新説『マジすか学園4』
#3988『そのアイドル、天然につき138 秘策の効果』
過去に戻って七瀬たちに会い、フルネームを聞いてくるようにとの指示だが、実際にそれは不可能でも、ゆうゆには秘策がある。
茜たちが見守る中、ゆうゆはそっと目を閉じた。しばらくすると椅子の背もたれに身を委ねて動かなくなった。山荘での経験からして、このあとしばらくはこんな状態が続くのだろうと茜は見当をつける。
それからまず10分が経過した。何も知らない本部長たちは、もっと劇的なことが起こるとでも考えていたのか、今では退屈そうに会議室の隅に固まって座っている。さすがに会話をすることは控えて大人しくしているが、そのうち『いつまで掛かるんだ?』などと聞いてきそうだなと茜は思う。実際のところ、山荘にいた時もゆうゆは今も同じ状態だったが、周りの自分たちは小さな声で会話したり、行動もしていた。ゆうゆの心霊捜査には差し障りがなかったようだが、そのことを本部長たちにわざわざ教える必要はないだろうと考え、黙っておくことにする。
しばらくすると本部長たち6人はこの空間に辛抱できなくなったのか、数人が会議室を出たり入ったりする始末だ。
さらに10分が経過して、ゆうゆがそっと目を開いた。山荘の時に比べれば半分程の時間だ。それも終始穏やかにしていて、状態はかなり違う。フルネームを聞くという本部長の指示を受け入れず、ゆうゆは一体どこに行って何をしていたのだろうと、茜は気になってしょうがない。するとゆうゆの覚醒に気付いた本部長たちが一斉に席を立ってこちらに近付いてくる。その手には見覚えのないファイルを持っている。そして、ゆうゆに声を掛けた。
『ご苦労さん。もう済んだのか。年の為この時間にこちらでも女性たちの死亡届を調べさせてもらったが、6人全員の確認を取れた。時期と状況、それに下の名前が完全に一致しているので間違いないと思う。6人は全員25年前に亡くなっていた。そうと分かれば、遺体が消えたことも納得がゆく。小さい頃に亡くなったことは事実なので、成人後の遺体がある訳ないからな。我々が見ていたのは幻か何かだ。あとでお祓いでもしておくか。そういうことだから、ゆうゆが聞いてきてくれたフルネームと一致したら、この案件はこれで解決だ。これ以上捜査することはない。捜査本部は解散する』
本部長のあまりにもあっさりとした口調と内容に、茜は耳を疑う。それもゆうゆが言っていた秘策の効果なのだろうか。ともかく今は本部長に尋ねてみる。
『ちょっと待ってください!小さい頃に亡くなったことは事実だとしても、どうしてその人たちが成人になってあの山荘で発見されたか、詳しく調べないんですか!?』
『何を言ってるんだ!これ以上何を調べろと言うんだ!こんなことは、もはや我々の範疇ではない!』
本部長が言い切った。
◇続く