新説『マジすか学園4』
#3987『そのアイドル、天然につき137 決められたルール』
欅署に戻っての捜査会議で、ゆうゆが心霊捜査を実践してみせることになった。
茜はため息が出そうになるのを我慢して尋ねる。
『承知しました。でもゆうゆに何を見てきてもらえばいいんですか。山荘の件は、これ以上新しい発見はないと思いますけど』
本部長が反論してくる。
『いや、まだあるじゃないか。女性たちの存在が問題になっているんだ。さっきは下の名前しか聞いてないと言ったよな。それだったら6人全員のフルネームを聞いてきてくれ。漢字だとありがたい。それで身元が突き止められれば、実在していたという証明になるし、謎の解明に近付くというものだろう』
本部長が直接ゆうゆに振ったので、ゆうゆは小さな声で『はい…』と返事をしたが、横で聞いている茜は、何てことをゆうゆに依頼するのだと腹立たしい。確かにフルネームが分かれば全容解明に近付くだけでなく、ゆうゆの心霊能力が完璧なものだとの証明になるが、釈然としない気持ちが強い。するとゆうゆが喋り出す。
『七瀬さんたち6人全員のフルネームを、漢字で聞いてくればいいんですね』
『そう。それが全て正しければ、ゆうゆの能力は奇跡的で素晴らしいものだということになる』
『分かりました。じゃあ、やります。ここにいる男性6人は全員ゆうから離れてもらえますか』
『どのくらい離れればいい?』
『部屋の1番隅がいいです』
『ああ。分かった。今から移動する』
これで欅署の捜査本部を仕切る3人、そして本庁から来ているキャリア組3人が席を立ち、会議室の真ん中を歩いて1番後方に向かった。そこに置いてある椅子を引いて6人が座る。
一方、ゆうゆの周りをみんなが囲む。過去に戻る儀式は山荘で行ったので分かっているものの、再び七瀬たちに会いに行き、フルネームを聞いてこいなどと無茶な指示が出され、誰もが心配そうな表情を浮かべている。こんなことになって責任を感じる茜が声を掛ける。
『申し訳ないね。本当に大丈夫?』
ゆうゆが眼差しを向けてくる。
『心配しないでください。実はゆう、このタイミングを待っていました。ある、いいことを思い付いたんです』
『ある、いいこと?どんなことなの』
『それはもう少ししたら茜さんたちにも分かると思います』
『フルネームを聞いてくる件はどうなるの』
『それは元々無理な話です。ゆうは山荘に来ていた七瀬さんたちと同じ時間を過ごしていたんですから、そこにもう1度現れるなんてことはできません。もっと前の時間に戻ろうとしても、ゆうが七瀬さんたちと初めて顔を合わせた時点より前には行けないんです。順番が狂ってしまいますからね。それが過去に戻る時のルールです。ゆうはもう2度と七瀬さんたちには会えません…』
『じゃあ、どうするつもりなの』
『そこで、いいことを思い付いたんです』
『そっか。ゆうゆに任せるわ』
『了解でーす。それじゃあ行ってきます!』
ゆうゆはそっと目を閉じた。しばらくすると椅子の背もたれに身を委ねて動かなくなった。
◇続く