小説指原莉乃リライト 第七章 「恋を知らない桜の花びらたち」 | 散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

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小説家を目指しています。ゆいぱる推し 京都地元大好き 鴨川のせせらぎと清水寺の鐘の音の聞こえるところに住んでいます。




           




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好きな人と手をつないで、好きな人とご飯食べて、好きな人と夕日を見ながら他愛もないことを語り合う。そんな若い子なら誰でもしているようなことを、夢見る子たちがいる。

 

男の人とは必ず離れて歩く 車の助手席には絶対乗らない お店での打ち合わせは一人ではいかない 異性との食事は全神経を辺りに張り巡らす 

 

アイドルやってるんだからしょうがないでしょ?

 自分で望んだ道だからさ?  それがAKBだからさ?

それでほんとにいいの?

 

AKBはもう10年、今年からは11年目に入ってる。

10年も経てば人は変わる 、社会も変わる 。  

10年なんて猫だったら死んじゃうよ。  

一生なんだよ10年は 猫にしたら 。 

 

そのぐらいの時の流れの中で、なんで変われないのAKBは。

第二章なんて全然始まってないじゃん。

 

「変わらないことの大切さ、不変であるがゆえに美しさを保てるものがこの世にはある」


秋元先生、確かにそうだよ。あんたの言ってることは間違いじゃない。

 けどね、あんたは大事なことを忘れてる。

その世の中を変えてきたのはあんたじゃないの、秋元先生。

 

変わらないことの美しさよりも、変わることの面白さを選んできたのが、

秋元康、あんたでしょうが。

 

もう私たちは待てないのよ。ことはもう手に負えないところまで来ている。

張り裂けそうなんだよ、私たちは、心も体も。

もう神の声も天の声も私たちには関係ない。大人がやってくれないんなら、私たちだけの力でやってやる。



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わたし指原莉乃はAKB48の名の元にグループの恋愛禁止の撤廃を高らかに宣言する。 と同時にAKB48に纏わる総ての人達がこの忌まわしき呪縛から一日も早く解放されることを強く強く望む。
                                      
                   AKB総監督代理 指原莉乃

 

 

高橋朱里の手には指原莉乃が殴り書きした一枚のメモ用紙がしっかりと握りしめられていた。

そこに書かれた彼女の覚悟を示す数々のフレーズを先ほどから何度、読み返しただろうか。手の震えはまだ収まらない。


「焦るな朱里、落ち着けわたし」 

苦しい時こそ冷静になるんや、そしたら時は微笑んでくれる、横山からいつも言われる言葉を高橋朱里は頭の中で繰り返す。

 

望むと望まざるに関わらずメンバーたちが守り続けてきたAKBの不文律がこれで崩壊する。

このノートを引きちぎっただけの一枚のメモ用紙が私たちの生き方を変えようとしている。


でも待って。たった一人でそんなことが果たしてできるの?

グループの絶対的存在と言えども一アイドルには違いない

ほんとにそんな事ができる?

朱里の心がさまようように自問自答をはじめる。

 

「いや彼女ならできる。ううん、彼女だからできる それに彼女は一人ではない」  

この一枚の紙に手を挙げるメンバーはどれほどになるのか、朱里には容易に想像できた。

たかみな無きあと、指原莉乃のAKBへの浸透力を最も感じていたのは朱里なのかもしれない。

彼女のなかの指原莉乃の存在は日増しに大きくなっていく。

 

次世代メンバーの中では群を抜くトーク力を誇る朱里も、

人の心をわしづかみにしていく指原のそれとは次元が違った。

彼女の口から繰り出されるひとつひとつの言葉がまるで魔法のように朱里には聞こえた。

 

あの総選挙の日以来、博多の東京への憎しみは増すばかり。HKTのメンバーが朱里と横山に投げかける視線は未だに敵意が漂う。

「今だけだよ、朱里。あの子たちもわかってるんだよ、あんたが一番頑張ってるということを」

指原莉乃がいるからAKBグループは同じ道を歩んでいける。

 

「さしこがいないAKBを思うといつもぞっとするんや、私がいうのもおかしいけど」

そんな横山総監督の声は、おそらくAKBメンバーの総意。

裏総監督と指原を揶揄するメディアは本当の彼女を知らない。
以前は怒りっぽくて後輩にも声を荒らげることが多かった朱里も

横山の傍らに付く様になって場をわきまえ常に相手の気持ちを考え言葉を選ぶ朱里になった。

彼女だからこそ指原の強さの中に秘めたる優しさが透けて見えて、

いつも心に痛い程にその想いは伝わった。
そう思うと朱里はもうたまらなかった。

この人を失うわけにはいかないんだ

 

 彼女がこれからやろうとしている事への代償。それは卒業なんて生易しいもんじゃない。AKBへの反乱、いかに指原莉乃といえども見過ごしにできるはずがない。業界には鉄の掟というものが旧態依然としてある。逆らうものはどんな人気者でも容赦なく切り捨てるのが、この世界。SMAPの解散騒動はその最たるもの。彼女のアイドル生命、いえ、タレント生命はこれで絶たれる。それも永遠に。

 

「許して指原さん、あなたの言う通りにはできない。私たちはあなたを失いたくないから」

 

 


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劇場ではもうチームAの公演は始まっていた。

横山にかわりステージに立つ指原莉乃。総監督不在で心が揺れるメンバーをよそに、その表情はいつもと変わらない。優しく微笑みかける視線にメンバーたちはほっと胸をなでおろす。指原の内なる覚悟など彼女たちは知る由もない

 

公演の終わり、もうその頃には朱里の連絡でここは報道陣で埋め尽くされるはず。 そして私はこのマイクの前で恋愛禁止撤廃を高らかに宣言する

もしかしたら私はこの場で潰されるかもしれない。けれど私のこの爪痕はきっと後につづく者へと伝わる。過ぎ行く時が証言者となる。ほどなく恋愛禁止条例は過去の遺物となり、この世から消え去るのみ。

 

恋を知らない少女たちが恋を謳う 

その切なさをあなたたちにわからせてあげる

待ってなさい、秋元康。もう、あなたに逃げ場はないのよ

 





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~to be continue