学生のときだったと思う。

その日は通っていた学校の創立記念日で、母が駅前にお昼を食べに連れて行ってくれた。


私は3人きょうだいのまんなかで、幼い頃あまり母にかまってもらっていなかったらしい

(私にとっては記憶もないような頃なのだが、母は今でもそれを気にしているふしがある)。

あれはそんな母の気遣いだったのだと今になって理解できるが、当時の私にとって

平日に堂々と出かけるのは、嬉しいというより恥ずかしい気持ちだったのを覚えている。


私が選んだファミリーレストランでは、母の知り合いが働いていた。

初めて会うその女性に笑顔で挨拶しながら、私の浮き立っていた心は沈んでいった。

平日にこんなところにいるなんて、不登校だと思われてたらどうしよう。

母はそんな私の気持ちなど全く気にする様子もなくメニューを選んでいる。


すると、ふさふさとした白髪まじりの髪をひとつにまとめたその女性は、

実にまっすぐに、ためらいなく、挨拶の続きのようにこう尋ねた。

「今日はお休み?」


「創立記念日なんです」

答えた私の顔には安堵の表情が浮かんでいたに違いない。



そのとき飲んだわかめスープは、離乳食みたいな味がした。



憶している最初の夢は、何歳のころのものだったか覚えていない。

その夢には音がなかった。




目の前に広がる真っ白の世界。病院の床のように固くてつるつるした地面。

遠くに2歳まで住んでいた団地だけが見えた。




無意識に自分の家へ向かって歩いていく途中、急に地面に大きな穴があいているのに気がつく。

それは内側の壁まで真っ白で、深く深く、直径5メートル、深さ10メートル以上はありそうだった。




円柱をくりぬいたような、きれいな円形にふちどられた穴のへりから下をのぞくと、

幼い子どもたちが数人見えた。子どもたちが身につけている服もまた真っ白だった。

ハイハイで活発に動き回る彼らの周りに、赤や青、緑、黄色の小さなものがたくさんちらばっている。

真っ白な世界のなかで、それらは目にはっきりと、鮮やかに映った。




そのまま落ちたわけでもなく、気がつくと次の瞬間に私は穴の中にいた。

子どもたちが遊んでいたのはレゴのようなおもちゃだったことがわかる。

彼らはそれぞれ変わらない様子で遊んでいる。誰も私を気にしない。




最後に私は穴の底から上を見上げる。冷めたような、疲れたような気持ちで。