変動5 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして


次の日徹はなぜだかカメラをオフにしていた。
「やっぱり顔が見えないと、話しづらいな、カメラ、オンにしてよ」
「PCからカメラ外したから」
「USBで差し込むだけでしょ」
「面倒」
「ケチ!バカ!」
「ムカツク、それじゃ」
「 意地悪」
カメラなんてなくても話が出来るのに、彼の童顔がどうしても見たかった。少しでも大人っぽく見せるために少しだけひげを生やしているその顔。私の気持ちは余りにも大きくなってきて、安定を欠いていた。これ以上の自分の変化は受け入れられない。落ち着いた元の暮らしに戻りたい。

その前に、彼への説得が残っていた。
原発周辺被災民への非難、作物を作り続けている人への攻撃をやめさせないとならない。

「私たちはそんなこと知らなかったから徹ちゃんがそういう現実を教えてくれて感謝している。だけど、それをそのまま発言しても、徹ちゃんが非難されるだけで、周りは支援する気を無くすんだよ。だからもっときちんと練り上げた、ちゃんとした意見として発表してみたら?
まとまった文章が苦手なら私が手伝うよ。このことが、きちんとメディアに載らないから誰も理解できないし、中傷に映るんだよ。とりあえず農家と優遇されている被災者への非難だけでも抑えて、中通りへの支援の足りなさや悲惨さだけを訴える形にしたほうが、いくらか福島の状況が良くなると思うんだけどね。気持ちは分かるけど戦略的にやらないと現実は何も変わらないよ」


話すと遮られそうだったから、文章にしてスカイプにべったりと貼り付けた。
丸一日経っても返事はなく、私は彼と話せないことに再びパニックになった。
聞き入れてもらえなくてこれきりになったら、全て終わる。いくらか辛いだろうけど、どうせ一時のことで終わらせるはずだった。聞き入れてもらえるのだとしたら、いくらかでも物事が動く。そう考えたはずなのに慌てている。

会話していても、いつも自分の話ばかりで、私の話はちっとも聴いてない。徹はいつでも俺様でわがまま全開だった。そんな子供っぽいところまで可愛いと思ってしまうのは完全に好きになってしまっているからで、最終的に私達が上手く行く見通しは全くなかった。この何年かで随分調整して世の中でやっていけるようにしたけれど、一皮剥けば私だって「アタクシ」な人間なのだ。互いに強いキャラクタを持つ凸と凸ではぶつかるばかりでやっていけない。逆にたかしと上手くいくのは私の凸を上手くあやしたりいなしているせいだともいえる。消したメッセージはそのことを書いていた。

ようやく丸一日経って返事が来た。
「俺はどうなったって良いんだよ。それで誰かが助かるんなら」


「そういう話じゃないでしょう。徹ちゃんだって攻撃され続ければ凹むでしょう。周りだって嫌な思いする。そこを抑えて発言しないと、現実が動いていかないのよ。状況がよくならなくちゃ無意味じゃん」

「俺に意見するなよ、可愛げのない女だな。そういう女は嫌いだ
 上から物言われんのと、意見されるの、そういうの俺大嫌いだから」