アメリカのポピュラーミュージックのジャンルの中に
「トラック・ドライバーズ ソング」というものがある。
いわゆる長距離トラック・ドライバーがその移動の最中にカー・ラジオで聴いていた歌だ。
1939年にテッド・ダファンがリリースした
「トラック・ドライバーズ ブルース」からその歴史は始まる。
どうしてこのようなジャンルが生まれたかというと、
このテッド・ダファンというカントリー・ミュージシャンがツアー中に立ち寄る
ダイナーでトラック・ドライバーの独特な行動に興味を持ったからだという。
ドライバーたちはダイナーに着くと、まずなによりも先にジューク・ボックスに向かい
コインを落としては好きなカントリーミュージックを聴いていたそうだ。
どんなドライバーもみんな決まって同じ行動を取った。
そこで、テッドは彼らのための曲がないことに気づき、彼らの気持ちを代弁する楽曲を書いた。
実は、トラック・ドライバーこそ、カントリーミュージックの超ヘビーリスナーだったのだ。
彼らは、アメリカ大陸を年間少なくとも20万マイル(32万キロ)走る。
この距離は、長距離を走るアメリカの一般ドライバーの15年分に相当する。
かつてドラック・ドライバーズ ソングはラジオかダイナーのジュークボックスで聴くものだったが、
いまではiTune&iPodということになる。それらは、彼らの寂しさをまぎらす重要なツールなのだ。
長距離トラックの運転手は孤独だ。月曜に荷物を満載したトラックで出発し、
土曜日に自宅に帰ってくる週6日の旅だ。それを月に3回繰り返す。
なるほど、長距離トラック・ドライバーに離婚歴がある者が多いのもうなずける。
テッド・ダファンは歌う。「走れ、走れ、走って町へ。ホンキートンクの女が待っている」。
彼らにとって束の間の安らぎとは、ホンキートンクの女と道すがらに立ち寄っては愛し合うことだ。
それは、テッド・ダファンが彼らのことを歌った時代から何ひとつ変わっていない。