紅、金に染まる | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして


071118_1203~001.jpg 宮が瀬ダムに紅葉を観にいこうね。
ずっと前にした約束。

たかしと二人で宮が瀬のあちらこちらをそぞろ歩いて紅葉や黄葉や、まるで絵の具を流したようなグリーンの湖面を楽しんだ。

イチョウの木のところまで来ると、風が落ち葉に染められて黄色く変わっていく。

私たちはダムの上からエレベーターで下って、その落差と規模の大きさに驚いたあと、インクライン というケーブルカーに乗った。


「このチケットで往復もできますよ」

威勢のいい案内のおばちゃんが親切に声を掛けてくれた。
とても急な角度。これを下っていくのはさぞかしスリルがあるだろう。
たかしと話してインクラインから降りないでそのまままた下ることにした。
別に急いでるわけじゃない。帰りはまたエレベーターで昇っていけばいい話だ。
案内のおばちゃんによると、紅葉は来週が本番でしょうとのこと。
でも今日だってとても綺麗。
ダムの上手のほうから見る紅葉は素晴らしかった。

「このダムは新しいんだね、私知らなかったもの」
「うん、そうだね、完成は比較的新しいみたいね」
ケーブルカーの先頭に立って飲み込まれそうな絶壁から眼下を望んでいると、脇から聞き覚えの無い声がした。


「あれ?どっかで聞いたような声がすると思ったら…」
「おぉ、どうしたのー」
たかしの応える声。
先ほどから脇に立っていた家族連れだった。
「お父さんの会社の人だよ」と、自分の子供に言い聞かせている。
(えぇーっ!会社の人?)一瞬パニックになるけれど、曖昧に笑顔で対応するしかない。胸がドキドキする。イチャイチャしているときじゃなかったのが、せめてもの救いだ。


「今日は、お子さんは?」
「いや」

短く応えるたかしの声。
「二人で来たんだぁ」
「うん、そう」


誰に後ろ指を指されるような関係ではないけれど、やっぱりドキドキしてしまう。
私って奥さんに思われているんだろうか。そしてこの人は私の知らないたかしを知っているんだろうなと思う。
男の人同士の会話はそこで止まって、私たちは外の光景に集中した。
下に降りると、そのままエレベーターに向かう。


「見つかっちゃったね」
「うん、あの人は営業の人で××の人じゃないから大丈夫ー、いつもおかしなところで逢うんだよ。ディズニーランドとかさぁ」
「そう、それなら良かった」