間合い | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「たかしは来週丸々休みだからいいじゃん」


「来週はいつもどおりだよー
 今年は休めそうにないから休める時に休むって今週月曜日休んだじゃん
 すぐ忘れるんだからー」


「えー夏休み無いのー!」


「そうだよー
 doorは月初めだから休めないって言ってたよー」


「夏休みがないっていうのは初めて聞いたような…
 よっぽど忙しいんだね」


たかしの会社の就業カレンダーでは今週丸々休みだったのだが。それに夏休み無しの話は全然聞いていない。「今年は休めそうにないから」という前置きはその話をしたメッセのアーカイブには残っていなかった。
やっぱり聞いてない。
言ったつもりで言っていない。親しいからこそよくある話だ。


私たちの間には遠慮や容易に触れられない話がたくさんある。
傷に触れてしまうかもしれない過去のこと、先の見えない未来のこと。
それからそれぞれの家庭のことには立ち入らない。それは相手の問題だから。
助けたくても何か出来るわけでない。手出しの出来ない問題に口を挟むべきではないとお互いに思っているのだろう。話し合ったわけではなくいつの間にかそんな風になっていた。

それでも私たちの間合いが詰まりつつあり、そんな変化を面白く思う。



「あのさーたかし、いい加減自分の部屋にエアコン付けなよ。もう年なんだから修行も大概にしないと」


「まだ若いもん」


「そんなんで体力消耗したりするのは…どうなのかなー」


なぜかわからないが、たかしは修行と称して自分の部屋にエアコンを付けることを頑固に拒絶している。
別に私がその部屋に行くわけではないので私には関係のないことだけれど、軽い熱中症と思われる頭痛を引き起こしてまで拒絶する意味が理解できない。


「体力付けてるんだし」


「付いてないじゃん」


「doorも毎日お寝坊」


「それはエアコンで解決できる問題じゃないもん」


「目覚まし10個そろえるのだ」


「大丈夫だよ遅刻してるわけじゃないし
そもそも早起き教のたかしだって一回遅刻したのを知ってるぞ!私と同じ回数だ」


「忘れなさい
 doorも時計を買えば寝坊しなくてすむぞー」


「目覚まし時計は使ってないのが3個ぐらいあるの」


「電池がなければ役に立たないからー」


「この間まとめ買いしてたくさんある
 朝早く眼が覚めても遅刻する時はするし、寝坊しても間に合うんだから意味がない」


「開き直ってるしー」


「たかしひとりがエアコンをつけなくても地球温暖化はふせげないぞー」


「少しは役に立ってる」


「頑固な人だー
 ホントはどうして?」


「エアコン好きじゃないしー」


だったら暑いとか言うなっ!と私は思ってしまうのだ。地球温暖化防止だってオデッセイみたいな車で通勤しているヤツに言われたくないっ!と思ってしまうのだ。思っているだけで、言わないだけの知恵は身に付けたけれど、きっとそのうちに言ってしまうに違いない。だってそれが私だもの。

それは多分たかしも一緒で、朝私からのメールが行かないとずっとイライラ、ハラハラしているのだろう。


「やっぱりマゾっ気があるんだー
 そのうちハイヒールでふんずけてやるー」


これからどんな風にぶつかっていくのか、面白いのは これからだ。