鉄のカーテンではないが (2) | EUまにあ

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EU内部からEUを観察しつつ、日々の自分にツッコミを入れるブログ。

2004年のEU拡大以降、旧共産圏の国々を早々に取り込んでしまってよかったのか?という懐疑派は少なからず居たと思います。

(私も新旧を問わずブログではこのことを書き続けてきたような気がする)


European Unionというのは、European Community(EC)、Common Foreign & Security Policy(CFSP)、Police and Judicial Cooperation in Criminal Matters(PJC、前はJHA)という、所謂Three pillarsというのから成ってまして、私たちがニュース(特に経済系)でよく目にするEUの動きってのは、ほとんどがECのやってることです。

ECってのは純粋に経済のことを扱うという決まりになってて、CFSPが外交・軍事、最後のんが・・・なんでしょね、治安とか?

まあマイナーな分野なのでよく知りませんが。

そもそもはEuropean Economic Communityという、純粋にお金やら商売のことだけで結びついていたものが、あるときを境に一気に非経済部門まで拡大することとなり、それが今日EUと言われてるものを形成しているわけです。

経済協力で結びついている団体は他にもあり、例えばASEANやらNAFTAやらもそんなんですね。

但し、政治的に協力・・・というか、「EU市民」というカテゴリーを作り上げようとしている集まりは他にはないんじゃないでしょか。

これが、EUが「壮大な実験」と言われる由縁なんだと思います。


それまでは純粋に経済的な繋がりだけを求めていて、それが単一通貨の導入だのにまで発展したとしても各国がまだopt outする選択の余地を与えられているところから、各国とも湿っぽい関係にならないというか、ビジネスライクというかそういう関係に留まっていられることができた。

経済的にアンタらどうよ、という基準だけからすると、あの時点ではGDPやら産業力やらの点では、旧共産圏の国々はまだまだ西側の足元にも及ばなかったと考えられます。

つまり加盟申請をしたとしても蹴られる可能性が十分にあった。

それが経済的な分野以外の繋がりをECが求めるようになってEUに発展したことから、やはりどうしても政治的な配慮が入ってくるのは否定できないし、そういう政治的な意味であの2004年の拡大があったんじゃないかと思われます。

私がダラムにいてた頃の講義で聞いたのは、2004年拡大の一番の理由は


「若い民主主義の芽をつぶさないため」


に旧共産圏の国々の加盟を認めた、という主張があるということです。

それ以外に、これから市場として開拓していくにはオイシイから、という経済的観点から見た思惑もあったとも思われます。

しかし私には「若い民主主義の芽をつぶさないため」という主張に何となく納得できるものを感じますし、そうじゃなければソ連崩壊から10年そこらしか経っていない時点であれらの国々を受け容れることはできなかったんじゃないかと。

まあそれが結局ロシアを刺激してしまったというか、ナーバスにさせてしまったところからも、ロシアもそんな臭いを感じてたんじゃないでしょうか。

あ、ウチら、はみごにされようとしてる、って。


更に2007年にはブルガリアとルーマニアも加盟。

他の旧共産圏をOKにしておいて、これらの国を足蹴にはできない。

ここまで来ると「はあ?」と苦笑いしてしまう人もいるでしょう。

あの時点で言われていたのは、EUの中で一番GDPが高いルクセンブルグとルーマニアのそれは3倍の差がある。

3倍ですよ、3倍。

それらの国が同じ経済共同体の中で活動していこうとしてるんです。

ルクセンブルグ国民からしてみると、自分らが払った税金が何でか東の果てのあまり豊かでない国々を豊かにすることに遣われる、って図式にいなってるんですよね。

は?なんで?って言いたくもなるでしょうよ。

昨年はブルガリアでの汚職があまりにもひどいので、ECが「なんとかせんと補助金ストップするぞ」と脅しをかけたくらいです。


欧州議会の議席の割り振りも西側諸国からしてみればあまり好ましくない状況になってることは容易に想像できます。

議席の割り振りは確か国のサイズ、経済的な大きさではなく人口という物理的な数字に則って割り振られているはず。

つまり「一応」古株のスペインと新参者のポーランドは議席数がほぼ一緒。

スペインとしては「何でやねん!貢献度がちゃうやろ!」と噛み付きたくなるのも一理あり。

但し、欧州議会は民主的な選挙によって議員が選ばれるので、人口と議席数が比例してしまうのはどうしようもないことなんですよね。



まあこんなかんじでお互いがお互いのことをぶつくさ言ってるうちに、あのリーマンショックですよ。


お金が絡むと本性がでるというのは人間の性ですが、それは国にしても同じなこと。

フランスが保護主義に傾いていると非難されてきたのは前回指摘の通りですが、その中に、スロヴェニアにあったフランスメーカーの工場(確かルノー?)を閉めてフランスに戻す 、と。

生産調整の名を借りた、フランスでの雇用創出のため、という見方があります。

それまでは比較的安い(と思われる)スロヴェニア人を使っていたのをさっさと切って、自分の国の人間に仕事をあげる、と。

フランス政府主導であれば、これはstate aidにあたりますわなあ、きっと。


そんなこんなで東側の国は「なんだか西側が勝手に色々やりだしたで。俺らはほったらかしかい」とか、「自分だけ生き残ろうとしてるんちゃうんか?信用できるんか?」と疑心暗鬼になってきてる模様。

だって、


Ferenc Gyurcsany, the Hungarian prime minister, called for a £169 billion bail-out of Eastern Europe to prevent a major crisis that would reverberate across the continent.


He spoke as nine Central and Eastern European countries – Poland, Hungary, the Czech Republic, Slovakia, Latvia, Lithuania, Estonia, Bulgaria and Romania – held an unprecedented breakaway summit before the meeting of all 27 EU member states in Brussels.

3月1日付けTelegraph.co.uk より抜粋)


ははー・・・

つまり東側は東側でこそこそ集まってなんかやってるわけですな。

economic iron curtainを作るな、とか何とかで。

まあそういうunprecedented breakaway summitを持つこと自体が自分からカーテン縫っちゃってるともいえなくもなんだけど(笑)。

2004年拡大から5年、色々とくすぶってきたものが今なんか表面化してるかんじですね。

鉄のカーテン・・・というか、一応お互いがお互いのことが見えてるということで、鉄っていうよりかはガラス?

それも強化ガラス。

まあそんなもんが出来てそう・・・というか、実はお互いがお互いの心の中にそういう区別を持ってて強化ガラスのカーテンは既に存在していたんじゃないの?って思えてしまったり。

やれ金融危機だのやらIMFからのお助けだのって、みんながヒートアップしてきたからその熱気でガラスが曇ってきてその存在が認識されだした、みたいな(笑)。


どうするよ、この状況。


(次回へ)