土曜日。
「ちょこっとだけ顔見たいからそっちのほうに行ったら逢える時間ある?」
「週明け都合つけて僕が行くから」
「それは無理でしょう」
「大丈夫、大丈夫」
私は無理だと思った。来るにしてもたかしの生活に無理が掛かる。無理をしたら続かなくなる。そんなことは望んでいない。
お茶でも飲みながらホンの少し最近あった面白い出来事をお喋りしたかっただけだったのに。
忙しい時に来ると言われても困るなとチラッと思った。
月曜日の夕方メールが来て
「今日早く終わりそうならそっちへ行く」
「6時くらいには終わるけど、無理しないで」
「無理してない、大丈夫」
たかしの職場からうちまでたっぷり2時間掛かる。
それから食事はどうするのか気になった。私の作ったものを食べて欲しかったけど、そんな風にしっかり食事をしていいものなのかどうか。
「ご飯どうする?」
何時まで居られるのだろう。それとも泊まって行くつもりなのだろうか。メールの返事はなかった。
ままよと刺身を買って家に帰り、急いでご飯を炊く。庭先の野菜を収穫したところにたかしがやってきた。
「いらっしゃい」
たかしはなんだか所在無げにしている。
「そこに座れば?」
「手伝うよ」
「もう出来るから。人の作ったものなら、何でも美味しいでしょう」
私のうちのダイニングテーブルで二人で向かい合わせに座って食べるのは凄く久しぶりだ。
「うわぁ、こんなにガッツリ」
「えへー、久しぶりにちゃんと作った」
たかしが食べる姿を見ながらたかしのお嬢さんたちのことが頭を掠めた。彼女たちはどうしているんだろう。
珍しくそそくさと食べる様子に、すぐに帰るつもりらしいと理解できた。わざわざ来てもらって申し訳ない気持ちと、ゆっくり出来ないことに苛立つ気持ち。相反する感情が交錯する。
それを棚の上に上げて、聞いて欲しかった傑作な話をたかしにして二人でお腹を抱えて笑った。
お茶を持ってソファに移動したけど、私は
「もう帰ったほうがいいね」と言った。たかしに「帰る」といわれるより辛くないかも。
(大人だ。私は大人だ)と自分に言い聞かせる。
「もうちょっとだけ」
舌が絡まりあってたかしが圧し掛かってくる。なんだか急かされているようで落ち着かない。気分が乗らない。
「ぃやー、今日はさぁ」
やんわりと拒絶しようと思ったら汗で足に張り付いたジーンズはぺろりと裏返しにひん剥かれてしまった。
なんだかたかしはこなそうとしているみたいだ。そうでなければ精液を放出したいだけ。
「わかったからシャワー浴びてこようよ」
かなり白けた気分になって、なにかが違うと思うけれど、それをきちんと話す時間もない。そして乗らない気分とは裏腹に私の身体は彼の丸っこい切っ先を待っていたりする。
いくつかある私の欲情のスイッチをたかしが正確に入れたからだ。
逢えない時間が想いを純化させるのに、現実と折り合わせるのは厳しい。