産業界をサポートしていきたいと考えています。

 

 

加藤雄一郎

東京工業大学大学院 社会理工学研究科 博士課程 価値システム専攻修了。博士(学術)。食品会社,広告会社を経て,2003年に名古屋工業大学大学院 産業戦略工学専攻 准教授に着任。その後,名古屋工業大学 産学官金連携機構 特任教授,厚労省所管 職業能力開発総合大学校教授を経て2019年6月より現職。2015年よりデミング賞審査委員会委員,2020年より㈱安川電機 社外取締役を務める。