空の恋人たち | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「そういえば七夕だね

 お空の恋人たちは逢えるといいね」


帰り道に歩きながらたかしにメールを打った。


しばらくして返事があった。


「あの人達は恋人じゃなくて夫婦なんだってよー

 ほとんどの人が七夕伝説を誤解しているって記事になっていたー

 doorもだったかー」


きっとたかしも帰りの電車の中なのだろう。織姫と彦星の話は知っている。働き者の織姫と彦星は結婚すると離れがたく、機を織らず、牛を追わなくなった。天帝がお怒りになって二人を引き離したが、泣いてばかりでまた仕事をしない。ではということで、一年に一度だけ会えるようにしたというお話だ。


私とたかしはそこまで離れがたいわけじゃない。

それを寂しく思ったり、織姫と彦星は若気の至りさ、と思ってみたり。いまさらずっと男と一緒に暮らすのはやはりうっとうしいだろうなと思う。




「知ってるよー

だけど一年に一度しか逢えなかったら夫婦の関係じゃなくならない?」


たかしの反応が知りたくて、ちょっとだけ石を投げてみた。突っ込んだ話をするつもりもないけれど。なんと返してくるかしら。

案の定すぐには返事がなかった。


夕食を済ませて息子と望遠鏡を見ていたら


「おぉ、知ってたか

 宇宙の一年は一瞬なんだね

 宇宙に出ればいつでも晴れているから、地球の天気が悪いほうが覗かれずにゆっくりデートが出来るらしいよ」


返事になっているんだかいないのだか。


「そっかー

 その方がいいかもね

 おやすみなさい」


庭からはもう虫の声が聞こえる。



一年に一度じゃ悲しすぎるけれど、毎日じゃ鬱陶しい。

先のことは考えない。考えたくない。