それぞれの一分 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

夜9時にメールが来てこれから上のお嬢さんとテレビで「武士の一分」を観るという。
「doorも一緒に観るかな?」
「うん、いいよ~」


実は半年ほど前にDVDで見ていたのだけれど、この映画をたかしが娘と一緒に観るというのに興味を惹かれた。毒見役の武士が毒に当たり盲目になって勤めを果たせなくなる。その夫婦の物語だ。
一度追い出した妻が飯炊き女として戻ってくる。一口食べただけで分かる妻の料理。
その映画をたかしがどう観るのかが気になった。CMの合間にお嬢さんとどういう会話になるのか、彼女がこの夫婦愛の物語をどう捉えるのかも気になった。


映画のクライマックスでメールが入った。
「うわ~やってもうた!
始めの15分くらいで気絶してしまった」


え”~~!いまさらなんなんだよ~。
と、つぶやきながらそのままメッセに流れた。


「doorは見てなかったんだ」
「観てたよ」
「そっか、まだ終わってないでしょう」
「たかしと話そうと思って、感想とか~~~~~~~~~~~~」
「ごめーーーーーーーん、 言い出しっぺがこれじゃぁ」
「キムタクがすっごいカッコよかった~~~~~~~~~~~」
「ううううううううぅ」


先に書いた妻の料理を食べるシーンだ。


「おお良い場面だ~~、でも今から観てもわかんないよ。ここに至るいろいろがあって」
「がびーーーーーーーん」
「あ”~~~~良い場面だ~~~~ 泣ける~~~~~
  私たちの立場でちょっと微妙なんだけどww」
「wwwwwwwwwww」


たぶんたかしは別れた奥さんの料理の味をまだきっと覚えているだろう。そして私の料理を食べてもまだ分からないだろう。テレビを見ながら私はそんなことを考えて切なかった。


たかしにはたかしの一分があり、私には私の一分がある。
譲れないことは確かにある。
良いではないか、その結果があって出会ったのだから。
人生は続いてゆく。
これから私やたかしの味を覚えれば良いのだ。