中くらいのしがなさ 修業編 -3ページ目

中くらいのしがなさ 修業編

将棋の話や気になった本や食べ物について備忘録的に記していきます。妄説暴論乞御寛恕。

素晴らしい内容でした。
『坊っちゃん』では深く新しい読み筋のヒントをいただけました。親との関係ですね。坊っちゃんと親だけでなく、漱石と親(特に母親)との関係です。そこに視座を置くことで、より大きな、大切な問題が浮上してきます。

『赤と黒』では年上の女性にイカレる若年男子の精神構造を学ばせていただきました。

ルソーの思想を確認しつつフランス革命の理念につなげ、ルソーの性的嗜好を経て、藤村の『破戒』の近代的な問題に行き着いたくだりは圧巻の筆致。

言文一致までの苦難の道のりを13頁で完璧に説明しうる神業に膝を屈し、黒岩涙香からポー、江戸川乱歩とミステリーの黎明をスリリングに説明して下さっていると思いきや、乱歩から谷崎と変態の系譜に転回してその見事な筆とリビドーの抑制に感動しようとしたら佐藤春夫との細君譲渡スキャンダルを詳細にご教示いただく……。ジェットコースターのようなスピード感。

しかし、ここまでは枕に過ぎぬとばかり、宮沢賢治になだれ込みます。この賢治論が震撼ものの大傑作で、宗教と賢治の在り方を根本から揺さぶる出色の立論。一読ではもったいない、百遍熟読の価値ある感動の論考。

『クオーレ』と『ピノッキオ』の対比では、時代状況と作品の底流の精神の合致と齟齬に思いをいたらせていただきました。文学の寿命に関わる重要な視点をいただけました。

最後には、シュリーマンに触れつつ、本を友とすべき意義を高らかに謳い上げ、感動のフィナーレです。

取り上げられる本のあらすじや内容はすべて簡便にまとめて説明してくれているので、まったく読んでなくても、エッセンスを受け取ることが出来ます。本書1冊で20冊分くらいの読書効果があるといっても過言ではないと思います。

まじ、オススメです。
不屈に生きるための名作文学講義 (ベスト新書)/ベストセラーズ
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イスラム化するヨーロッパ (新潮新書)/三井 美奈
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フランス駐在経験を生かした新聞記者の秀逸なレポートです。

フランス国内で次々、テロがあったのは記憶に新しいところ。

諷刺新聞社へのテロやサッカー場・劇場ての自爆テロです。

世界中でSNSのプロフィール写真にフランス国旗の三色を被せる服喪的示威行為が巻き起こりました。

日本にいて新聞やニュースを漫然と見ていても、フランスでテロが起きた構造的な危機までは見えてきません。

本書はそうした部分までしっかりとレポートしてくれています。

フランス国内でのアルジェリア等からの移民差別の問題。それは二世三世と時間が過ぎても止みません。移民のイスラム教徒は、貧困の連鎖の中に生きていくことになります。

イスラム国から派遣されたテロリストではなく、フランス国内に住む移民二世三世の善良だったフランス人が、テロリストになってしまうのです。

国民市民が突如テロリストとなってしまう。このテロリストをホームグロウン・テロリストといいます。

シリア難民の受け入れを表明したドイツ。
少子化により迫りくる人口減の対策として受け入れを表明したのですが、西欧のイスラム化に反対するムーブメントがドイツ国内各地湧き怒っているそうです。

戻ってフランスでは、反イスラムを標榜する国民戦線という政党に支持が集まりはじめています。
移民排斥を訴える国民党が躍進したデンマークは、イスラム過激派の標的となっています。




EU全体でシリア難民を受け入れる時、各国でフランスに似た差別が始まるかもしれません。

深く厳しい現実と未来を報告する、素晴らしいレポートです。
狗賓(ぐひん)童子の島/飯嶋 和一
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飯嶋和一さんは、知的腕力の作家です。
時代背景や作品世界に必要な大道具・小道具すべてきっちり調べ上げて書いてらっしゃるかのようです。飯嶋作品1冊の背後には100冊の史料が下敷きにあって、その精髄がすべて1冊の中に収まっているというような知的な迫力を感じます。

物語は、「大塩平八郎の乱」の首謀者の一人で大塩の高弟、西村履三郎の息子、常太郎が隠岐に流されてくるところから始まります。西村履三郎は河内の豪農で、常太郎が6歳の時に乱を起こし、江戸で潜伏中病死します。常太郎は15歳になるまで他家に預けられ、15歳になって、改めて流刑に処せられます。

隠岐の「島後」に配されますが、幕臣である大塩平八郎が民のために徳川政権に刃を向けた事件は、日本の隅々にまで「義挙」として知れ渡っています。その高弟の息子です。しかも蜂起時6歳と、何の罪もないのです。島の人々は温かく向かい入れます。

物語はこの常太郎医師として成長して、島を襲う疫病と闘う様子などを一つの軸に進んでいきますが、幕末の民衆の疲弊や隠岐の漁民の貧困と幕府の代理支配する松江藩の圧政等々がオーバーラップして、その時代の重厚な空気を見事に再現しています。

