ぴちぴち | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「ねぇ、今日はなんて言って出てきたの?」
「うん?釣りに行くって言ってきた」
「ねぇ、それっていつも?」
「うん、いつも。今日だって車につり道具が入っているよ」
「あれ、ホントだ~~」
「じゃ、私ってお魚ってこと?」
「うん、ピチピチ跳ねてる」
ブロガーだからそれって竿が違うじゃんと突っ込もうとしたけど、余りにお下品すぎてさすがに口に出して言えなかった。



声がでる。恥ずかしいぐらいみっともなく声がでてしまう。声は意味を成さないで快感と、その歓びを伝えてる。
たかしの荒い息遣い。低いうめき声がなぜか遠くに聞こえる。
隣のおばあちゃんは耳が遠いことにしておこう。
「たかし、たかし、たかしぃ」
私の身体は動いているうちに何度も布団からはみ出して、気が付くとたかしにずるずると引き戻されている。
「気持ちいいいいいいい」
頭の中は快楽を辿ることでいっぱいになっていた。
メッセでのやり取りの中でたかしは
「セックスがこんなに気持ちのいいものだなんて、なんだか今まで損してた気がするー」と書いてよこした。
純粋に繋がることの喜びを心でも身体でも感じている。
体温、肌触り、匂い、声、体中で彼を感じる。そして私を伝える。
体中にキスをして。



「doorの高校生時代はどんな?」
「どんなって?」
「性的興味」
「ヤキモチ焼くから言わない」
「ははは」
「早熟だったかも」
「ヤキモチ焼きそうだ」
「普通にエッチなことには興味があっても今みたいにネットがあるわけじゃないから情報源が無いでしょ。ビデオとかも無いし」
「そりゃそうだ」
「普通の目立たない男子高校生はどんなだった?」
「高校は帰宅部」
「何してたの?」
「あまり思い出がないんだな
  ほんとに普通に暗かった。なんかそういうのに縁がなかったし」
「初めてHしたのは いつ?」
「ずっと遅くて大学生」
「doorは?」
「17歳かな」
「はやっ
ぴちぴちでHかー」
「うん まぁ、相手もぴちぴちだ」
「いっぱいHしてたの?」
「いっぱいって …相手も高校生だからな」
「毎日とか」
「まぁそんな勢いだね
 ……ヤキモチ焼いてる?」
「うん めちゃくちゃ」


たかしの早かった結婚と、大学生の時の初体験の相手は同一人物なのだろうか。
だとしたらあまりそこには突っ込めない。
「ねぇ、まえにそういうお店に行ったことがあるって言ってたでしょ」
「うん」
「それっていつ?」
「2年ぐらい前かな」
「どういうお店?」
「うんと、こういうのはしなかった」
「手とかお口とかでしてもらうようなお店?」
「うん」
「お店の人ぴちぴちだったでしょう」
「うん」
「くやし~ぃ」
たかしの身体の上に乗って繋がったままだというのに私は身悶えして嫉妬した。何にだろう。私だってぴちぴちだった頃はある。恋愛ホルモンのせいか、このところお肌の調子も上がってきたと思える。
そんなことじゃない。


「どうしてそんな、そんなお店に行ったの?」
「ん、なんとなく…寂しくて」
2年前、多分彼の新しい生活が落ち着いて無我夢中から一歩抜け出した時。このまま働くだけで年老いていくのかとふと虚しくなる時。そんな時が彼にもあったんだろう。私にも在った様に。
仕事でそれをしている娘には何の興味もない。でもたかしがそんな気持ちになったことが可哀想で辛かった。その娘はたかしに優しくしてくれたのだろうかと気に掛かる。彼は私自身をも投影している。私が感じたくやしさは自分への哀れみでもあるのだ。やりきれなさ、虚しさ、寂しさ。
だけど今がある。今は寂しくも虚しくもない。たかしの体温が暖めてくれる。