期末試験と宿題、そして編み物 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「今夜はまだ終わらないんだ」
いつものメッセの時間にたかしはそう書いてよこした。
「うん、疲れているだろうから無理しなくて良いよ。どうしたの?」
「期末試験の数学」
「はっは~懐かしい響きだな~、数Ⅰは今何をやっているの?」
「サイン、コサイン、タンジェント」
「うぎゃ~私には無理。たかしは教えられるの?」
「もうわかんないから、一緒に勉強するって感じで
 だから、途中で抜けるかも。ごめんね」
「気にしなくて良いよ~私はせいぜい中学生どまりだな」
「そうなったらどうする?」
「ごめんって謝るしかないでしょ。数Ⅰなんて無理だもん」
「うん、昨日何食べたかも覚えてないのに、そんな20年前のことなんて脳みそのどこにあるかもわかんない」
「私は完全に消滅している」

私も夕食が終わってひと息つくと、子供の宿題を見る。机から離れないように、見張っている感じだ。宿題は毎日出て、一時間前後の時間がそれだけにのみ割かれる。
たかしにメールでも出そうと携帯でピコピコ始めると、息子は遊び始めてしまう。だから私は全く何も出来ない。それはやはり根気の要る時間だ。内心のイライラを抑えながら、宥めたり賺したりしながら辛抱強く見守る。


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日曜日の買い物の途中で思いついてメールを書いた。
「ねぇ、たかしは正ちゃん帽みたいなやつかぶる?もし持ってなかったら編むけど」
たかしは仕事にカジュアルで行くから、電車での通勤の時に暖かくて良いかもしれないと思った。
すぐに返事が来て
「え~、doorが編んでくれるの?そういう帽子持ってないからうれしい~
 だけど大変じゃない?」
「大丈夫、凝った編み方するつもりは無いから。
じゃぁ適当に毛糸選んで編むね」


先日たかしが着ていた黒のダウンジャケットに合うようにモノトーンの段染めの毛糸を選んだ。ちょうどたかしの髪と同じくらいの比率で濃いグレーから白のグラデーションの毛糸だ。帽子を被っても普段のたかしとそう違和感が無いだろう。

百目作ってざくざくと二目ゴム編みに編んでいく。表編み、表編み、裏編み、裏編み。その繰り返しだから見なくても勝手に手が動いていく。息子の宿題を見ながら、帽子は毎日どんどん編みあがっていく。