平行線 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「明日はAが千歳烏山のイベントに行くから送りに行く。そのまま待っててだって。千歳烏山ってどこだー」

「イベントって何時から?」
「6時半かな」
「すごいなぁ、私、明日府中6時終わり。デートだー\(^o^)/狙ってもなかなかこうは行かないぞー」

「千歳烏山は京王線なんだね」


娘の送迎をするたかしが待っている間に丁度合う時間と場所。

お祭りをやっている府中を早足で通り過ぎ千歳烏山に向かう。


「車はどこにとめてあるの?」
「今日は電車ー」
「えぇ?珍しい、電車なんだ」


千歳烏山の駅前はごちゃごちゃしていた。

二人で串焼き屋に入る。こんなことは珍しい。なんだか気分が変わる。Aちゃんは自分を送迎しているパパが、ちゃっかりデートを楽しんでいるなんて思わないだろう。


水曜日たかしが電話を忘れた。朝から全くメールが来なくて私はたかしが死んだか事故にあったのではないかとパニックになった。
多分少し寝坊して慌てて電話でも忘れたのだろうと頭では判断できた。ところが一方で足が震えてしまうのだ。
それをねじ伏せて夜まで待ったが、9時半を回って再びパニックになった。神奈川県警に電話をかけて、事故がなかったか聞こうとさえ思った。


「死んでたらどうしようって」
「そんなに簡単に死なないよ」
「でも今までなんともなかったのに、二度と目を覚まさないなんて、よくある話だよ」
「大丈夫だって」
「だっていつも家を出るときにメールしてくれてるんでしょ」
「違うよ、メールするもっと前に出るんだ」
「えーーっ、何時に家を出るの?」
「6時15分」
「そんなに早いの?」
「うん」
「それは車が混むから?」
「電車でも大体同じ」
「そんなに早く行ってどうするの?」
「どうもしないけど、遅刻したりするといやじゃん」
「電車が止まったら遅刻しても仕方なくない?」
「でも遅刻することには変わりないでしょ、それに朝自然に目が覚めない?」
「覚める、でもまた寝る」
「どうせ会社には毎日行かないとならないんだよ、早めにいったっていいじゃん。ぎゅうぎゅうの電車に乗ったり、渋滞でイライラするよりよっぽどいい」


たかしと結婚を考えたりするような立場でなくて本当に良かった。私には理解できないし、一緒に暮らしたり出来ない。たかしはどう考えているのだろうか。自分が電話を忘れたぐらいでパニックになる私を。



8時を過ぎて店を出た。二人で夜の街を少し歩いていると電話が鳴ってたかしがパパになる。
娘と一緒にいるたかしを内緒で見ようとホームで少し待っていたけれど、食事をさせているらしくすぐには来なかった。
知らん顔して電車に一緒に乗ってみようかと思ったのに、寒さに阻まれてイタズラは中止になった。