小説指原莉乃リライト 第六章 「もうホント恋愛禁止なんてクソだわ!」 | 散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

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小説家を目指しています。ゆいぱる推し 京都地元大好き 鴨川のせせらぎと清水寺の鐘の音の聞こえるところに住んでいます。






──京都の人はみんな優しうて

   このままそんな京都のあったかい風に身を任せてしまうのも

  私らしくてええのんかな。そんなことさえ考えてしまう。

  京都に戻って一週間、

  もうアキバで踊ってた私がまるで嘘のように思えるんや、留美姉          


                         由依

              


 

つい一時間ほど前、届いた横山からのメールには一枚の写メとほんのあいさつ程度の言葉しか添えられていなかった。けれど有働留美にとって、横山の覚悟にも似た想いを読み取るにはそれだけで十分だった。

──なんとかしなければ

焦る心と逸る心を抑えながら有働留美は先ずは事の信憑性を図ることから動き始めていた。

週刊文春から得られる数少ない情報を手掛かりに、持ちうる最大限のコネとパイプを利用して得られた事実。それが次のようなものだった。

 



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七月初旬、梅雨の長雨が一段落した日曜の午後、一台のゲレンデボーゲンがまだ雨の残るリーガロイヤルのエントランスにそのパールホワイトのボディを滑るようにして停車させた。

最初に後席から降りてきたのはAKB48チーム4のキャプテン高橋朱里。

 

続いて助手席からAKBG総監督横山由依。共に服装はFILAのフーデッドジャケットの上下。

朱里は目にも鮮やかなショッキングピンク。横山はいかにも由依はんらしい清楚さを漂わせるベージュホワイト。

ラケットは持っていないが、おそらくテニスを楽しんでの帰りと思われ、弾む笑顔がその日の楽しさをうかがわせた。

そして運転席から現れたのが、大島涼太、共同テレビジョン、チーフプロデューサー。コンサートやライブを主体に手掛ける彼はAKSの仕事にかかわることが多い。もちろん秋元康とのきずなも深く、大島は彼を師とも仰ぐ。

 

AKBの次期総と総監督そしてそのライブを仕切る敏腕プロデューサー。

同僚ともいえる三人がサンデーテニスに戯れ、ベンツのゲレンデボーゲンに乗ってリーガロイヤルのディナーに向かう。そんなセレブリティな自然な流れを、羨むこそすれ、疑いの目を向けるものは誰もいない。

現に文春はこの時点で3人体制の横山担当をカメラマン一人だけを残し引き上げさせている。

時刻はもう午後9時、まもなく食事を終えた三人はロビーに現れる「とりあえずその写真だけをとって引き上げろ」そんな指令だけが出ていた。

 

しかし、その数十分後、一人残ったカメラマンが色めき立つ。人影もまばらになったリーガロイヤルのロビーに姿を現したのは高橋朱里ひとりだった。

「総監督はまだ中にいる」その連絡に文春はカメラマン、記者を増員、厳戒態勢を敷いた。

横山由依に何が起こっていたのかはわからない。

けれども、ひとつだけ確かなことはAKB48の総監督が日付が変わった深夜にリーガロイヤルの男性の部屋から一人で出てきた。それだけは疑いようもない事実のようだった。

 



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指原莉乃は秋葉原のAKB劇場にいた。横山休養でぽっかり空いたチームリーダーの座を埋めるべく急遽、秋元康の緊急要請で博多から駆けつけていた。

 

「なに考えてんのよ、あの親父は。公演中よ、指原は」

HKT劇場支配人なんて所詮大人が作ったおもちゃのペンダント、秋元康の声は未だに指原にとっては天の声の何物でもない。


公演前の限られた時間、リハーサルもそこそこに切り上げた指原は詳細な経緯を高橋朱里から聞き取っていた。

そして聞いた話を確認するようにこう繰り返した。

 

「やっぱり麻友か。麻友なのね、やっぱり」

 

渡辺麻友が大島を少なからず想っているのはAKB内で知らないものはいない。武骨で、だけれども優しさを感じさせる彼の土佐弁を麻友はいつも楽しそうに語っていた。彼の話題が出るたびにキラキラ輝くまゆゆの瞳に指原は何かしらの危うささえ以前から感じていた。

 

麻友はその日、大島と会う約束をしていた。朱里と横山はそのためのカモフラージュだった。

どちらが仕組んだのか、それは朱里の話だけではわからない。ただ、それをなんらかの形で知った横山は麻友を問い詰める。朱里を先に返し、大島の部屋で話は縺れにもつれた。

それから先の事は彼女はしゃべらなかった。知らなかったと言えばいいのだろうか。

話し終わると、これから先に起こること考え朱里の肩は小刻みに震えていた。

 

「もうホント、恋愛禁止なんてクソだわ!」

 

自分の中の悲しみと切なさが怒りに変わっていく。それはAKBに入ってからの指原莉乃の永遠のテーマだったと言っていい。こんなことでどれだけの人間がここを去っていったんだろうか。


やめなくてもいい命、それを指原はいくつも見てきた。あの日、神に許しをを請うた自分を情けなくさえ思う。


「もういいんだよ、秋元康」 


指原は朱里にも聞こえる声でそう呟いた。

 

「いい、朱里。よーく聞いて。今から私が書くことをHKTを除く全部のキャプテンと副キャプテンに連絡して。SNHもJKTも全部よ。それからマスコミを呼んどいて。 」


「あんたが呼べるだけ呼んどいて」最後にそう付け加えるのを指原は忘れなかった。

 

もう劇場の公演は数分後に迫っていた。

そこで思いのたけをぶちまける、

敵か味方か秋元康、それをこの目で確かめる。

指原莉乃、いよいよ大博打に打って出る。

 

 

 

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