やがて明治となります。朝廷領になるという報に触れた島民は、これまでの松江藩の圧政に反旗を翻します。松江は兵を動員して対決姿勢を深めます。しかし、天皇直轄地とはいえ、実際の支配(代理支配)は、松江藩が継続するという発令に……。

圧政下に生きる庶民という大きなテーマに真っ正面から切り込んだ、大著といっていい作品だと思います。




下町ロケット2 ガウディ計画/小学館
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池井戸潤さんは上手いですね。
ストーリーが抜群に上手い。伏線を張る技術、アクセレイトする技術、アップダウンさせる技術、収束させる技術……ため息が出ます。

エンタテインメント小説は、

キャラクター
ストーリー
同時代性
テーマ
文章

が(この順番のままが重要度順)留意ポイントなんですが、この2番目のストーリー展開の手慣れた技術は、ピカイチの作家といえるのではないでしょうか。

また、悪役の造型も上手いのでぐいぐい引き込まれざるをえないです。

オススメです。

 

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門/毎日新聞出版
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リベラルといえば、革新なわけです。左派です。保守の対義概念です。
リベラルの総本山といえば、朝日新聞でした。

冷戦の終結や、中国や北朝鮮などの共産主義国家の人権蹂躙などがあって、だんだん、リベラルに人気がなくなっていきます。そこにきて、尖閣問題や朝日新聞のしくじりです。

ここにくると保守の方が穏健妥当に見えてしまう人が増えてきます。

リベラルという属性自体は、人気を失うわけですが、リベラリズムという思想は色眼鏡で見てはならないというのが、井上先生です。

リベラリズムは通常、自由主義と訳されますが、井上先生によれば、正義主義と訳す方が近いとおっしゃいます。

リベラリズムは二つの歴史的起源があり、それは「啓蒙」と「寛容」だそうです。どちらもポジティブな面とネガティブな面があります。「啓蒙」のネガは、理性の独断化です。「オレの理性的結論に反対するやつは殲滅する」的な。一方で「寛容」のネガは、寛容しまくって「不寛容まで寛容する」的な態度を招いてしまうという。

このあたりの前提から、ここ100年くらいの政治思想・法哲学の展開をざっくり説明してくれる啓蒙書です。いろんな主義が花開く法哲学のそれぞれの主義の中で、「正義」がどのような位置づけで扱われるか、といった視点で読むと読みやすいかも知れません。

駒場の東大生協で3ヶ月連続で人文部門1位を記録したヒット本です。

井上先生、泰斗と呼ぶにふさわしい学者ですね。ファンになりました。

 

戦略がすべて (新潮新書)/新潮社
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日本の組織が共通に抱えやすい病気の回避策・治療策をまとめて提出してくれた一冊。
コンテンツ作りのポイントをリスクマネージメントの観点で解き、多数決に前進がないことをロジカルに語り、コモディティ(汎用品)としての労働力の哀れを煽り、受験の仕組みとそれに対応した人材の問題を検討する。タイトルにある通り、すべては「戦略」のさせる技である。「戦略」があれば勝ち、なければ負けるのである。そしてその「戦略」の基本的な立案の基礎のヒントを授けてくれる。良質なビジネス書10冊分の価値はある。大変な良書であった。

鈴木英治『口入屋用心棒 跡継ぎの胤』

よくできているので驚きました。ある小藩の若い殿様が落馬して意識不明の重体となります。
この殿様には異母弟がいて、この聡明な弟を担ごうとした邪な家臣達が、弟のあずかり知らぬところで大名になる前の兄を何度か殺そうとした事件があって、その家臣達は根絶やしになったのですが、弟も伊豆に配流されています。
この兄も善良な殿様で、心から慕う者が多く、なんといっても異母弟自身がこの兄を尊敬しています。意識不明になったからといって、恢復を祈りこそすれ、後釜を狙うなどさらさらありません。
しかし、家臣達は違います。
殿様はある時、うわごとのように「おしず・こうきち」と口走ります。江戸で放蕩していた頃の女とその子供ではないかと兄派の家臣達は、色めき立って、江戸を探索します。
一方、弟君を慕う連中は、いずれも部屋住みの連中です。弟君には内緒で、この「おしず・こうきち」を探します。殿様派か弟君派か、どちらが早く探し当てるのか。これが大きな縦軸。
横軸としては、流人の弟君の、伊豆の温泉に湯治に来ていた浪人夫婦との交流やその妻の死、妻に死なれたその浪人と弟君との清廉な友誼。また、やくざの親分が夜に賊に襲われて命を落とすという町方系の事件もあります。
ハラハラドキドキしながら、読み進めるうちに、意外な結末を迎えます。
面白かったです。

跡継ぎの胤-口入屋用心棒(19) (双葉文庫)/鈴木 英治

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うーん。厳しいですね。
「いろは歌には、キリスト教の聖人の名前が埋め込まれている」
って言われてもですね。
「キリスト教の聖人」だけでなく、「あらゆる名棋士」も「野球の名選手」も「過去すべての東大合格者の名前」も「東電の全社員の名前」も埋め込まれていますからね。
空海が全部知っていたことにはなりませんよね。
アルファベットなんてたった26文字であらゆる有名人が埋め込まれてますからね。
うーん。厳しいです。


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